LONG REVIEW――難波章浩『THE WORLD iS YOURS!』
インタヴュー・ページをご覧いただければ一目瞭然かと思うが、今回の掲載にあたっては、アーティスト・サイドより多くの写真を提供してもらっている。本人がハンドマイクに向かって気焔を上げるメイン・ヴィジュアルをはじめとしたソロ・カットが数点。そして、大勢の人々と共にさまざまなポーズを取り、楽しそうに笑っている彼の姿を切り取ったカットが数点。音楽が有している力を〈歌〉によって示す、という確固たる意志の象徴が前者だとすれば、後者は本作を取り巻く開放的なムードを端的に表している。
難波章浩が、個人名義としては初となるアルバム『THE WORLD iS YOURS!』を完成させた。Hi-STANDARDを離れてから約10年。長い歳月をかけて到達した全10曲を通じて彼が提示しているのは、自身の歌声を自由奔放に解き放った、実に風通しの良いサウンドである。
TYUNKやULTRA BRAiN名義の作品も非常に刺激的であったと思うが、それを〈途中経過〉と言い切るところに彼の音楽に対する真摯な姿勢と、いま、ようやく手に入れた〈自分だけの音〉に対する自信が窺える。また裏を返せば、Hi-STANDARD~TYUNK~ULTRA BRAiNとしての活動があったからこその本作だ、と読み取ることもできるだろう。
パンク・ロックの持つ起爆力と、スピリチュアルにもフィジカルにも振れるエレクトロニック・ミュージックの享楽性――本作はその2本の柱を軸にして成立しており、しかも、楽曲によってその屋台骨がフレキシブルに変化する。彼のこれまでの歴史を鑑みれば、そこに〈らしさ〉があるのかもしれない。例えば“メロディアスレボリューション”や“JUMP!JUMP!!JUMP!!!”などの電子的なフックが耳を惹く楽曲では、骨組みを透かして見るとメロディアスなパンク・ミュージックが躍動している。また一方で、“GET YOUR WINGS”“そばにいて欲しい”などのブレイクビーツやテクノを下敷きにした楽曲は、ビートそのものの心地良さはあるものの、どちらかというと、しなやかな歌を前面に押し出した〈歌モノ〉としての機能性が高かったりする。
そうした楽曲の構成自体に加え、先鋭性を注入するというよりは開放感を得るためのツールとして使用されているエレクトロな要素や、未来ある子供たちに向けたメッセージ性の強いリリックなど、作品全体から滲み出ているのは、あらゆる壁を取り払った難波自身のポジティヴな人間性である。そして、その中心に据えられた歌からは、トラックメイカーとしてではなく、シンガー・ソングライターとして生きることを決意した音楽家・難波章浩の所信表明がはっきりと聴こえてくる。
最後に。今回の作品にはハイスタ時代の盟友、Ken Yokoyamaと恒岡章がギターとドラムスで参加しているが、本作と、1週違いでリリースされるKen Yokoyamaの新作『Four』との双方を聴いて改めて思い知ったのは、3人はいま、別々の道を歩んでいるのだということ。それを耳で感じ取ることができるほど、個性の表出した音楽を各々が生み出している、という事実は、やはり祝福すべきではないかと思う。
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