LONG REVIEW――Spangle call Lilli line “dreamer”『VIEW』『forest at the head of a river』
3月から6月までの約4か月の間で、シングル1枚+アルバム2枚を連続投下! ……と言うと大げさに聴こえるが、いや、本来なら十分大げさに言っていいトピックなのだが、これがSpangle call Lilli lineのこととなると、話は別である。
個々のメンバーがデザイナーやカメラマンとしての顔を持っており、音楽シーン以外にも自身の創造性をアウトプットできる場が存在しているということもあるのだろうが、彼らはいつだって、みずからの創作意欲に対して忠実すぎるほどに忠実だ。そのため、作品発表のペースが恐ろしくダウンすることもあれば、今回のように怒涛のリリース展開をすることもある。だからこそ、筆者は彼らが発信する音楽を信用している。微塵の妥協も感じられない、その時点におけるスパングル流の最高のポップ・ミュージックを作品ごとに提示してくれるからだ。
2008年には約3年ぶりとなる2枚のオリジナル・アルバム『ISOLATION』『PURPLE』をたった2か月のスパンで発表し、昨年は大坪加奈がソロ・プロジェクトであるNINI TOUNUMA名義で、藤枝憲と笹原清明が点と線名義でそれぞれ作品をリリースしている。なので、冒頭の話に立ち返れば、今回の3連作に関しては、〈連作であること〉自体にはそれほどの驚きはない。だが、今回は1作ごとに意外であり妥当でもあるプロデューサー陣が指名されている。これは、セルフ・プロデュースの多い彼らにしては、間違いなくトピックに値する。
まず、第一便として届けられたシングル“dreamer”を手掛けたのは、相対性理論の永井聖一。本作での彼は、作詞も行い、ゲスト・ギタリストとしても手腕をふるっている。スミスを想起させるメランコリックなギター・サウンドと軽やかに刻まれるイーヴン・キック、ふわりふわりとエアリーに舞う大坪の声――それらがソフトに溶け合う表題曲は、スパングルらしい抽象的な美しさを80年代のUKネオアコ~ギター・ポップ勢が纏っていた煌めきでコーティングしたような、絶妙なニュアンスを持つオルタナ・ポップスに仕上がっている。
続いて、第二便となる8作目『VIEW』のプロデュースに携わったのは、スパングルのセカンド・アルバム『Nanae』以来のタッグとなる益子樹(ROVO他)。本作は、このユニットのポップ・サイドが大きく開放されており、歌モノとしての機能性も高い。上述のシングルで彼らを初めて知ったリスナーも地続きで聴くことが可能であろう、洗練されたポップ・アルバムである。
そしてラスト、9作目となる『forest at the head of a river』に関わったのは、toeの美濃隆章。シンプルな原曲をインプロヴィゼーションを通じて膨らませていったという本作は、ギター、ドラム、ベース、ピアノ、ストリングスによるミニマル・フレーズのリフレインが流れるように変態し、果てはドラマティックなサウンドスケープを描き出していくという、スパングル節(?)を前面に押し出した逸品である。全6曲、約50分に渡って、ポスト・ロック経由の精緻かつエレガントな揺らぎを堪能することができる。
3人のプロデューサーによって3種類の異なる輝きを与えられたこの3作品を聴けば、彼らがいま持てる創造性を余すことなく投入したことがたやすく理解できるだろう。そして、6月5日に恵比寿LIQUIDROOMで開催される単独公演以降、ライヴ活動はしばらく休止するものの、現在のバンドの好調ぶりから鑑みると次なる一手は意外と早いかもしれない……などと、半分願望交じりで思ったりしている。