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インタヴュー 立川談志(2)

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2010年07月27日 18:46

更新: 2010年07月27日 20:35

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

Interview & text:草柳俊一(レコーディング・エンジニア/落語研究家)

よく帰っちゃったこと

──町田の「居残り佐平次」は帰っちゃう事件未遂の時のやつなんですが、帰らなくて良かったかと。

あの時は久し振りに帰りたくなったね。でも戻ってあの「居残り」だろ。どうなるかわからないもんだね。ま、「居残り」と同じ全て成り行きって訳。人生成り行き。いや、帰ったことはよくあるね。いろんな理由で。「こんな下手な漫才の後には上がれねえ」って帰っちゃったり。その時は放送ですけどね。その時上がってた奴ってのが「のいる・こいる」なんだ。こないだ「おまえら俺が帰ったの覚えているか?」って聞いたら、「覚えてます」って。あのくらいはギャグになるんだ。それから俺の独演会っていうのはね、俺しかでないんだ。他の人みたいに前座を使わない。俺が行かなきゃ始まらないわけね。北海道放送、札幌でね、遅刻してとっくに定刻を過ぎているの。客席のドア開けてね、俺がね「早く始めろ、このヤロー!」って言ったんだ。周りは驚きやがってね。(笑)

──そういうの、いいサービスですね。(笑)いや、サービスかな?(笑)

ずいぶん、帰っちゃったな。三越落語会ってのがあってね、前のが延びて随分遅れちゃったから、師匠の前で休憩とりたいんです、っていうから、嫌だ、俺は早く上がりたいし、客の食事を遅らせりゃあいいじゃないかって。聞きたくなきゃ落語なんておっぱらかしていくだろうし、そんなもん嫌だって言ったら、なんとかしてやってくれっていうし、嫌だっていうんで、着物をたたみはじめたんだ。そうしたら三遊亭圓遊師匠(先代)が驚いてね、芸人のくせに頼まれた仕事を平気で放り出して帰っちゃうなんて、初めてみたらしい。もっとも、この人は幇間持ちもやっていたせいで、余計驚いたのかもしれないけどね。その後で、柳家小さん師匠がここに出ることになっていたのだけど、ダメになったので、代わりに談志を出させますといったら、向こうが「頼むからあの人だけは勘弁してくれ」って。「お前、断られちゃったよ」って小さん師匠に言われたけどね(笑)。俺の代わりに師匠が行ったこともあったね。粋なもんだろって言ったんだよ、鈴本に。弟子の代わりに師匠が来るなんてのはね。そうしたらね、「そうはいうけどね、あなたね。林家三平さんが休んで、橘家円蔵さん(先代)が来るのは困ります」って。(笑)そりゃあ、そうだよね。師匠が売れてればね。(笑)

シャレで俺の代わりに、今の里う馬、前座の談十郎をおくったんだよ、二つ目になってたかな。いいでしょう。師匠の代わりに前座が深いところに上るなんていうのはって言ったら、冗談じゃないって鈴本が文句いってたよ。シャレにならないって。なるだろ、って言ったら我々の世界で「シャレがきつすぎる」ってヤツね。「シャレがきついよ」って。

──小さん師匠が行くときって、快く行ってくれたわけですか?

そうだね。親子関係みたいなもんだったんだよ。俺が泊まると、ふとんの四隅を押さえてくれるような人。だからなんでも言えた。喧嘩なんて年中だよ。師匠に平気で小言言っちゃうしね、「うるせえや、どうのこうのって」「うるさくねえや」。でね、どっちが受けるの受けないのとかでね、「じゃあ二人会やろう」って。「俺と二人会やったら、師匠やる前に客は全員帰っちゃうよ」って。讒謗だよね。(笑)「うるせえ、馬鹿野郎」って。流石にね。俺のことなぐってね。なぐるったって、ちょいと頭はたくくらいですけどね。そのくらいの間柄だからね。何でも言えたしね。何でも言えるような状況を俺が作ったつもりでいたわけよ。

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