こんにちは、ゲスト

ショッピングカート
  • Check

特集

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2010年01月13日 19:47

更新: 2010年02月19日 16:36

ソース: intoxicate vol.83 (2009年12月20日発行)

interview&text:小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)

これまで、サックス版の《ゴルトベルク》はいくつも録音があった。しかし、だいたいおなじになってしまう。つまり、「やってみました」とか「できました」「うまいでしょ」程度でしかない。おなじ楽器で低音から高音まで音色がそろっているというのはいい面だろう。鍵盤楽器みたいな音色からアレンジするのはけっこう楽なはずだ。しかし実際に作品として面白いものになるかというと、なかなかむずかしい。

「クラシックのサキソフォン・アンサンブルって、あんまり好きじゃないんです。だから、アーティキュレーションとか発音をいろいろみんなで研究していきたいなと思っています。あまりタンギングしないで、「ふふふ」ってやっていこうよ、とか。どっちかというと、サキソフォン・アンサンブルというよりも足踏みオルガンみたいなニュアンスで聴こえてくるような、ヴィブラートなしの感じがいいかな、とか」

《チェロ組曲》の後、サキソフォネッツにはアルバム『ペンタトニカ』があった。ここでペンタトニック(五音からなる音階)やポリフォニーをやったことが、今度のバッハには反映されるのではないか──ひとつの勘なのだけれど。

「バッハより前、マライヤみたいなポップのバンドをやっていたときから、五音音階ものはいろいろやっていたんです。北島三郎のプロデュースをしたりもしているんですよ(笑)。こんなに音楽のいろんな影響のある国ってあまりないなぁと、けっしてネガティヴな意味ではなく、思っているんです。それがいいときもあるし、がっくりするときもあるし、その辺いつも考えさせられちゃうところではあるんですが。基本的には社会状況で培ったものを生かそうとは思っているんですね。
僕は海外でバッハのパフォーマンスをすることが多くて、パリのテアトル・ドゥ・ラ・ヴィル(市立劇場)でハバネラ・サキソフォン・カルテットと共演したことがあるんです。そのときには《チェロ組曲》のトリフォニーでやったものをアレンジしなおしてやったんですが、プログラムの打ち合わせをしていたときに、『バッハの作品だけじゃなくて、もうひとつ何かちがう作品を入れてもらえますか』という話がでた。僕はいつもバッハをやっていたんで、ベートーヴェンをやるわけにもいかないし(笑)、どうしよう……困ったなとちょっと悩んだ。そんなとき、どうせならペンタトニックをぶつけてみたら面白いなと思ったんです。その場で提案して、しかも、ペンタトニックのコーナー、バッハのコーナーに分けるんじゃなくて、1曲ずつ交互にやったらどうかというアイデアを出したら、『面白いじゃない。やりましょう、やりましょう』ということになった。
そうして、サキソフォンのために、オリジナルのペンタトニックの曲ができた。ところが、リハーサルが3日しかとれなかった。ペンタトニックの曲って、コブシとか音の膨らませ方なんかをフランス人に説明するのがすごく大変なんです。結果的にはすごくウケたんですけれど、僕自身としては、もうちょっと追究したいなと、サキソフォネッツ・メンバーを集め、もうちょっと違う曲もつくって、1からリハーサルをしながらつくった ──それが『ぺンタトニカ』なんです。

『ペンタトニカ』と『CELLO SUITES』とがともに聴くことでできる現在、その先にあらわれる《ゴルトベルク》を、音のみではなく、視覚や体感として、触れてみなくてはなるまい。それは清水靖晃の現在であると同時に、アンサンブルやコンサートの、未来形を志向する現在であるはずだ。

※ゴルトベルク変奏曲
「無伴奏チェロ組曲」「フーガの技法」と並ぶ、バッハの晩年を飾る3大傑作のひとつ。バッハが音楽の手ほどきをしたゴルトベルクという少年が、不眠症に悩む伯爵のために演奏したという逸話からこの俗称がついている。

清水靖晃:作曲家/サキソフォン奏者。1978年にアルバムデビュー。83年、「サキソフォネッツ」プロジェクトを始動。96年、「バッハ・プロジェクト」に着手。プロデューサー、編曲家としても高く評価され、多様な音楽の制作に関わる。映像に寄せる関心も高く、最近では、松本人志監督『しんぼる』(09年)の映画音楽を担当した。www.yasuaki-shimizu.com

寄稿者プロフィール
小沼純一:音楽・文芸批評家。早稲田大学教授。著書に『音楽探し 20世紀音楽ガイド』(洋泉社)『バッハ「ゴルトベルク変奏曲」世界・音楽・メディア』(みすず書房)『バカラック、ルグラン、ジョビン 愛すべき音楽家たちの贈り物』(平凡社)など。

清水靖晃氏によるコメントとリハーサルの映像

トリフォニーホール《ゴルトベルク変奏曲》2010
“清水靖晃&サキソフォネッツ”

出演:清水靖晃(ts)江川良子/林田祐和/鈴木広志/東涼太(sax)
佐々木大輔/倉持敦/大石健治/木村将之(cb)

2010年2月27日(土)17:30開場/18:00開演
会場:すみだトリフォニーホール
www.triphony.com

  • 前の記事: 2

インタビュー