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2010年もNYシーンから目が離せない!

  ブルックリン勢を中心に、ここ数年勢いを増しているNYのロック・シーン。ダーティ・プロジェクターズの『Bitte Orce』が世界的な高評価を受けたほか、アメージング・ベイビーやハイ・プレイシズといった新顔も続々とデビューを飾り、2009年はその勢力がさらに拡大した年となった。そして、少し前まではフリー・フォーク的なサウンドが目立っていた同シーンにバンド・サウンドを復活させた立役者こそ、2007年に登場したヴァンパイア・ウィークエンドに他ならない。〈ロック的なことはやらない〉を旗印に結成されたこのバンドは、2008年に『Vampire Weekend』でアルバム・デビュー。同作が世界中で100万枚以上のセールスを記録するなど、彼らはシーンの認知度をオーヴァーグラウンドにおいて高める役割を果たすことに。それと同時に、アフロビートを採り入れた独特のエキゾティックなリズムや、クリーンなトーンで鳴らされるギター・サウンドなどを模倣する後輩たちが続出。期せずして、インディー・ロック・シーン全体のトレンドセッター的な役割も任されるようになる。

 彼らにとっての2009年は、ライヴやツアーの他にもそれぞれの課外活動が活発化した一年だった。フロントマンのエズラ・クーニグ(ヴォーカル/ギター)は、ディスカヴァリーとヴェリー・ベストのアルバムに参加。そのディスカヴァリーは、バンド・メンバーのロスタム・バトマングリ(ヴォーカル/キーボード)が昔からの友人であるウェス・マイルス(ラ・ラ・ライオット)と共に結成したソウルフルなエレポップ・ユニットだ。ちなみに、彼らのデビュー作『LP』にはエズラの他にもダーティ・プロジェクターズのエンジェル嬢らが参加するなど、NYシーンのフロントラインが一望できる内容に仕上がっていた。

 そんなヴァンパイア・ウィークエンドが、2010年早々にセカンド・アルバム『Contra』をリリースする。〈Contra〉とは、〈2つの対立するもの〉〈二律背反〉などを意味する言葉。なるほど、〈新作ではあえてデビュー作でやらなかったことに挑戦しよう!〉とばかりに、ドラムマシーンや打ち込みを積極的に導入し、それらと相反するアコースティックなサウンドをそこに融合させている。また、バロック音楽的な豊穣さを持つバラードからスカ・パンクも真っ青の高速リズムを擁するナンバーまで、曲の雰囲気もよりいっそう多彩に。ディスカヴァリーとしての活動を経たロスタムによるプロデュース・ワークは、エレクトロニック・ミュージックへの愛を窺わせるが、一貫してギター・ロックの幅を広げるアプローチがなされているため、ロック・バンドとしてのブレは見当たらない。

 「僕らからしてみれば、ヴァンパイア・ウィークエンドがギター、ベース、ドラムスだけを使うバンドだと思ったことは一度もないんだよね。で、今回はただシンプルに、〈それぞれの曲にどういうサウンドがもっとも合うんだろう?〉っていうことだけを判断基準に作ったんだ。そうだね、それが自然なことだと思ったから……かな。ヴァンパイア・ウィークエンドよりも前から、メンバーはそれぞれヒップホップやエレクトロニカも含めた多種多様な音楽を演ってきているしね」(エズラ)。

 このコメント通り、ごく自然に、しかし確固たる決意を持って音の在り方に挑戦する様が頼もしい。他にも、デビュー作『Oracular Spectacular』でヴァンパイアと共に現行NYシーンを牽引してきたMGMTのセカンド・アルバムが今春に予定されている。新たなフェイズに入ろうとしているNYのロック・シーンに、2010年代も注目しておこう。

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2010年01月13日 18:00

更新: 2010年01月13日 18:00

ソース: 『bounce』 317号(2009/12/25)

文/妹沢 奈美

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