INTERVIEW――羊毛とおはな 『LIVE IN LIVING '10』
リヴィング・ルームでライヴをしているかのよう──ユーモラスなアイデアでまた新たな〈居心地の良さ〉を提案する、シリーズ最新作完成!
「最初は本当に狭い場所からスタートしたような感じなんですよ。アパートの○○荘みたいな」(市川和則、ギター)、「実際、〈'07〉は2畳ぐらいしかないブースでレコーディングしたし(笑)」(千葉はな、ヴォーカル)とメンバーが語るように、歌とギターというミニマムな弾き語りを軸に、奥行きのある音響を追求したり、必要最小限の楽器を加えたりしつつ、徐々に〈間取り〉を広げてきた羊毛とおはなのアコースティック・シリーズ〈LIVE IN LIVING〉。〈まるでリヴィング・ルームでライヴをしているかのよう〉というテーマのもと、2007年にスタートしたこのシリーズも今回で4作目。最新作となる『LIVE LIVING '10』は、スティーヴィー・ワンダーの“Sir Duke”や井上陽水の“少年時代”など、誰しも一度は耳にしたことがあるだろう名曲のカヴァーに加え、NHK「みんなのうた」で放送された“あくび猫”や、映画「さんかく」の主題歌である“空が白くてさ”といった話題のオリジナル曲を収録するなど、いつにも増して幅広いリスナーが楽しめるような間口……もとい、間取りの広い作品に仕上がっている。
「今回はイメージ的には12畳くらいですね。前作より少しだけ広くなったような感じがします」(千葉)。
「間取りとしては、これぐらいでいいなと思います。これ以上広がると、自分が生活してるのを想像できないので(笑)」(市川)。
ウッドベースとパーカッションを交えて賑々しさを増した前作〈'09〉に引き続き、今作ではダンボール、ビニール袋、菜箸、タイプライター、毛玉取り器(!)など、さまざまな日用品を楽器として使用するユニークな試みにチャレンジしている。
「〈リヴィングでのライヴ〉というテーマの作品なので、実際に普段使っている日用品を工夫して演奏したらおもしろいんじゃないかと思って。私たちの作品を親子で聴いてくださってる方もいらっしゃるみたいなので、〈音楽ってすごく身近なものだし、気軽に演奏できるんだよ〉ということを演奏を通じて伝えたかったんです」(千葉)。
収録された楽曲をその場で実際に流しつつ、「これはお米を研ぐときのシャッシャッという音を、シェイカー替わりに使っているんです」(千葉)、「○○○○○(某ショップ)のビニール袋を叩くと結構いい音がするんですよ(笑)」(市川)など、メンバー直々に解説を受けながら進んでいったこの日のインタヴュー。即席楽器について話す、その楽しそうな口ぶりから、〈音を鳴らす〉という極めてシンプルな音楽表現をスタジオで嬉々として追求する2人の姿を容易に思い浮かべることができた。
「使えそうなものを手当たり次第に持ち寄ったんで、スタジオがぐちゃぐちゃになりました(笑)。でも、レコーディングは本当に楽しかったです」(千葉)。
「ダンボールの低音をどうやったら上手く録れるのか、いろいろ試したり。今回のレコーディングではエンジニアさんにも大活躍してもらいました」(市川)。
事前にリハーサルを重ね、ある程度アレンジを固めてから臨んでいたという過去3作から一転、今作では「スタジオに入った時点で曲だけがあって、〈さあ、どうしようか〉とみんなで考えていく」(市川)という、現場での閃きや偶発性を活かしたレコーディング・スタイルが採られている。
「いろんなことをあらかじめ固めてからスタートするのはちょっと違うなと、今回は思ったんです。もっと鼻歌に近い感じというか、そのときの気分をそのまま歌や演奏に出したいなと思って。結果的に今作では私たちの出したかった空気感が、シリーズ中いちばんよく出てるんじゃないかと思います」(千葉)。
そんな満足感を胸に、2人はリヴィングを飛び出して、いざ屋外へ──秋には、牧場や森での演奏風景を5.1chでフィールド・レコーディングしたDVD「LIVE OUT LIVING(仮)」の発表も控えている。音と空間を巡る羊毛とおはなの旅は、これからもまだまだ続いていく。
▼羊毛とおはなの作品を紹介。
左から、2008年作『こんにちは。』、シングル“手をつないで”、2009年作『どっちにしようかな』(すべてLiving Records Tokyo)
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