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ジョー・ヘンリー(2)

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2010年05月30日 19:36

更新: 2010年10月27日 15:44

ソース: intoxicate vol.85 (2010年4月20日発行)

interview&text:和田博巳

そこから話はジョー・ヘンリーがプロデュースした、ランブリン・ジャック・エリオット『ア・ストレンジャー・ヒア』へと移る。

「自分に絶大な影響を与えた、その本人が自分のスタジオに来て目の前にいるということが、最初全く非現実なことのように思えた。だからジャック・エリオットをプロデュースするということは、みんなが思うほど自分には当然のことでも、自然なこととでもなかった。何か奇妙で、夢みたいな……」
そのジャック・エリオットの新作がフォークではなく、多分誰もが驚いただろうブルースのアルバムだった、ということについて質問すると

「どういうコンセプトで演ってもらうかということについてだが、まず彼自身はソングライターではなくインター・プリーチャ-(既存の曲を自らの解釈で歌う人)だ。で、これまで彼がやったことと同じことをまたやっても意味がないし、これまで全くやったことがないことをやらせたいという思いが、実は当初から自分の中にあった。そこで、かつてのアメリカの大恐慌時代が、今の時代にもまた起きていると考えてもおかしくないだろう?だから今回収録した曲は、今の時代にも合うんじゃないかと考えて選曲したし、それらの曲をジャック・エリオットならうまく歌ってくれるんじゃないかと。『ア・ストレンジャー・ヒア』に収められたような曲は、今の時代にも現実味があるはずだと思ったんだ。それでああいうアプローチを取った」

うーん、深い、実に深い。あのアルバムに収められた曲は全てジョー・ヘンリー選曲による、現代(の大恐慌時代)にも合致するかつての大恐慌時代のブルースの数々だったというわけだ。優れたインター・プリーチャ-なら、フォークではなくブルースだって、という彼の考えは見事なまでの成功を収めた。

ついでに言えば、アラン・トゥーサン『ザ・ブライト・ミシシッピ』の収録曲だが、アラン・トゥーサン本人はほとんど知らない曲ばかりだったそう。デューク・エリントンすらあまり聴いたことがなかったというから驚きだが、それらアーリー・ジャズの名曲の数々を、アラン・トゥーサンとジョー・ヘンリーは見事に現代に蘇らせることに成功している。しかも単なる古典の焼き直しではなく、現代の名演奏として。選曲はもちろんジョー・ヘンリーである。

プロデューサーとしてのジョー・ヘンリーは、T・ボーン・バーネットやクレイグ・ストリート、そしてダニエル・ラノワといった名うての先輩プロデューサーたちと比較して語られることも多くなった。そこで「あなたは、手がける音楽の時代的な幅も、ジャンル的な幅も、他のどのプロデューサーよりもずっと広く感じられて驚いている」と言うと

「いや、T・ボーンもたいへんに視野が広いと思うよ」

しかしギターひとつ取っても、戦前のブルース・スタイルから最近のグランジ・オルタナ系まで様々で、例えば7枚目のソロ『トランポリン』では、ヘルメットのギタリスト、ペイジ・ハミルトンを起用しているし、マーク・リーボウにもアーリー・ジャズからアバンギャルドまで、いろんなスタイルで演奏させている。あるいはピアノなら、ジャズ創世期のジェリー・ロール・モートンからブラッド・メルドーまでと、そのレンジは広大だ。そしてオーネット・コールマンやドン・チェリーまでも担ぎ出しているが、一見異質に思える人選さえも、ジグソー・パズルのワンピースのようにピタリと収めてしまう。こういうプロデューサーは他に知らないし、クレイグ・ストリートもハル・ウィルナーもそこまで幅広くはないと思う、と伝えたら

「そう、確かにぼくはそれを目指しているといえるな」と真顔で小さく頷いた。

彼自身のソロアルバムについても1枚1枚細かい質問を投げかけたが、それを全て記すスペースはもう残っていない。印象的だった点だけお伝えしておこう。

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