対談 Shanti×小沼ようすけ
SHANTI:「テープを回しっぱなしにして、小沼くんが弾いたフレー ズに対して、〈それいい!〉みたいな感じで歌ってたら、いつのまにか曲(Our Song)が出来ていた。私は絵も描くんですけど、葉山で個展を開いたときに小沼くんが観に来てくれて、〈SHANTIはこういう人なんだ〉って理解して くれたみたい」
小沼:「僕はヴォーカリストとデュオでやることが多いけど、SHANTIが持っているアンテナって感度がものすごく良くて、僕が悪いエネルギーを発したりするとすぐ察知されるんですよ」
SHANTI:「フフフ、わかっちゃってたんだ(笑)」
小沼:「こっちが音をポンと与えてしまえば、相手が外に広げてくれる。間や空気感で受け取ってくれたかどうかすぐわかるんです。僕はそういうやり方で音楽を作っていくのが好きだから」
SHANTI:「私 は自分が安心できる人とじゃないと音楽ができないというか。たまにライヴで飛び入りとかするんですけど、自分が違うと思うエネルギーが流れている場所だ と、断っちゃうこともあって。だから小沼くんのように歌詞を理解してくれたりするプレイヤーじゃないと、マックスでパフォーマンスができなくなるんです」
──生活のなかで育まれたリズムがそのまま反映されているような実にパーソナルな感触を与える楽曲たち。オリジナル曲だけでなく、ロバータ・フラックの《Killing Me Softly With His Song》やサザンオールス
ターズの《真夏の果実》といったカヴァーなどにも共通して感じられるものだ。さて小沼氏の感想はどうだろう?
小沼:「すごくナチュラルでピュア。SHANTIの絵を見たときに感じた印象がそのまま表れてる。純度の高いジャズというか(笑)」
SHANTI:「(笑)。 ずっとジャズを聴いてきた人からすると、はてなマークが出ちゃう人がいるかもしれない。でもジャズってものすごく成熟した音楽で、その世界からオリジナル な音楽がたくさん生まれていますよね。『Born To Sing』はポップスとしても機能すると思うし、聴きやすく、かつ聴き飽きないものになっていると思うんですよ」
──時を同じくして小沼ようすけもニュー・アルバム『Jam Ka』を発表する。前作『ビューティフル・デイ』で示された小沼流サーフ・ジャズがより鮮やかで滑らかに表現された作品に仕上がっている。
小沼:「カリブのグアドゥループのパーカッショニストをふたり招いてニューヨークでレコーディングしたんです。アフリカン・リズムから発展したグオッカっていう独自のリズムがあるんですけど、なんか西洋音楽とすごくマッチするんですね。それと今回はジャムをしたんですよ」
──両方のアルバムに共通しているのは、過去に対する温かい視線。ノスタルジーの表現における〈光〉の使い方の巧さだ。
SHANTI:「あぁ、そうか。おもしろいね!」
小沼:「そうですよね。確かにSHANTIのこれまでが見えてくるから、やっぱり彼女のアルバムだって思えるわけだし。自分の生活がそのまま音楽になっているなら、そこが居心地良いものになるしね」
SHANTI:「加工して出したくないというか、シンプルに自分らしくあることはふたり共通しているかな。強いこだわりを持っているけど、それを誰かに強制したりしない音楽っていうか、そういう部分って小沼くんが海の近くに引っ越してから強くなったものじゃない?」
小沼:「そうだね」
──ちょっと訊いてみたかった。ふたりにとって不快な音とは?
小沼:「例 えば波の音ってかなりデカイじゃないですか。あとカミナリの音とか、怖いけどうるさくない。ところが誰かがカミナリのような音を出していたならすごくうる さく感じる。意図的に鳴らされた音って、どこかノイズに感じる。ただそれを人の感性を通じて、必要な音として鳴らしていたなら、純粋な音、アートになるん だけど」
SHANTI:「私が嫌いなのは、街中でいろんな音 楽が必要以上に混ざり合って聞こえてくるとき。私たちは一般の人よりも音を無視できない、シャットアウトできないのかも。そうそう、ヨーロッパのクラブに 行くと、すっごく音がおっきいんだけど、周波数のコントロールができているんですよ。だからベース音がグワッと迫ってきているのに、ヒタヒタに浸れる気持 ち良さがあるの」
──そこから対話は日本の音楽教育の話にはじまり、最近の若い子たちの音楽聴取の有り様についてまで、多岐に渡って展開 していく。結果導き出されたのは、もっと多様なものがあって良いじゃないかってこと。そのために自分たちがやらねばならないことは、より自由な表現をめざ して精進するしかない、ということでした。
SHANTI:「こ れまでの10年間の活動で勘違いされていたことがあって。SHANTIは意欲が足りない、とか。シンガーって〈私が、私が〉って自己顕示欲を提示したがる けど、私はそういう欲がまったくなくて。SHANTIさんの野望は何?とか訊かれるのがいちばん困る(笑)。自分を狭めちゃうような大きな目標が嫌という か、こうならなきゃいけないと考え出すと不自由になっちゃう」
小沼:「あまりゴールを考えすぎると、通過地点に落ちているラッキーなことを見失うことが多いからね」
SHANTI:「そうなの! みんな前に進むことばかりに忙しい気がして。答えは〈いま〉のなかにしかないのに。そういう感覚って〈自然〉と触れ合っているとわかったりしない?」
小沼:「海を見てると、〈いま〉がいいなぁ、って思うもんね」
SHANTI:「海のなかだと、この瞬間にしか存在しない自分が発見できたりする。そんな感覚を理解してくれる人は私や小沼くんの音楽を愛してくれると思う」
──最後に質問。もしふたりだけのデュオ・アルバム作るとしたら?
SHANTI:「レコーディングはハワイで! 小沼くんはサーフィンができるところだったらどこでもいいと思う」
小沼:「俺、ハワイに行ったら、ダメになると思う(笑)。ウクレレばっか使っちゃったりして、ジャジーなものとかできなくなるかも」
SHANTI:「ギターと歌の場合って、ギターに負担がかかると自由になりづらくなる。でも小沼くんとなら単調じゃない自由な音楽が作れる気がする。しっかりとお互いの世界観を実現できるんじゃないかって」
『SHANTI Born To Sing Tour 2010
Supported by Mt.Rainier Double Espresso』
7 月 10 日(土)葉山・LA MAREE DE CHAYA
7 月 17 日(土)中目黒・楽屋
7 月 18 日(日)名古屋ブルーノート
7 月 20 日(火)大阪・ミスターケリーズ
7 月 23 日(金)横浜・モーション・ブルー・ヨコハマ
9 月 5 日(日)東京・コットンクラブ
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