INTERVIEW 『マニフェスト』
ポップ・ミュージックとしても機能するストレート・ヒップホップ
――今回のアルバム制作にあたって課していたハードルみたいなのはある?
MUMMY-D(以下:D)「これからはもっと攻めていかないとダメだよな、みたいな話はしてたね。攻めの姿勢でいないと生き残っていけないだろうって。それから、ストレートなものを作ろうとも言ってた。それはわかりやすいって意味でもあるし、スタンス的に斜に構えていないもの……ストレート・ヒップホップってことでもあるかな。とにかく、思ってることはそのまま真っ直ぐにメッセージとして乗せていこう、と。あと、ある程度重みのあるものを作ろうって話もしてたね。『グレイゾーン』に近い重さになっていくかも、ぐらいのことも考えてた。でも、普通に深くて重いアルバムを作ろうとしていたわけじゃなくて、もうちょっと気持ちの良い重さ? CDよりはちょっと重いぐらいのものは作りたいとは思ってた。CDよりも軽いものが多すぎるからさ。物として持っていたいものっていうか、ちゃんとアルバム感のあるものを作りたかったね」
――なるほど。
D「やることはストレート・ヒップホップなんだけども、クオリティーに対するジャッジはポップ・ミュージックとして、みたいなね。一般に流通しているひとつの音楽として、誰が聴いてもクオリティーの高いものだと思えるもの……世の中に存在するほかのエンターテイメントに出会っても、一級のものはすぐわかるじゃん?」
――“ONCE AGAIN”の成功がアルバムを作っていくにあたってのひとつの指標になったところもあるのかな?
D「ある。最初のでかい山は越えたというか、あれで最初に設定したいろんなハードルを全部クリアできたしね。自分たちの満足度が高いだけじゃなくて外からの評価も見えたし、このやり方でまちがってないんだって確信を深めることができた。人の反応を見てるとよくわかるんだよ。ある程度のところまで届いたって実感があったね」
――エモーションの打ち出し方って意味でも“ONCE AGAIN”で得た成果は大きかったんじゃないかと。
D「持っていないものを捏造したというよりは、もともとRHYMESTERが持っていたものを違う角度から見せたっていうかね。“And You Don't Stop”や“B-BOYイズム”で俺らが出してるスタンス……ああいう曲が届いたのは何か理由があるんじゃないかって休止期間中に考えてたんだよ。だから元から持っていたものの再確認であって、新しくこういうのをやってみようってことではなかったのかもしれない。俺たちも意外とストレートなところはあったんだよ」
――そういう流れを踏まえて、ここではどういうことを歌っていきたいって考えてた?
D「やっぱりさ、〈これは私の曲だ、俺の曲だ〉って思ってもらえるものを作りたかったから、そういう共感を得られるようなサブジェクトを歌っていかなくちゃいけないって思ってたんだけど……でも、出来上がってみると意外とそんなことはないんだよね。たとえば“ラストヴァース”なんかでは結構音楽について歌ってるというかヒップホップについて歌っちゃってるんだけど、意外と共感できるみたいな反応をもらったりして。逆に気付かされたことなんだけど、必ずしもみんながコミットしやすいサブジェクトじゃなくても、共感できるエモーションさえ入ってればちゃんと届くんだって。必ずしも色恋を歌ってなくても届くんだよ。曲に流れてるムードの話なのかな? うん、もっと叙情的な話なのかもしれないね」
――じゃあ外部プロデューサーを大幅起用したことで見えてきたこと、確認できたことはある?
D「何でもRHYMESTERになっちゃうな、ってことかな。いままでにないまったく新しいRHYMESTERが、みたいなことでは今回はないよね」
なんとなくでは曲を作りたくない
――確かにヒップホップの原理的なことを歌ってる曲が多かったりするし、RHYMESTERがいままで一貫して主張してきたことを新しい表現とルックスで提示してるって印象が強いかな。たとえば“H.E.E.L.”。これは本来ラップやラッパーが果たすべき役目ってことだよね?
宇多丸(以下:U)「それそれ。ラッパーもそうだし、ハードコアな表現全般だね。これはラップを続けてる動機でもあるんだけど、日本のポップ音楽には〈いいことを言う場所でしょ?〉みたいな決めつけが多いんだよ。〈なんでそんな怖い顔して怒鳴ったりするの?〉って言う人もいるけど、逆に〈怖い顔して怒鳴ることないんですか?〉っていうさ。どんなおとなしいOLだって上司とかに鼻パン入れてやろうかって思う時はあるだろうから、そういう人にもスカッとしてもらえる曲を作りたかったんだよね」
――“New Accident”もそう。これは創作の話でもあり、ヒップホップというアイデアを改めて讃えているようでもあり。
U「ないならないなりにあるものだけを使ってやればいいし、その結果がいびつだったり変だったりしてもおもしろければいい、というのがヒップホップの遊び方なんだよ。なんでヒップホップという考え方が俺たちを元気にさせるのかっていうところだよね」
――“K.U.F.U.”にしたって〈もがき〉の話だもんな……この曲ではMOUNTAIN MOCHA KILIMANJAROが参加してるね。JINくんがバンドと作った曲というとSCOOBIE DOとの“音楽は素晴らしい”があるけど、こういうタイプの曲はどうやって作っていくの?
DJ JIN「“音楽は素晴らしい”は普通のバンド・サウンドっていうかセッション感を求めていたんだけど、今回はヒップホップ・トラックに必要な素材をバンドからもらったって感じ。だからこっちが指定するように弾いてもらったりして、それをさらに音を補強して再構築していくような作業。楽曲的にBボーイ・チューンを作ってみたかったというのもあるんだけど、制作手段として自分の引き出しを増やしたかったっていうのもあるかな。今回はプロデューサーがすごいメンツだから、そのなかで俺がアピールしていくにあたって新しくておもしろいことにトライしたかったっていうか。モカキリ(MOUNTAIN MOCHA KILIMANJARO)は昔から仲が良かったから意図も汲んでくれるし、やりやすかったよ。編成も6人で大所帯だし、俺が求めてるBボーイ・チューンを作るには彼ら以外考えられなかった」
U「“K.U.F.U.”(工夫)は最初はふざけて使ってたんだけど、人気のある言葉だし大事なコンセプトだからそういう曲をやろうって前から言ってて。RHYMESTERをRHYMESTERたらしめてる根本原理だし、人間を人間たらしめてるのも工夫だっていう持論があってさ。だから“Under The Moon”や“ミスターミステイク”で人間は自分をコントロールできないっていうのを肯定すると同時に、それに対する明確な解答を出してるとも言える……頭を使ってがんばれ!っていうね」
――まだこんな話をするのは早すぎるかもしれないけど、途轍もなく大きな前進を遂げた手応えを感じるからこそ訊いておきたい……今回のアルバムで得た収穫は今後どんなかたちで反映されていくことになると思う?
D「いまはすごく、なんとなくでは曲を作りたくないって思ってる。ヒップホップってなんとなくでも曲が出来ていっちゃうんだよ。まあ、若い時はそれでいいんだけどね。それがおもしろかったりするからさ。でも、いまはもう俺らはなんとなく曲は作りたくない。ヴィジョンがあって、テーマがあって、ソウルがあって……生まれるべくして生まれてきた曲を作りたいと思ってる。そこはもういままでと全然違う。アホなことを歌うにしても、じゃあ徹底的にアホにしてやれとか、そういう意識や覚悟が『HEAT ISLAND』以前と全然違うね」
▼『マニフェスト』に参加したアーティストたちの関連盤を紹介
左から、DJ WATARAIのミックスCD『RE:MIX:ER』(Knife Edge)、キエるマキュウの2001年作『TRICK ART』(第三ノ忍者)、MONKEY_SEQUENCE.19の楽曲を収めたコンピ『松竹梅Premium』(松竹梅)、DJ Mitsu the Beatsの2009年作『A WORD TO THE WISE』(PLANETGROOVE)、ZEEBRAのベスト盤『The Anthology』(UBG/ポニーキャニオン)、DABOのベスト盤『I'M THE BEST』(EMI Music Japan)、TWIGYの2008年作『BABY'S CHOICE』(AWDR/LR2)
【ツアー情報】 RHYMESTER KING OF STAGE VOL.8 ~「マニフェスト」 RELEASE TOUR 2010~
日時/会場:2010年4月23日(金)Open 18:00/Start 19:00 @ Zepp Sappro
問い合わせ:WESS(011-614-9999)
日時/会場:2010年4月25日(日)Open 18:00/Start 19:00 @ Zepp Nagoya
問い合わせ:サンデーフォーク(052-320-9100)
日時/会場:2010年4月28日(水・祝前)Open 18:00/Start 19:00 @ Zepp Osaka
問い合わせ:夢番地大阪(06-6341-3525)
日時/会場:2010年4月29日(木・祝)Open 18:00/Start 19:00 @ Zepp Fukuoka
問い合わせ:BEA(092-712-4221)
日時/会場:2010年5月7日(金)Open 18:00/Start 19:00 @ Zepp Tokyo
問い合わせ:HOT STUFF(03-5720-9999)
料金(すべて):4,200円(Tax In)
- 前の記事: RHYMESTER
- 次の記事: LONG REVIEW 『マニフェスト』