ビル・エヴァンス没後30年企画盤『エヴァーラスティング ビル・エヴァンス~オールタイム・ベスト<完全生産限定盤>』 制作裏話対談
掲載: 2010年06月22日 12:33
更新: 2010年06月24日 21:58
ビル・エヴァンス没後30年企画盤『エヴァーラスティング ビル・エヴァンス~オールタイム・ベスト<完全生産限定盤>』制作裏話対談
出席者:柳瀬河みずほ氏(ライター/『エヴァーラスティング〜』の書き下ろしのライナー、楽曲解説を担当)
馬場雅之(タワーレコード商品本部/エヴァーラスティング〜』の企画を担当)
馬場:お店に出ていた時代によく「ジャズ・ピアノのお薦めってどれがいいですか?」と聞かれた時、ビル・エヴァンスのアルバムをけっこう薦めていましたね。
柳瀬川:それはどうしてですか?
馬場:ハズレがないんですね、ビル・エヴァンスって。どのアルバムも一定のクオリティというか。
柳瀬川:私もそう思います。私は普段ジャズのアルバムはレーベルで聴く、というのがモットーなんですが、ビル・エヴァンスの場合はそれと同じ聴き方をします。
馬場:それは面白いですね。どのアルバムにも音楽に一貫したカラーがあるということですよね。
柳瀬川:和声の響きとか、フレーズになんともいえないリリカルな雰囲気があり…。
馬場:ピアノのタッチに独特のロマンティシズムを感じますよね。簡単にいうとお洒落というか。
柳瀬川:この『エヴァーラスティング』に収録された曲はエヴァンスの魅力がはっきりとわかる代表曲ばかりですね
馬場:このアルバム買えば、他はいらないという(笑)
柳瀬川:いえいえ、私はそこまで言いませんが、でも初めてエヴァンスを聴く人はこの2枚組でまずは十分かもしれないですね。
馬場:ディスク1の最初に持ってきた曲が《いつか王子様が》なんですが、これは小玉ユキさん作の人気少女コミックで『坂道のアポロン』という青春ジャズ・コミックを意識しました。
柳瀬川:私も読みました。主人公の男子校生の一人がジャズ・ピアノに目覚め、好きな女の子に聴かせるために気持ちの中でビル・エヴァンスになりきってこの曲を弾いてみせるという場面がありますよね。
馬場:そう、エヴァンスという存在がそこに出てくることがマンガとしてもカッコいいんですよ。
柳瀬川:この曲の次が《枯葉》。そして《マイ・フーリッシュ・ハート》《ワルツ・フォー・デビイ》と。エヴァンスといえばコレ!といった曲が続きます。
馬場:《マイ・フーリッシュ~》《ワルツ~》はオリジナルのアルバムでも連続して収録されていますが、この流れは絶対崩せない、完璧な部分ですよね。
柳瀬川:そうですね。また今回のこのベストはエヴァンスのトリオでの演奏をチョイスしていますね。
馬場:エヴァンスといえばトリオによるインタープレイです。3者が対等な関係で音楽を会話しながら作り出すというような。
柳瀬川:異色作の『フロム・レフト・トゥ・ライト』でのボッサ音源や晩年のワーナー時代の《ウィ・ウィル・ミート・アゲイン》《M*A*S*Hのテーマ》も聴けるところもいいですね。
馬場:ディスク2にはフルートのジェレミー・スタイグとの《スパルタカス~愛のテーマ》もあり、一番最後はモニカ・ゼタールンドと共演の《降っても晴れても》なんてヴォーカルものも入っています。
柳瀬川:最後にヴォーカル曲なんて、ボーナス・トラックみたいでいいですね。こうして聴いてみると、ただ時代順に並べた風でもないんですよね。
馬場:録音された時代とかに関係なく、同じ曲調、テンポのものが続いてしまっていることがないようにアルバムとして音楽の流れみたいなものは大切にしました。
柳瀬川:実際これらの曲はタワーレコードはもちろん、他のCDショップのジャズ担当の方々からのリクエストで選ばれたというのは本当ですか?
馬場:ビル・エヴァンスというアイコンはジャズというジャンルの中ではとても大きいんです。それならみんなで盛り上げませんか?というお話でリクエストをお願いいたしましたらみなさん、快諾して下さって。
柳瀬川:現場のジャズ担当者が選んだビル・エヴァンス・ベストなんてこれまでないですよね。
馬場:そういう意味ではユーザー目線にもっとも近く、最初に言ったようにお店で「ジャズ・ピアノのお薦めってどれがいいですか?」と聴かれた時…。
柳瀬川:この『エヴァーラスティング』をご案内さしあげると。
馬場:そういうことです(笑)