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特集

FLYING LOTUS

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2010年05月05日 19:00

更新: 2010年05月05日 19:06

ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次

 

リスナーをこの狂気に引き込みたかった

 

 

さて、どれほどの前置きが必要だというのだろう? フライング・ロータスのニュー・アルバム『Cosmogramma』は、信じられないことに『Los Angeles』を超えてきた。いや、超えているかはわからないけど、少なくとも本人があの名作を跨いで、その先の向こう側へと歩を進めていることはよくわかる。そこに何が待っているのか、コズミック・ドラマはまだ始まったばかりだ。

 

パート2は作りたくなかった

――前作『Los Angeles』は誉められまくったと思うんですが、もっとも嬉しかった反応ってどういうものでしたか?

「嬉しいコメントはいろいろもらったよ。〈結婚式を挙げた帰り道に聴いた〉って人もいたな。それに『Los Angeles』を聴きながら、ペインティングとか、写真とか、アニメとか、映画の脚本とか、他の何かをクリエイトした人もいたみたいでね。そういうものでありたいって思ってたよ。自分の作品は、他の人を刺激して、そこからまた新しい何かが生まれるような音楽であってほしいんだ」

――今回の『Cosmogramma』もそうなると思うんですが、まずアルバムのタイトルにはどんな意味合いがあるの?

「(悲しい声で)もし俺がそれを言ったら、このアルバムからすべてのマジックを取り去ってしまうことになる……」

――……。

「ってのはジョークで、この名前は古代ギリシャの宇宙学……宇宙の地図とか、天国と地獄についての研究のなかで使われていた言葉に由来しているんだ。実は偶然降ってきた言葉でもあって、ずっと俺のなかに残っていた。それがちょうどいいタイミングで頭に浮かんできたんだよ。叔母(アリス・コルトレーン)が作ったレコードで耳にしたんだけど、それは音楽というよりも、この世界やこの物質領域についてのスピリチュアルな演説で、人はみんな宇宙を舞台にした演劇、叔母の言葉では〈コズミック・ドラマ〉のなかで、それぞれの役を演じてるって内容なんだ。このこと自体、〈ワオ、そのコンセプトはまさに俺が新作で取り組もうとしていることといっしょだ〉って思ったよ。そうやって辿り着いたタイトルなんだ。これは『Los Angeles』を超えたものだと思う。俺はパート2を作りたくはなかった。わかるだろ? 自分の主張や信念すら超えるようなものじゃなければならないんだよ」

――じゃあ、〈超えること〉をテーマにして曲作りに入った?

「それも絶対だったよ。やりたいって思っていたことは最初からいくつかあったし。俺は常に〈OK。本気で作りたいレコードを作ろう〉って気持ちのなかで音楽を作る。〈その瞬間の自分にとってのドリーム・レコードを作ろう、少なくともそれに挑戦しよう〉って思うんだ。実際、今回ほど一生懸命だったことはないよ。だからこそ、アルバムを完成させたこと自体が素晴らしく気持ち良いんだ。俺は一度始めたことを終わらせないことで知られてるからね」

――それは知りませんでしたが。

「だけど今回は、自然に完成にたどり着いた。俺が投げかけた問いへの答えが一つ一つ勝手に浮かび上がってきたというか、凄く楽しめた。この作品にはある種の切迫感が必要だと思ってたんだ」

――なぜ?

「制作時の俺の生活がそうさせたんだ。すべてが完璧だった時期から、いろいろな理由で一気に物事が狂ってしまってね。そのフィーリングを作品で伝えたかったんだよ。レコードを再生した瞬間から、リスナーをこの狂気に引き込みたかった」

 

成長が伝わるよう願ってる

今回のアルバムがいままでになく騒がれている理由があるとしたら、それはトム・ヨークが“...And The World Laughs With You”にフィーチャーされているから……なのか? それはともかく、ロング・ロストのローラ・ダーリントン(デイデラスの奥方)、ベーシストのサンダーキャットと参加アーティストは厳選されている。

――どうやったらトム・ヨークとコラボできるのか、知りたがってるアーティストは多いと思いますよ。

「ラジオDJのメアリー・アン・ ホブスが友人なんだけど、彼女は俺が本気でトムと音楽を作りたがってるってことを知っていたんだ。彼も俺がやっていることに興味があったみたいだったし、どうにかして繋がりたかった。それでメアリーに制作途中だった新作の一部を聴かせたら、彼女が凄く気に入って手助けしてくれたんだよ。そうしたら彼から連絡が来て、お互いにファイルを送り合う形で1曲作ったんだ。凄く心地良いプロセスだったよ」

――いろいろプロデュース作品も多くなって、人と共同で制作することも増えてますよね。そこから得たものがあるとしたら、それは何ですか?

「この2、3年でたくさんのことを学んだ。若かった自分を振り返って〈当時の俺はなんてバカだったんだ〉とは思わないけど、俺は凄く成長したし、音楽についてもいろいろ学んだ。そういうことがこのレコードから伝わるよう願ってるね」

――コラボレーターの話を続けますが、ロング・ロストのローラはどこが気に入っているの?

「彼女は本当に純潔なんだ(笑)。そこに惹かれるんだよ。俺が音楽のなかに見い出せる好きな部分を彼女は思い起こさせてくれる。とても美しくてナチュラルなサウンドだ。それに彼女は俺の仕事の穴を探そうとしない。多くのミュージシャンは存在もしない穴を探して、音楽を違うものにしようとするんだ。〈そのほうがおもしろくなる〉とか言ってね。でも、彼女はただ作品に入り込んで、素晴らしい音楽を奏でるんだ」

――誰の音楽か、という話ですね。

「人と仕事をするときに大事なのは、メインの作り手のミュージカル・ユニヴァースをリスペクトすることだよ。それはトムにも言ったんだ。作業の後でね。俺は他の人がなかなか招待されない彼の世界に招いてもらったことを凄く光栄に思う。と同時に自分の音楽観に関してもそういう感覚を持っていたいんだ。俺は何も考えずに、自分の名前を他人とシェアしたくない。ギグであっても作品であってもね」

――そうやって完成したアルバムをあえて客観的に見たら、どの曲がよくできていますか。

「“Drips”かな。レコード全体の終わりのほうだね。この曲はいろんな意味で俺にとって本当にパーソナルで、ただ単純に好きなんだ。このトラックの中心部は、実は『Los Angeles』よりも前、何年も前に書いたものなんだよ」

 

新しいことをやらされる

――ところで、アルバムでも絡んでいるドリアン・コンセプトをはじめ、マーティンやラスGなど、あなたの影響下にあるクリエイターは増えてきています。自分でもそう思う?

「そうだね」

――新しいサウンドを作ることが難しくなったりしませんか?

「大変になるのは認めなきゃいけないだろうな。イラつくことも……まあ、あるよ。誰かが俺と同じことをしているのを聴いたら〈そこを真似したのか? そこを気に入ったんだな? じゃあ俺にそれをやらせてみろよ。誰にも真似できない方法で、俺が本当に表現したいことのハートの部分を見せてやるよ〉とか思うこともある。それが『Cosmogramma』の好きなところなんだ」

――大変なことですね。

「でも、自分が居心地の良い場所を出なければ、アイデアを掘り下げ続けることはできないからね。だからそういうことが起きて強制的に他のこと、新しいことをやらされる。それってクールだよ。そういうものだと思ってるんだ」

――じゃあ、いろいろ聴くのも逆に大変だと思いますけど、最近のお気に入りのアーティストというと、どんなものになるんでしょう。

「最近はよくジェレマイ・ジェイを聴いてる。彼はブレインフィーダーの一員さ。最近契約したんだけど、すごく才能がある奴なんだ。彼の音楽は凄くおもしろくて、ヴィジュアライジングなんだよ。彼がやっていることにはすごく興奮させられる」

――そのブレインフィーダーですが、どんなレーベルにしたいとか具体的なプランはあるのですか? ガスランプ・キラーやラスGもいるみたいですが。

「誠実なレーベルにしたいね。ファッショナブルだからとかって理由で動きたくないんだ。俺の好きなもの、俺がリアルだって思える音楽、他の場所から生まれたような音楽をサポートしていきたい。それだけが望みさ。正直に言えば、自分の仲間が稼げるようにしたいんだよ。自分で自分をサポートできるようにね」

――ところで、最近はハイパーダブやテクトニックにも音源を残していますが、ダブステップもいろいろチェックしてるの?

「物凄くハマってはいないけど、少しはフォローしてるな。コード9は親友だし、彼がやっていることはすぐに共感できた。スティーヴは最高だよ。あと、ブリアルだね」

――最近のあなたのファンにはダブステップ好きも多いと思うんですけど。自分ではどんなリスナーが多いか考えたりする?

「それはわからない。でも凄いことになってきたとは思ってる」

――こうなると予期してましたか?

「ノー! でも俺の音楽がアクセスしづらいものとも思ってないよ。どうだろう。難しいのかな。ところどころ……少し……変ではあるのかもしれない。まあ、この先どうなるか楽しみだよ」

 

▼フライング・ロータスの作品。

左から、2006年作『1983』(Plug Reserch)、2007年のEP『Reset』、2008年作『Los Angeles』(Warp)、2009年の編集盤『LA CD』(BEAT)

 

▼『Cosmogramma』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

左から、トム・ヨークの2006年作『The Eraser』(XL)、ロング・ロストの2009年作『The Long Lost』(Ninja Tune)、ドリアン・コンセプトの2009年作『When Planets Explode』(Kindred Spirits)

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