やくしまるえつことd.v.d 『Blu-Day』――ロング・レヴュー
いまだ謎多きバンド、相対性理論のフロントに立つ、これまた謎多き女性シンガー=やくしまるえつこ。彼女とバンドは、これまで自分語りを一切行ってこなかったにも関わらず、オリジナル・アルバムからコラボレーション作品に到るまで、多作と呼ぶに相応しい活発な活動を展開している。彼らの謎が深まる理由は、まさにそこにあるのかもしれない。
なかでも気になるのは、やくしまるによる八面六臂の活躍である。朗読CDやCM音楽、流動性ユニットであるTUTU HELVETICAとしてのライヴ・パフォーマンスをはじめ、別掲のソロ作品やさまざまなアーティストの楽曲へのゲスト参加など、彼女のプロジェクトは実に多岐に渡る。もはや貪欲と言っても差し支えないであろうほどに、活動の場をあちこちに拡散させているのだ。イノセントな少女性と微量に漂う女の色香が交錯したような――どこか虚無的でありながらも愛らしい、彼女の歌声が持つその絶妙な塩梅が、多くのクリエイターの感性をしたたかに刺激するのかもしれない。
そんなやくしまるえつこのコラボレーション・ワークに、新たなマスターピースが加わった。このたび相手を務めたのは、デジタル+人力サウンドにヴィジュアルが加わるという、かつてないスタイルで活動するトリオ、d.v.dだ。ドラム(d)・ヴィジュアル(v)・ドラム(d)という、ライヴでの立ち位置がそのままバンド名になっている彼らは、ItokenとJimanicaのドラム・デュオと映像作家の山口崇司にて編成。2台のドラムと映像が連動し、その映像がメロディーを紡ぎ出すというインタラクティヴなパフォーマンス――ライヴ・インスタレーションで孤高の地位を築く存在である。
やくしまるえつことd.v.dによるこの『Blu-Day』は、8曲入りのCDと“ファイナルダーリン”“時計ちっく”“勝手にアイザック”のPVが収録されたDVDによって構成されている。精緻なドラム・ビートによって叩き出される幾何学的なデジタル・サウンドの上で、やくしまるは楽しげに歌を躍らせ、詩を遊ばせる。マス・ロックと80年代調のエレポップやゲーム・ミュージック、そしてエレクトロニカを融合させたような先進的な音楽性を内包しつつ複雑になりすぎないのは、彼女の歌や朗読、ラップがトイポップ調のキュートさをたっぷりと塗してくれているから。そして、やはり圧巻はDVDに収録されているPVである。カラフルで躍動的なヴィジュアル・エフェクトが演奏と連動し、表情を変えていく様は、まるで近未来のアトラクションを体感しているかのようだ。また、アートワーク方面においても謎多き女=やくしまるえつこの姿が“ファイナルダーリン”でしっかりと確認できるのも、ファンにとっては嬉しい要素なのではないだろうか。
とても奇妙だがやたらと可愛らしいこのコラボレーションは、不思議と違和感がなく、妙にしっくりとくる密着感がある。このコラボを本作だけで終えてほしくないと思うのは、決して筆者だけではないだろう。
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