INTERVIEW――POLYSICS
キーボーディスト=カヨのバンド卒業が公式に発表された2日後の都内某所。約2年前から決定していたというバンドの転機を迎えるにあたって、POLYSICSの中心人物はいま、何を考えているのか。
現在の4人で迎える最高の舞台、カヨを送り出す花道ともなる武道館公演のヴィジョンや充電期間後の話も含めてハヤシを直撃した。
舞台を整えて、笑顔でカヨを送り出そうと
――カヨちゃんの〈卒業〉の話はいつ頃から出ていたんですか。
「約 2年前(2007年12月)に……彼女から〈辞めたい〉という意志を聞いて。ちょうどアメリカ・ツアーの帰りで。マイスペース・レコードのツアーで、ポリシックス史上もっとも過酷なツアーだったんですけど、終わってミーティングして。2月からヨーロッパ・ツアーも決まってたし、その後も日本のツアーが控えてる。今後も過酷なスケジュールになるけど、ぶっちゃけどう? みたいな話をメンバー同士でやったら、〈ちょっとしんどいなあ〉〈辞めたい〉という話が彼女から出て。それまでバンドの活動全般については、僕かマネージャーが決めてたんですけど、彼女が意見を発したことはなかったんですよ。〈辞めたい〉というのが、彼女から発せられた初めての意志だったんです。インディーの時、1回辞めるって話が出たことがあったけど、もうちょっとがんばろうよって話をして、そこからずっとついてきてくれたんだけど、またそういう感じになって。でもすぐ辞めるのは現実的に不可能だったし、ある程度目安を立ててがんばってみて、それからって話をして。ちょうど『We ate the machine』を録音中だったこともあって、それが出来上がるまでって話だったんだけど、いざ出来上がってみると、ここで終わるのは自分たちとしてもすっきりしない。カヨを送り出すのであれば、ちゃんとした舞台を整えて、笑顔で送り出そうってことを決めて。それまでがんばろうよ、もう1枚アルバム作ろうよって話になって。そこで彼女も納得してくれて」
――彼女が言い出すまで、そういう予兆ってあったんですか。
「うーーーーん……彼女もわりと溜めるほうなんで、あまり不満とか口に出すことはなくて……アメリカとかヨーロッパをツアーして、例えばスペインでやってすごくお客さんが熱狂してるのを見ると、バンドやってて良かったなあと、モチベーションがグンと上がるんですよ。それは彼女もいっしょだと思ってたんだけど、そうじゃなかったみたいで。だから僕は(予兆を)感じなかったですね。もしかしたら出してたのかもしれないけど、それでもがんばってついてきてくれてたんで。マイスペース・レコードのツアーって、肉体的というより精神的な疲労が大きかったんですよ。ツアー中にメンバー同士のバランスが崩れて、大ゲンカになったこともあったし。ヤノが加入してからのPOLYSICSはそれまで以上に国内外問わず、激しいスケジュールで動いてたんですよ。大阪行って次の日フランス行って戻ってきて埼玉、みたいな(笑)。そういうなかでも楽しいこともあるはずと思ってやってたけど、彼女としたらどんどんそういうスケジュールが決まっていって、うまく言い出せなかったというのもあったみたいで」
――今回の話を聞いて、すごく残念ではあるんだけど、まあ仕方ないかなという気持ちも正直あって。と同時に、13年間もよくがんばってハヤシ君についていって、〈POLYSICSのカヨ〉を演じ切ったものだなと。
「そうなんですよね……」
――普通の女性であれば、遊んだり彼氏作ったり、結婚して子供作って……という生活があったかもしれないけど、それを全部ポリに捧げてきたという。よくがんばったな、と。
「うん、そうですね。そこはすごく感謝してるところで。しんどいところもあったと思うけど、ちゃんとライヴになるとあの存在感で、〈POLYSICSのカヨ〉になる。それを10年以上もやってきたんだから、すごい〈プロ〉を感じますよね」
――じゃあ、2年前に彼女に意志を告げられてからいまに至るまで、いかに彼女の花道を作るかっていうことをずっと考えてきた。
「うん、でもそれは後半の1年ですね。彼女が辞めることが決まってから『We ate the machine』の頃までは、いかにこの状況を変えるかってことばかり考えてたから。がんばっていいライヴをして、なんとか彼女がもう一回やる気を取り戻してくれないかと。フェスとかでトリをやって良いライヴができた時とか、これをきっかけにもう一度考え直してくれないかなと、ライヴ1本やるたびに思ってましたね。ライヴやるごとにすごい複雑な思いが湧いてきて。せっかくここまで来てるのに、彼女が抜けることによって、また一から出直さなきゃいけない、もったいない、とか。この曲はもうできなくなるなあ、とか。けっこう後ろ向きなことばかり考えてライヴやってて。自分的には不安定でしたね、その時期は。その思いで音源制作をしてるのも自分としてはしんどくて。『We ate the machine』ではやりたいものが作れたけど、バンド内はギスギスしてたし」
――そうか、全然気付かなかった……。
「でもその次の1年、『Absolute POLYSICS』を作るまでには、また変わってましたね。『We ate the machine』のツアーが終わった後、もう一度彼女に訊いたんですよ。でも(辞めるという意志は)変わらないって。そこで自分としてふんぎりがついたというか。そんな精神状態のまま音楽作ったりライヴやったりするのは、健全な感じがしなくて、もういやだと。そこでどういうものを作ろうかと思った時に、もう一度POLYSICSってものを見つめ直して、いまのこの4人でできる究極のアルバムを作ろうって思ったんです。そこからは一気にラクになった」
――だから『Absolute POLYSICS』はあれだけ吹っ切れたアルバムになったと。
「そう思いますね。すごい良いものが出来たと思うし。自分的にすごく変わったし、ライヴもとにかくこの4人でできる最高のものを全箇所で見せよう、という思いに変わってきて、いい感じでできたと思う」
――カヨちゃんが辞めたいと言い出した時のバンド内の反応は?
「ああ……あのツアー(マイスペース・ツアー)の流れからすると、〈ああ来たか〉という感じでしたね。でもやっぱりみんな、いますぐ辞めるなんて無理だよねって話になって。昔の自分だったらね、そういうメンバーがいたら〈もういいよ!〉ってなってたと思う。去る者は追わない。でも今回はそういう思いにはならなくて」
――いまや自分ひとりで全部決められるわけじゃないし。
「そう。昔は周りの意見も聞かず衝動的に結論を出してたと思うけど、でも今回は、いますぐ決めるんじゃなく、ちょっと待とうよって。そこは冷静になってました。自分たちの都合だけじゃなく、ファンに対しても、いますぐカヨが去るのは違うだろうと」
――この4人でやり残したことがまだ残っていたから、ということでもありますね。
「そうですね」
――そのやり残したことを全部やりきった実感があったのが、『Absolute POLYSICS』だという。
「うーん……いまのところのベストって感じかな。基本的に毎回毎回やり切るから、その時はその時で出し切るんだけど。もうネタがない、次どうしようっていつも思うんだけど、でもアルバム作ってツアーが終わる頃には、もう次のアイデアがどんどん湧いてくる。次はこれやろうとかあれやろうとか考えるんだけど、今回は武道館が終わるまでそういうことを考えないようにしてます」
自分の人となりが楽曲になる
――今回のベスト盤、冒頭からカヨちゃんのヴォーカル曲が目立つ構成だなと思ったんですが、そういう意図があったんですか。
「あー、それはあまり関係なかったですね。ヤノが入ってからのベストを作るということで、カヨのことは特別意識してないです。ツアー中にずっと選曲や曲順を考えていて、移動中に常に並べ替えたりしてずっと聴いてて、この流れがいちばん良かったというだけで。“Baby BIAS”はヤノが入っていまの4人になって、初めて出したシングルだから。それぐらいしか考えてなかったですね。Disc-1にシングルの曲は全部入れて、初めての人でも入りやすいように。ポップでクレイジーで……ハッピーな部分を多めに出せればと。で、Disc-2でコアな部分を伝えられればと思いました。そこはあえてそういう曲を選んで」
――Disc-1のほうはPOLYSICSのポップな部分がすごく出てるなと感じたんですが、それはやはりシングル曲だからでしょうか?
「うーん、どうだろう……ポップなものをシングルで出す――そう考えて作っていた時期も確かにありましたけど、そんなに器用なほうじゃないから(笑)。その時出来た、4人がいちばんグッとくる曲がシングルになってますね」
――曲はシングルにすることを前提として作ってるんですか?
「作ってないですね。結果的にシングルになっちゃう感じが多いです。このなかでシングルにすることを考えて作ったのは……“Pretty Good”ぐらいじゃないかな」
――シングルってそもそもどういうものだと考えてますか。
「僕はみんなと若干違って、バンドの姿勢出しみたいな。〈いま僕らがやりたいことはこれです〉みたいなのをシングルで伝えたい。〈次のPOLYSICSはこれです〉みたいな。アルバムではこれのさらにもっと深くて濃いものが聴けますよ、みたいな感じで作ってたりしますね。あと、バンドの意志。いま伝えたいことはこれだっていう意志の表明。それが“Electric Surfin' Go Go”だったり。それが結果的にマスに伝わりやすいものになってるから、最終的にシングルになってるってことが多いですね」
――バンドの姿勢を示すエッセンス的な曲がシングルになって、みんなに受け入れられているなら、いいことじゃないですか。
「うんうん、そうですね。まあレコード会社的にはもっといろんなこと考えてるかもしれないけど(笑)、とりあえず自分としてはそういうことを意識して作ってる」
――実際にレコード会社とシングルに関して考えが食い違うことはないんですか。
「最近はないですねえ。“Young OH! OH!”とか、まったくシングルを意識してなかったけど、シングルになったし。しかも誰が聴いてもPOLYSICSの曲になって、逆にすごくPOLYSICSのシングルらしい曲になっちゃったという」
――でも、おもしろいよね。“Young OH! OH!”は POLYSICSっていう枠からはみ出したくて作ったのに、すごくPOLYSICSらしい曲になってしまったというのは。
「……最終的にポリになっちゃう……のかもしれないですね」
――なっちゃう? しちゃう?
「なっちゃう」
――そこに自分の意志は介在しないんだ?
「そこはどうだろうなあ……自分の性格的なものや色、個性みたいなものは、やっぱり音楽に反映されるのかもしれない。ある種の電子音だったり。好みの音色とか、ユーモアの混ざった曲のフックだったり。そういうのは入れたくなる……というか入れてしまう」
――インダストリアルに影響受けたっていっても、絶対ミニストリーみたいにはならないもんねえ。
「(笑)そうそう。やろうと思ったってならない。そうなんですよね。そういうものがポリにとっては大事な気がして。〈入れちゃう〉のかもしれないですね。入れないと落ち着かないというか」
――そこでハヤシ君がこだわるのは、やはりポップさとか聴きやすさとか親しみやすさ。
「ああ、それはありますねえ。自分がそういう音楽が好きっていうのもあるし、ノイズみたいな音楽でも、聴くのは好きだけど自分でやろうとはまったく思わない。 20分間ノイズを鳴らし続けるみたいなバンドにはならないし、したくない。それはPOLYSICSじゃない。ある種の〈愛嬌〉――〈ポップセンス〉というよりは――がないと、POLYSICSじゃない気がする」
――POLYSICSじゃないハヤシヒロユキって、あるんですか?
「……ああ……(笑)……どうなんでしょうね。考えたこともないなあ」
――聴くものとやるものは違うってことは、あるのかなと思ったんですが。
「いや……すいません、たぶんそんなに違わない(笑)」
――あははは。
「自分の人となりが楽曲になっちゃう気はするんですよね。そこは〈そうなっちゃう〉気がする。そこをクールに抑えても、いいものにはならないと思う」
自分たちの成長の記録
――まさにハヤシ君の人となりとか感性がPOLYSICSの曲になるとして、カヨちゃんをはじめとする3人のメンバーは、そこに何を加えてくれてるんだろう。
「なんだろう……曲の作り方がここ何年かで大きく変わったんですよね。前は自分で完璧なデモを作って――ベースも弾いて、ドラムもフィルの一個一個にこだわって打ち込んで――それをメンバーに聴かせて再現するというカタチで作ってたんですよ。『POLYSICS OR DIE!!!!』(最初のベスト)ぐらいまで。そこからヤノが入って、海外ツアーをガンガンやってメンバーの演奏面での信頼感がグンと増してきたんですよ。それまではひとりひとりがコンピューターに合わせて演奏する、みたいなスタイルだったのが、海外での過酷なサヴァイヴァルを経て、バンドの4人ががっちり演奏する楽しさみたいなのが出てきたんです。お互い目を合わせて演奏するのがすごい新鮮で。そこで曲の作り方が変わってきましたね。自分は核になるシーケンスとギター・リフだけ作って、あとはスタジオでみんなに任せるという。ここ最近は特にそうです。僕すらも、この曲がどうなるかわからないってことを楽しみながら演奏できるようになりました。自分もそこまで決め込まないで、自分がこう思ってた曲がどんどん変わって、まったく違うタイプの曲になっていくこともある。でもそれはそれで最高じゃんと思うし。曲作ってる時に、メンバーのプレイが浮かぶんですよね。そういうのをイメージしながら曲を書くようになって。そこでどんどんセッションしていくうちに、メンバーが俺が思ってる以上にアレンジを加えてくるから、曲の幅も広がるし。以前だったら、メンバーは自分の曲を再現すればよくて、言ってみれば誰でも良かったんだけど、その時から、いまのメンバーで音楽作るとこんなにおもしろい音楽が出来るんだなあって思いになりましたね」
――よりバンドらしくなったと。
「そうですね。アルバム出すごとに、メンバーのパーソナルな部分がどんどん引き立ってきたと思う」
――その過程が『BESTOISU!!!!』なわけですね。
「ヤノが入ってからの5年間の音源で、ヤノの成長記録でもあるんだけど、それ以上に自分たちの成長の記録でもある気がしますね」
――いまのPOLYSICSは、単にハヤシ君が頭のなかで作り上げた音楽ではない。
「そうですね。最初は自分の頭のなかで鳴っている音があるけど、セッションしていくうちにものすごいケミストリーが起きて、ものすごいものに変貌していって、ものすごいものが出来ちゃう。でもそこに自分のエッセンスみたいなものはちゃんと叩き込まれてる」
――ふむ。そういう成長は音だけじゃないですよね。ファンにとって、POLYSICSって単に音だけじゃなくて、メンバーの佇まいとか、たとえばカヨちゃんのアクションとかも含めて記憶されてると思うんですよ。そういうものすべてが合わさってPOLYSICSの魅力が形作られている、という実感は、確かに最近は強くなっているかも。
「一時はPOLYSICSの4人のバンド感をどれだけ極めるか、バンド・サウンドをいかに固めていくかということをずっと考えていました。それが、1年ぐらい前からかな。バンド・サウンドのおもしろい部分がライヴでも伝わるようになってきた時に、次はそれだけじゃない、POLYSICSなりのエンターテイメントな部分をアピールするようにしたいなと思うようになりましたね。それこそ初期のパン投げじゃないけど、ああいう要素も、いまならアリかなとも思うようになりました」
――いまならパン投げても色モノ扱いされない……。
「パンに負けてない(笑)。だから“Fire Bison”で風船膨らませるアイデアも出てきたし、“COLON”をまたやりだしたりとか。それも『We ate the machine』である程度やり切った手応えがあったからだと思います」
この4人でできる最高のPOLYSICSを武道館で
――そうなると、想定していたこととはいえ、カヨちゃんというピースがなくなるのは大きいですね。カヨちゃん後のPOLYSICSの構想は具体的にあるんですか。
「……ありますよ。それを早く音に出してみたい」
――後釜のメンバーはどうするの?
「いや、3人でやります。ライヴでサポートを入れることも考えてない。カヨの代わりなんていないし。そこでキーボードがめちゃくちゃ上手い人を入れたところで、プレイ的にはいいかもしれないけど、でもそういうものじゃないでしょ」
――カヨちゃんの場合、ステージでの絵的な部分とか存在感が大きいですからね。
「ああ。そこは自分でもそう思うけど、サコ(POLY2号)が辞めた時もそんな感じだったし。そこはもう、がんばるしかない。まずは、この4人でできる最高の POLYSICSを武道館で見せることが大前提なんだけど、その次のPOLYSICSの準備は、早くからやりたい。構想はあるけど、でもそれがライヴでいつできるかは、まだわからない」
――古い曲もアレンジし直す必要があるかもしれないし、カヨちゃんのヴォーカル曲はもうできないかもしれない。
「そうですね。そこはそこで、新曲を作って新たなPOLYSICSのスタンダードをどんどん作っていけばいいし」
――武道館後の予定は決まってるんですか。
「具体的にはまだ(2009年12月25日現在)」
――デビュー以来初めてじゃないですか、そんなこと。
「初めてですよ。いつもアルバム作る時って、その次のことも考えながら作るんですよ。今回ここまでできたから、次はあれができるな、とか。今回はそういうのがなかったから。とにかく武道館に向けてがんばるという感じ」
――武道館はどうなりそうなんですか。
「カヨ卒業って意味もあるし、デビュー10周年の節目でもある。『BESTOISU!!!!』も出すし、ベスト選曲でやりますよ」
――武道館では、ディーヴォが初来日公演でやってますね。
「そう! その31年後にポリができるって、すげえなと思いますよ。ディーヴォは40分ぐらいしかやらなかったらしいけど、さすがにポリはもう少しやります(笑)。カヨを気持ちよく送り出せるようなライヴができたらな、と思いますね」
――いまはファンもショックを受けてる段階だろうけど、武道館の頃には落ち着いて、楽しもうというモードになってるだろうし。
「うん、そこは本当に。僕、湿っぽいのいやなんで(笑)。武道館でPOLYSICSがやるってだけでおもしろいだろうって気がするし(笑)。その場を楽しく過ごせればと思います」
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