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HOW SWEET TO BE AN IDIOT――オアシス節を育んだブリティッシュ・ロックの大いなる遺産

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2010年06月09日 18:00

更新: 2010年06月09日 18:00

ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)

文/轟ひろみ

 

オアシスといえばシングルのカップリングに人気曲が多かったのも特徴のひとつだが、そこには手抜きのないメチャクチャ良い曲が単純に揃っていたのと同時に、バンドの(というかノエルの)ルーツを種明かしするようなカヴァーも多かった。例えばビートルズなら“I Am The Warlus”や“Helter Skelter”が、ローリング・ストーンズなら“Street Fighting Man”が……というふうに、いずれもオアシス映え(?)のする比較的ストレートな名曲が選ばれていたのだ。そうでなくてもオリジナル曲の節々にはザ・フーやキンクス、スモール・フェイセズ、ジャム、そしてスミスといった伝統的な(表通りを歩んだ)英国ロックの滋養が目に見える形で溶かし込まれていて、逆に言うと、隠れた名曲をチョイスしたり、いろんな棚のレコードを掘った成果を反映させたり、そういったセンスの良さや振り幅のアピール(悪いことじゃない)をまるで行ってこなかった点からも、バンドの率直にして無骨な本質は浮かび上がってくることだろう(よく考えればブリット・ポップのなかで、サウンド的にもっともノー・ギミックだったのは彼らじゃないか)。ある種の英国ロック勢に特有の、US黒人音楽へのまっすぐな憧憬がほとんど見られないのも、よく考えれば凄い。

そんなふうに楽曲を職人的に作り込んできたノエルだけあって、よく指摘されるセックス・ピストルズなどパンク勢との相似点は、表層的な部分を除けば楽曲にはさほど現れていない。モット・ザ・フープルの“All The Young Dudes”(その作者であるデヴィッド・ボウイの“Heroes”もカヴァー)をモロに援用したり、T・レックスをリフごと持ってきたり、ゲイリー・グリッターを引用したり、スレイドの“Cum On Feel The Noize”をカヴァーしていたり、むしろグラム系の楽曲に共通点が多く見い出せるのは、ノエルの感覚がよりポピュラリティーのある旋律や明快な意匠という、キャッチーな要素に直結していたからだ。それより後のいわゆる〈UKロック〉ものでもラーズに賛辞を与えていたり、バンド自体は貶めながらも楽曲単位ではコールドプレイを評価していたり、そのように徹底した楽曲志向がバンドを独特のポジションへと押し上げたのである。

 

▼関連盤を紹介。

左から、ビートルズの67年作『Magical Mystery Tour』(Apple/Capitol)、ローリング・ストーンズの68年作『Beggars Banquet』(Decca/Abkco)、セックス・ピストルズの77年作『Never Mind The Bollocks』(Virgin)、モット・ザ・フープルの72年作『All The Young Dudes』(Columbia)、T・レックスの72年作『The Slider』(EMI/Edsel)、スレイドのベスト盤『The Very Best Of Slade』(Polydor)、ラーズの90年作『The La's』(Go! Discs)

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