対談 一柳慧×山下洋輔(2)
────トーキョーワンダーサイトは、現代音楽の演奏団体、ドイツのアンサンブル・モデルンを招いて、ワークショップもおこなっている。だが、これは通常の意味でのワークショップではない、という。パンフレットをみると、課題があってそれをこなしていくというふうに見えてしまうけれども。
一柳:一般的な認識として、モデルンが来るとなると、現代音楽というイメージが非常に強いんですよ。ヨーロッパから来るものに対して、日本ではとくにそういう反応をしめす傾向があります。それがネックになっています。応募者の側もそういう受けとめ方をしがちなんです。そうじゃないんだ、もっと柔軟にやっていいんだということを知らせていく必要があると思いますね。今は応募作品が現代音楽に偏っているなという感じがあります。少しずつ柔軟な方向に持っていければなぁというのが理想なんですが。
────再度、フェスティヴァルに戻るなら、ここではいわゆる「音楽」や「美術」、あるいは「演劇/ダンス」の境界が崩されているというのが、先の話から伝わってくる。
一柳:たとえば、美術でいうと具体なんかの人たち。このあいだも横須賀美術館で白髪一雄さんの展覧会をやっていましたけれど、白髪さん、ひじょうにセンセーショナルなことをやっていたわけです。08年に亡くなられたけど、その前に水戸芸術館に誘われた企画の件で白髪さんに声をかけて、空中ブランコで描くパフォーマンスをやってもらおうと思ったんですよ。でも、年齢的に体力的に難しいということになって、元永定正さんにお願いすることになった。
あの辺の人が今かなり高齢になっておられ、かつてやられていたこともそのままではやりにくくなっている。今の若い人はそういうものを実際に観ていないですよね。できればアタマで知っているだけというのを越えた次元に持っていきたいという意志もあるはずです。
今の状況はかなり閉塞していますから、これからの現代音楽とか現代美術と言われるようなものにどのくらい可能性があるか、発展性があるか、展望があるかということを考えたときに、「そんなものは要らない。自分たちは全然違うものをやるんだ」という反応が出てきているんじゃないかと思う。60-70年代と90年代以降がつながっているかといえば、そうは思えない。むしろ違った次元が出現しかかっているという実感の方が強い。むしろ危ないのは既存の方なんですよ。この人たちは発展途上でこれからの可能性があるけど。
山下:一柳さんがやられていたことの影響は、そうそう抜けませんよ(笑)。あの時代、ジャズのコンサートで司会をしていた相倉久人さんが新しい傾向にも詳しくて、「一柳さんの作品はすごいよ」って言っていた。ヴァイオリンの曲だっていうんだけど、ヴァイオリニストがグランドピアノのなかに寝そべっちゃって、それが作品だって言い張っているという。われわれジャズの若者もぶったまげて、大喜びしちゃった。それでそのヴァイオリニストがオノ・ヨーコだったわけです(笑)。こういう世界は抜けません。もはや伝説です(笑)。同じことを今やってもダメですよね。一柳さんにお会いする度に「そうしろって書いてあるんですか?」とかしつこく色々聞いているんですが(笑)。どんな横たわり方でもよい、とおっしゃっていましたね。
一柳:それは、さっき言ったやや即興的なものが許されるように書かれているということでしょうけど……。
僕は60年代にいろんな方とご一緒していまして、美術ももちろんそうですが、デザイン――その頃やっと市民権を得つつあった分野ですね――とか建築の人たちが、僕のやっていることにとても興味を持ってくれた。今までなんとかやってこられたのは、あの頃のつきあいや共同作業のおかげみたいなところもあります。アメリカから帰国してからは、草月アートセンターで建築とか美術とかいろんな人との出会いでやったことが、ずっとつながってきている。今ではそれほど共同作業をやっているわけではないですけど、基本にあった精神というか社会との関わり方とか、あの頃の経験がベースになっている気がします。
山下:選ぶときには、全体の印象を大切にしているんです。これ、まったく異質な人もいるんだよね。キック・ボクシングをやる人とか(笑)。それはまったく肉体派で。そういうものも面白いと評価しているわけですよ。
一柳:このフェスティヴァルも年々応募者が増えていますし、パフォーマンスやる人はあまり言葉で表現したがらない人が多いなか、言葉の表現も高まっていて、コンセプトが明確にとらえられるものになっていますね。とにかく作品がとても多彩になってきています。
山下:表現者がコンサート会場の距離ではないところにいて、それがおかしな人間で、おかしなことをやっているという恐怖(笑)。それって原初的に面白いですよ。「なんだこいつは?なにやってるんだ?」という怖さ。逃げたいけどそこに居なきゃなんない、とか(笑)。それがライヴということですよね。それに是非触れてほしいですね。
一柳慧(作曲家、ピアニスト)
1933年神戸生まれ。作曲家、ピアニスト。1954年19歳で渡米、ニューヨークのジュリアード音楽院に学ぶ。その後もジョン・ケージらと実験的音楽活動を展開する。61年帰国し、偶然性の導入や図形楽譜を用いた作品を発表、作曲、演奏の両方で意欲的に活動。作品は、オペラ、交響曲、協奏曲、室内楽作品のほか、コンピュータ音楽、雅楽や声明を中心とした伝統音楽など多岐にわたる。文化功労者(2008年)。現在、神奈川芸術文化財団芸術総監督、トーキョーワンダーサイト音楽アドバイザー。
山下洋輔(ジャズピアニスト)
1969年、山下洋輔トリオを結成、フリー・フォームのエネルギッシュな演奏でジャズ界に大きな衝撃を与える。国内外の一流ジャズ・アーティストとはもとより、和太鼓やオーケストラなど異ジャンルとも意欲的に共演する。
09年5月、一柳慧作曲「ピアノ協奏曲第4番"JAZZ"」を世界初演。7月には、歴代メンバー総出演の「山下洋輔トリオ結成40周年記念コンサート」を開く。
99年芸術選奨文部大臣賞、03年紫綬褒章受章。国立音楽大学招聘教授、名古屋芸術大学客員教授。多数の著書を持つエッセイストとしても知られる。
EXPERIMENTAL SOUND, ART & PERFORMANCE FESTIVAL
日時:2010/2/17(水)~2/28(日) 会場:トーキョーワンダーサイト本郷
国内外のアーティストたちによる新しい即興的なサウンドが生み出される現場です。
出演:ベティーナ・ベルジェール、マット・ロジャース、ジョンハン・ヤオ、MERI NIKULA、+LUS、菊地容作、桑原ゆう、mamoru、azumaru×takuya、Duo X、平本正宏/Computer Quartet、山口紘、大熊紘子、生頼まゆみ×大久保彩子、アンサンブル クロス.アート、中川敏光、宇都縁、神崎えり、mofa、トマツタカヒロ、小森俊明
インターナショナル・アンサンブル・モデルン・アカデミー
日時:2010/3/21(日)~3/28(日)
会場:トーキョーワンダーサイト青山、トーキョーワンダーサイト渋谷、
東京ウィメンズプラザホール
フランク・ザッパ、ハイナー・ゲッベルス、カールステン・ニコライ、ビル・ヴィオラなど、一流アーティストとコラボレーションしてきたアンサンブル・モデルンと作曲家パスカル・デュサパン、一柳慧たちの生の声と音の現場をお楽しみください。
※すべてのレッスンは一般公開されます。
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カテゴリ : Exotic Grammar
掲載: 2010年03月12日 18:31
更新: 2010年03月23日 18:23
ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)