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特集

久保田利伸

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2010年02月24日 17:55

更新: 2010年04月21日 19:48

ソース: bounce 318号 (2010年2月25日発行)

文/高橋道彦

 

〈age嬢盛り〉に対抗するかのようなアフロ・ヘアーと、一見ではミスマッチと見まがうバシッとキメたスーツ姿。相変わらずファンキーだな。新作『Timeless Fly』のジャケットに写る久保田利伸の姿は、何だかプリンストン大学のコーネル・ウェスト教授みたい。哲学者/政治思想家として黒人社会に強い影響力を持つウェスト教授は、自身のCDではプリンスやアンドレ3000らと共演しているファンキーなお人でもある。いや、久保田のアフロといえば、ずっと昔に写真週刊誌に暴かれた彼の学生時代を思い出す古くからのファンもいるかもしれない。新しいのに懐かしい、そんな姿だ。

 

リアルタイムのソウル・ミュージック好き

 

久保田利伸は、学生時代にグループで〈EastWest '82〉の決勝大会に出場、シニア部門でベスト・ヴォーカリスト賞を受賞して注目を集めはじめた。この〈EastWest〉はサザンオールスターズやシャネルズらも出場していた名門コンテスト。だが彼はすぐにメジャー・デビューとはならず、ピアニスト・松岡直也の『The Latin Man』(84年)にリード・ヴォーカルで参加、翌85年には田原俊彦に“華麗なる賭け”(オリコン最高1位)とトシちゃんのビミョーなラップが入る“It's BAD”(オリコン最高4位)を提供、85~86年には岩崎宏美や小泉今日子、鈴木雅之らにも曲を書いていた。ただ、作曲家をめざしたわけではなく、あくまでもデビューまでの修行だと思っていたという。

そして86年6月にシングル“失意のダウンタウン”でデビュー、同年9月にはファースト・アルバム『SHAKE IT PARADISE』をリリース、12月には第2弾シングル“TIMEシャワーに射たれて”が続いた。シングルはそれほどヒットしたわけではないが、名バラード“Missing”などを含むこのアルバムはデビュー作ながらロングセラーとなっている。

それまでもアメリカ黒人音楽に影響を受けたアーティストはもちろんいた。けれども“悲しい色やね”(82年)を大ヒットさせた上田正樹やオーティス・クレイの来日公演で前座を務めた円道一成、それにシャネルズやスクーターズらにしても、主に影響を受けたのはサザン・ソウルやドゥワップ、60年代モータウンなどで久保田とはちょっと違う。唯一、アース・ウィンド&ファイアのアル・マッケイやシカゴ・ソウルの重鎮アレンジャーであるトム・ワシントンを迎えて『WEEKEND FLY TO THE SUN』(82年)を作った角松敏生とは共通点が見い出せるけれど、角松がニューミュージック的にも感じられるのに対し、久保田はもっとファンキー。貪欲にリアルタイムのソウル・ミュージックを呼吸している。87年作『GROOVIN'』でいえば“永遠の扉”はシカゴっぽいミディアム・ソウルだが、“薄情LOVE MACHINE”はかなりヘヴィーなファンクだし、“LADY SUICIDE”にはアース・ウィンド&ファイアを換骨奪胎したフレーズが出てくる。彼はソウル/R&B好きがニヤリとする裏メニュー、隠しコマンドを挿入するのが実に上手い。“ダイアモンドの犬たち”ではミネアポリス・サウンドに接近、何よりこの曲のベースはすごい。かつて彼はこう言っていた――〈ノリのいい曲はもちろんだけど、スロウなバラードであっても、ぼくは曲を作る時に、まずはリズムを身体のなかに持ち込む〉〈リズムから曲を作る利点は、詞やメロディーと違って、より音楽のうえでの約束の制約がなくて自由。無限に拡がっていくことだ〉(「リズミズム」マガジンハウス、92年)。まずリズムありき、それが久保田利伸の新しさでもあった。

リアルタイムのソウル好き、そんな感覚にさらに磨きをかけたのが88年作『Such A Funky Thang!』で、エンジニアにはこの後ジョージ・クリントンも長く手掛けることになるラリー・ファーガソンを迎えている。マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダー、それにフランク・ザッパ、スクリッティ・ポリッティらが使っていたメチャ高価な最新機材シンクラヴィアを全面的に投入しているのもミーハーちっく。3作目にして余裕さえ感じさせる。

翌89年にはシングル曲を中心に収録した『THE BADDEST』をリリース。ミネアポリスにあるプリンス所有のペイズリー・パーク・スタジオに乗り込み、全編をミックスし直した。ヴォーカルや演奏を録り直した曲も多く、まだデビュー前のサウンズ・オヴ・ブラックネスが参加した“TIMEシャワーに射たれて”は、まさにタイムの“The Bird”みたい。デビュー4年目に早くもリリースしたこのベスト盤はミリオンセラーを記録している。

 

NYで一からのスタート

 

 

『THE BADDEST』でひと区切りをつけた彼が次に向かったのはNYだった。7か月ほどひとりアパートで暮らし、NYという街の厳しさ、ヴォルテージの高さに触れるうち、自分の思うやりたいことを貫き通していればNYは人間をプッシュしてくれる、そんなことを彼は学んだ。90年作『BONGA WANGA』には、確かに当時の彼がやりたかったことがギッシリと詰め込まれていて、骨太なヴォーカルと演奏がたっぷり楽しめる。この年の大晦日に、久保田はNHK「紅白歌合戦」へ出場しているが、ヒット曲を歌わず、リリース前だったアリソン・ウィリアムズとのデュエット“Forever Yours”を披露したのも彼らしいといえそうだ。

CDの帯に〈PARALLEL WORLD I -もうひとりの久保田利伸- FINE & MELLOW〉と書かれている91年作『KUBOJAH』は、全編レゲエにシフトした一枚。“北風と太陽”のリメイクと“TELEPHOTO”は湾岸戦争に対するメッセージ・ソングともいえ、レゲエに対する正しいアプローチも見せている。この年の11月、彼はナイジェリアで開催されたイヴェント〈The Children Of Africa Concert〉に出演。スタジアム警備のドタバタに巻き込まれて催涙ガスを浴びたりしながらも、ライヴでは会場を盛り上げた。

そして海の神の名を冠した92年発表の『Neptune』は、文字通り全体のテーマは海や水、そして夏。この後、“夢 with You”などを含むベスト盤『THE BADDEST II』を93年にリリースし、彼はまたひとつの区切りを付ける。この年からNYへと活動拠点を移すのだ。日本での実績を捨て、まったくの新人として活動を始めて95年に『Sunshine, Moonlight』で全米デビュー。収録曲としては日本で同年に発表した『BUMPIN' VOYAGE』と被る曲もあるが、新たにゴードン・チェンバーズなどと共作し、ドウェイン・ウィギンスやナイル・ロジャースともコラボレートしている。

こうしてUSで活動しつつ、日本ではナオミ・キャンベルとの大ヒット“LA・LA・LA LOVE SONG”を含む『LA・LA・LA LOVE THANG』を96年にリリース。確か、キャンベルとはNYで〈たまたま同じアパートに住んでいたので頼んだ〉と言っていたと思う。この後、2000年に世界リリース第2弾『Nothing But Your Love』を発表し、日本では『As One』が続いた。さらに2002年には9.11以後のアメリカ単独行動主義に異議を唱える“Respect(this & that)”を収録しつつ、メロウでスウィートなR&Bにとことんこだわった『United Flow』をリリース。“Heaven?”は山田詠美が作詞を手掛けている。

その後も〈THE BADDEST〉シリーズのリリースを挿み、2004年に世界リリースの『Time To Share』、日本では2006年に『FOR REAL?』を完成させた。またシングル・オンリーの曲では、2006年に韓国出身のシンガーであるSunMinとのデュエットで映画「日本沈没」のテーマ曲だった“Keep Holding U”(SunMin thanX Kubota名義)を特筆しておきたい。

2002年の『THE BADDEST III』リリース時に彼は、〈歌の上手い連中がゴロゴロいるNYから刺激を受けて作った曲ばかりだから、自分のヴォーカルには絶対の自信がある〉と語っていた。同時にその頃、久々に日本に腰を落ち着けつつあった彼は〈R&Bブームというより、いまはそうしたスタイルを持つ奴らが普通にいる状態に入ったみたい。日本でR&Bが確立されていくなかで、ぼくの音楽を本当の意味で理解してくれる人たちも増えていると思う〉と語っていた。そんな言葉に呼応するように、2004年にはEXILEのATSUSHIやMISIA、中島美嘉、ゴスペラーズらによるカヴァーを収めた『SOUL TREE~a musical tribute to toshinobu kubota~』もリリースされている。

サム・クックが“A Change Is Gonna Come”を、ダニー・ハサウェイが“Someday We'll All Be Free”を歌ったように、ソウル・ミュージックとはいつだって未来への希望を歌に託す音楽だった。新作『Timeless Fly』を聴いて強く感じ入るのもまた、久保田利伸の前向きな姿勢だ。若手たちともコラボレートしながら、彼はさらに前進しようと意欲を見せる。ノドからでも腹からでもなく、全身を響かせて歌っているかのような声自体が若々しく、なおかつ円熟味を感じさせ、実はいまこそが絶頂期であるかのようだ。

先の見えにくい時代だからこそ、いまこそもっと久保田利伸の歌を!

 

▼久保田利伸のベスト盤。

左から、『THE BADDEST』『THE BADDEST II』『THE BADDEST III』『THE BADDEST~only for lovers in the mood』(すべてソニー)

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