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LONG REVIEW 『マニフェスト』

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2010年02月03日 18:01

文/出嶌孝次

 

RHYMESTER_J170

RHYMESTERの結成年にギャング・スターの“Words I Manifest”(89年)がリリースされたことに気付いて、こりゃ原稿の枕には打ってつけだと思ったけど、それは単なる偶然の采配だろうか。いずれにせよ〈マニフェスト〉というのは、語感自体がかの『リスペクト』(99年)を連想させるし、あるいは『俺に言わせりゃ』(93年)に意訳できる言葉だったりもして、20周年を駆け抜けた果てのアルバムとしては絶妙なタイトルだと思う。そうでなくても、日付けが変わる“午前零時”を導入に据えたこのアルバムは、何かしらの節目を感じさせるものには違いない。

そのイントロからシームレスに展開されるのは、スケール感のあるBACHLOGICのビートが快いシングル曲“ONCE AGAIN”。聴き手と己を鼓舞する作りは、平たく言えば弱者目線のストロングな応援歌のように響く。先行カットの時点では正面切って〈いいことを言う〉姿に少し驚いたものの、アルバムではそれに続けて悪漢を気取った“H.E.E.L.”で熱い冷や水をぶっかけてくれるから、やはり恐ろしく美意識の高い人たちだと改めて唸らされる。そんなセンスは、DJ JINの2曲以外は外部のトラックメイカーに制作を委ねるという異例のフォーメーションによっても損なわれることはない。参加メンツ各々が考えるライムスらしさと2MCの多様なアプローチが噛み合って、結果的に王道のライムス節がビシッと顔を並べている。Mitsu the Beatsのループに沿った幻想的な“Under The Moon”やキャリア20年組ならではの“渋谷漂流記”など物語性の強い曲が深みを演出する一方、EVISBEATS製のソウルフルな“New Accident”や、MOUNTAIN MOCHA KILIMANJAROの演奏をベースにしたJINの新機軸“K.U.F.U.”など、〈ヒップホップそのものについてラップする〉タイプの曲も絶好調で、改めてBボーイとしての視点/アイデア/考え方/工夫/イズムがポップに提示されているのが印象的だ。

何かのインタヴューで宇多丸が〈ヒップホップは嫌いだけどライムスは最高です、とか言われると嬉しいけど腹が立つ〉みたいなことを話していたことがある。ジャンルに縛られないほうが格好良い(という考え自体がジャンルに縛られている!)ということを表明する人は多いが、本当はそのことと音楽自体の良さや間口の広さはあまり関係がない。こだわり続けることでブレイクスルーを果たすライムスのような人たちがいるのだから。

そんなわけで、アルバムの流れを美しくシメるのはMaki The Magicの鬼太なサンプリング・ビーツが轟くなか、キングの風格たっぷりなボースティングが閃く“Come On!!!!!!!!”だろう。それに続く大トリの“ラストヴァース”は、「ロッキー」のエンディングのようにエモーショナルかつ感動的である。“午前零時”から50分余りしか経っていないが、この曲の存在は確かに夜明けを予感させてくれるじゃないか。……ヒップホップは好きだしライムスは最高です。

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