LUVRAW & BTB
メロウなアーバン・サウンドに熱い胸さわぎ
湾岸沿いのカーブを爽やかに曲がると、不意にネオンが明滅する裏道が目の前に現れて、ヤンキーとナードとギャングスタと呼び込みの兄ちゃんに出くわしてしまったような気分になる。横浜のクルー・PAN PACIFIC PLAYA(以下PPP)から、夏のいかがわしさや胸騒ぎを快く届ける『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』が吹き込んできた。風の送り手はLUVRAWとBTBのトークボクサー・コンビ、LUVRAW & BTBだ。
夏は最高すぎる
——メチャクチャ夏っぽいアルバムなんですけど、リリース時期も意識してました?
LUVRAW「それは完全にありましたね。基本的に夏は最高すぎるんで。情景が浮かぶのが良い音楽だと思ってるんですけど、聴く人の意識を冬よりは夏に飛ばしたいし。海にいるみたい~とか」
BTB「去年も夏にアルバム出すって決めてましたね(笑)」
LUVRAW「今年無理だったらまた来年か……と思って。TUBEみたいに季節モノの扱いになりたいです」
——PPPっていつも掲載ギリギリで音が届くんですけど、そんななかできちんと出るのも快挙だと思いましたね。
LUVRAW「俺もそれは凄いと思いましたね……」
——7インチの“ON THE WAY DOWN”が出た昨年の時点でアルバムの設計図は見えてたんですか?
BTB「ないですね。アルバム作ろう作ろうってのはずっとありつつ、ライヴ用にデモを作ったりはしてた」
LUVRAW「いつもライヴしてるんで、そこで試して良かった曲はずっとやってるけど、デモのままあんまり進まずに1年経つ、とか。誰かしらに毎週のように言われるし、作んなきゃ、ってのは常にあったんですけどね」
——完全にコンビでの制作なんですか?
LUVRAW「特攻(BTB)さんがすげえ量のビートを作って一気に送ってきて、それが良かったら……全部イイんですけど、ハマリそうな曲に例えば俺がメロディーを入れて、みたいな」
BTB「鶴くん(LUVRAW)もデモを作ってるし、互いに一人でやれるんですけど、あえて完全にソロで作った曲はないですね。俺がトラックやったら歌は鶴くんで、とか巧く交わる感じはあるっすね。話し合ったわけじゃないですけど」
LUVRAW「面倒臭がってるんじゃないっすけど(笑)、途中でこの先できねえな~って思ったら特攻さんに投げてみて、返ってきたものに乗せて仕上げたり。そういう意味では行き詰まったりはしないですね」
——コンビならではの何かがあるわけですよね。
LUVRAW「まあ……格好良いすからね、特攻さんは」
BTB「俺も鶴くんはヤバいと思ってる(笑)」
——なんで褒め合ってるんですか(笑)。
LUVRAW「でも、普通ですよ。最初っからあんまり変わんないですもんね」
BTB「ずっといっしょにライヴをやってるからこそ、何も話さなくてもわかる、みたいな」
センスが良くないとダサい
もしかしたらBTBこと特攻の名をレッキンクルーの一員として記憶している人もいるかもしれない。レッキンクルーといえば、ZEN-LA-ROCKらと並んでゼロ年代初頭からエレクトロやベースを推進していたユニットだが、そういえば彼らの初作にはPPPの前身ともいえる16連打(脳、空手サイコ、KESら)のリミックスもあった。
——そもそもコンビになったきっかけは?
BTB「もともと紐解くと、PPPのほとんどのメンバーを俺も昔から知ってて、脳くんを通じて鶴くんの存在を知ったっていうのがありつつ、単純にトークボックスを始めた時期が同じだったってだけですね」
LUVRAW「それだけっすよね。俺が〈MAGNETIC LUV〉ってパーティーをやってて、ちょうどその頃に特攻さんと会って、トークボックスにも出会って……曲もなかったんですけど、ライヴやんなきゃ、と思って」
——最初から何となく波長が合ったんですね。
BTB「THUGRAW(脳)、LATIN QUARTER、KESだったりに影響を受けた部分は俺もデカかったりするし、そういう共通項はあったというか」
——共通項という意味では今回のアルバムのゲストも、同じムードを共有してる人たちが集まっていますね。
BTB「ZEN-LA-ROCKとか(サイプレス)上野くんとかやけ(のはら)くんはライヴでもいっしょになることが多くて、普通にその流れです。PUNPEEとS.L.A.C.K.だけは少し違って、やってみたいと思ってオファーして。レコーディングもライヴを観てるような感じでしたね」
LUVRAW「制作の中盤ぐらいで急に決まったんすよね」
——制作途中で全体のバランスを考えるようになった?
BTB「それは確かにありますね。いっしょにやってる全員、凄い、かっこいい、っていう感じで、これは凄い作品になるな……と思ってました。あと、KASHIFくんのギターがヤバくて。最初は2~3曲の予定だったのが、良すぎてもっと弾いてもらおうと」
LUVRAW「KASHIFくんは湾岸ノリのJ-Popを作らせたらいちばんの才能ですよ」
——他にもJINTANAさんがスティール・ギターを弾いてたり、Mr. MELODYさんも参加してますが、PPPはみんなセンスが良いというか……。
LUVRAW「いや~、センスが良くないとダサいですからね。PPPから出す以上ダサいのは作れないし。いつも気にはしてないすけど、脳さんとか空手(LATIN QUARTER)さんがイイって言ってくれなきゃしょうがないんで」
——反応はどうでしたか?
BTB「あんま何も言われてませんね(笑)」
普通のを作っても普通
——PPPは記号的にアーバンとかメロウとか言われる場合がほとんどだったり、あえてヘンテコなことを狙ってるように思われてそうですけど、メチャクチャ直球で気持ち良い音を作ってるってことは知られてほしいもんです。
LUVRAW「ああ、〈超アーバン〉とか言われるんすけど、別にそれはPPPだから普通なんです。普通にリアルな水っぽさとかありますけど。全然変化球でも何でもないのに、ストレートすぎてわからないんですかね」
BTB「アートワークのイメージもあるんだろうね」
——今回は“Emotions”をカヴァーもしてますし、コンピには“SLOW & EAZY”もありましたけど、いわゆるトークボックスもののアーティストとはまた違って、ロジャーのフォロワーっていう感じは薄いですよね。
LUVRAW「ロジャーはトークボックス的な意味じゃなくても好きすぎるし、最高すぎるんで、同じことはできないっていうか。普通の作ってても普通でしょ、っていうか」
BTB「フィンガズなんかはメチャメチャ上手いじゃないですか。俺らはローライダーのいる場所で遊んでるわけじゃなくて、ハウスのパーティーでライヴしたり、PPPとかを通じて遊んできたものがやっぱり違うし」
——どう遊んできたかっていう点では、テクノやハウス経由のフュージョンっぽさとか、エレクトロ・ファンクやブギーの捉え方とかは音にハッキリ出てると思います。
BTB「ああ、だったら嬉しいっすね。デトロイト・テクノからフュージョンに繋がる感覚とか、そことブギーの近さとかありますもんね。それにサウンド全体を聴かせたいんであって、トークボックスってだけでもないですから」
——その部分はデイム・ファンクにも通じますね。
BTB「一時期は物凄く影響されましたね」
LUVRAW「新しいことをやられた衝撃は何もなくて、やりすぎでしょ! そこまでやっちゃうんだ!ってのが衝撃でしたね。そういう聴き方してないとすげえ新しいように聴こえるんだろうけど。登場のタイミングもバッチリだったし。超かっこいいです」
——LUVRAW & BTBの登場もバッチリのタイミングじゃないですか。しかし、どうしても爽やかなインタヴューにならなくて申し訳ないんですけど、これは普通に女の子にも聴いてほしいですね。
LUVRAW「ホントそうです。なので、トークボックスどうこうじゃなく、普通にレイドバック音楽としてチークタイムしてくれれば……家でゆっくり音楽聴く時間とかに聴いてくれれば最高だなって思うんですよ」
実際に彼らの音から漂ってくる浜風は、根拠なく何かが起こりそうな、わけもなく心が疼くような色気を孕んでいる。そして、理屈抜きで気持ち良くさせられるのだ……ってことで、次の風が吹くまではこの『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』にお世話になりましょう。それでは良い夏を。
▼『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、サイプレス上野とロベルト吉野の2009年作『WONDER WHEEL』(Pヴァイン)、TONO FROM CIAZOOの2009年作『TONO SAPIENS』(C.I.A)、PSGの2009年作『David』(ファイル)
▼関連盤を紹介。
左から、LATIN QUARTERの2008年作『LOST』、脳の2009年作『SWEET MEMORIES』(共にPAN PACIFIC PLAYA)、JINTANAの所属するParCodaNの2009年作『FRESH ParCodaN』(Bumblebee)
▼LUVRAW & BTBの参加した2009年のコンピを紹介。
左から、『Juicy Fruits』『Seaside Town』(共にSWC)