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ローザス製作『3Abschiedドライアップシート(3つの別れ)』(2)

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2010年08月27日 15:33

更新: 2010年09月13日 12:25

ソース: intoxicate vol.87 (2010年8月20日発行)

text:長木誠司

マーラーを創作の師としてだけではなく(実際に師事したわけではないものの)、心の師とも、あるいは芸術活動上の父とも思っていたアーノルト・シェーンベルク、この十二音技法の祖にして20世紀最大の作曲家のひとりも、マーラーの《大地の歌》に魅された作曲家であった。彼は巨大な編成のオーケストラを必要とするこの作品を、もっと広く知ってもらいたいために、13人のアンサンブル用に編曲しようとした。残念ながら、全6楽章の編曲は完成されなかったが、後の研究者が補って、全曲を小編成で演奏できるようにした。もちろん、独唱部分は変更なく、マーラーのオリジナル通りに歌われる。作曲家のシェーンベルクと並んで、演奏家としてマーラーの薫陶を一番に受けたのは、大指揮者のブルーノ・ワルターであった。彼の演奏するマーラーは、メンゲルベルクのそれと並んで、20世紀後半のマーラー演奏の手本となったし、またそれは録音を通して語り継がれ、多くの聴衆を魅了し、感動させ続けてきた。

今回、この〈告別〉、そして〈死〉を演じる、あるいはパフォーミングすることを決断したケースマイケルにとっても、マーラーとの出逢い、あるいはこの《大地の歌》との出逢いは決定的であったようだ。彼女の音楽趣味は多様だが、クラシック音楽の使用にも、常に趣味のよさと、けっして劣化しないセンスの良さ、そして同時に果敢な先鋭性が見られ──ダンス関係者は、ことクラシック音楽になると、けっこうダルな趣味を持つことが多いけれど、彼女の趣味はクラシックの専門家をも唸らせるところがある──、シェーンベルクやその門下であるウェーベルン等も、これまで好んでダンスに用いてきた。だから、今回用いられる《大地の歌》も、このシェーンベルク版である。そこでアンサンブル・イクトゥスの出番となる。

©Herman Sorgeloos

実は、『3つの別れ』は単なるダンス・パフォーマンスに留まらない。そこには、いろいろな仕掛けが仕組まれているようだ。ネタバレを覚悟で少し全体の構成を紹介すると、まずこの作品はいわゆる工房からの作品で、一見すると正式な公演のようには思われず、楽屋落ち的な雰囲気をも忍ばせる。舞台中央に登場しているアンサンブル・イクトゥスの面々も、そしてそのなかに登場するケースマイケル自身も、みな普段着のままである。Youtubeでのその一部が見られるが、これはけっして練習中の映像なのではない。本番なのだ。

普通ならば、アンサンブルが舞台上にいるのだから、即座に演奏してパフォーミングが開始されるはずである。しかしながら、どうも『3つの別れ』ではそうは行かないらしい。出てきたケースマイケルは、やにわに録音された《大地の歌》の断片を流す。イクトゥスはしばらく一音も発しない。そして、音楽が停まるとケースマイケル自身が長々と語り始める。こんなソロ・ダンス・パフォーマンスがあるだろうか。この語りのなかで、われわれはいろいろなことを知る。いま聴いたのがキャスリーン・フェリアーの独唱とブルーノ・ワルターの指揮による歴史的な《大地の歌》の録音であること、そしてなぜこの音楽にダンスを付けようと思い立ったのかということ等々。

それにしても、なぜなのだろう、この曲に振り付けするとは? 知りたいひとは、ぜひパフォーミングを見るべし。音楽好きには、彼女がバレンボイムに相談したときの逸話などが面白かろう。ちなみに、彼女はもともと、この作品を歌いたかったのだそうだ、踊るのではなしに…。

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