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いよいよ多様化してきたポップ・アイドル像


  デビューまでのプロセスを明かそうと明かすまいと、おおよそのポップ・アーティストは多かれ少なかれ〈作られた存在〉であることに代わりはありません。イメージのコントロールだったり、何かしらのディレクションを受けていたり、目標を与えられてレッスンしていたり。それはポップスでもカントリーでもロックでもR&Bでもヒップホップでも、ととりあえず言い切ってしまいましょう。

 で、そんなことは多くの人が理解したうえで楽しんでいるのだろうと思ったけど、いまだにそうでもない向きはあるようで、〈ポップ・アイドル〉というと自立した〈アーティスト〉よりも一段下に見ようとする人がいるのは非常につまらなく、悲しいことです。自分で曲を書いたり、プロデュースしたりしているかどうかをアーティスティックであることの分かれ目に設定している人も多いようですが、それはシンガーかシンガー・ソングライターかという違いに過ぎません。例えば、Perfumeがブレイクした際に──恐らくは旧来のロック的な視点と折り合いを付けようとされたのでしょう──〈Perfumeは曲を作ってないけどアーティスト性を感じさせる!〉と力説している人がよくいらっしゃいました。

 はあ?という感じです。そもそもアイドルとアーティストが二元的に考えられる時点でズレてると思うのですが、〈曲を作ってないけど……〉という考え方もそろそろ止めていただきたい。おしなべてポップ・ミュージックはそういう役割分担の産物でもあります。本人が書いたことで曲そのものの価値が変わるのかと。〈歌の上手いだけ〉〈ダンスの上手いだけ〉の人がどんなに素晴らしいのかと。そうやって特殊な才能を持った人がアーティストであって、アイドル性のあるなしはそことは別の話なのです。


  そう改めて思わされたのは、非常におもしろかった〈アメリカン・アイドル〉の第8シーズンの出演者3人がそれぞれ興味深い作品を出してきたからです。まず、優勝したクリス・アレンは純朴なシンガー・ソングライター風の『Kris Allen』を発表しました。番組でもアコギやピアノを演奏して審査に臨んでいましたし、その印象を裏切らない作りでしょう。カニエ・ウェスト“Heartless”を取り上げているのもポイントですが、それも番組で披露されていたもので、破綻のない仕上がり自体が無害そうなクリスらしさを感じさせる作品となっています。また、4位に終わったLA暮らしの17歳、アリソン・イラヒータ。彼女の『Just Like You』は重鎮のハワード・ベンソンや躍進中のケヴィン・ルドルフらをプロデュースに迎えたロック主体の内容に仕上がっています。かつてのケリー・クラークソンをフォローするようなエモーショナルな仕上がりだと言えましょう。

 そして優勝候補とされながらも2位になったアダム・ランバートの『For Your Entertainment』、これは全米2位の大ヒットになりました。番組でのオーディション時から一風変わったメイクと出で立ちを見せていた彼は、本国ではゲイというアティテュードをカミングアウトし、恋人との写真を撮られたりもしているニュータイプのアイドルであります。ハード・ロック~ヘヴィーメタルの曲を好んで歌い上げ、オペラチックに激唱する姿はまさにエンターテイナーそのもの。しかもそれが、規制された結果の姿じゃなく、個性や趣味の発露だというのもおもしろい部分でしょう。……このように〈アイドル〉の世界も内実はどんどん変化し、一口には括れない個性や質の高いポップ作品がどんどん出てきているので、2010年は無用な偏見を捨てて楽しみたいものです。ちなみに、3人とも曲を書いていますね。

▼2009年に登場したアイドル盤を一部紹介。

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2010年01月13日 18:00

更新: 2010年01月13日 18:00

ソース: 『bounce』 317号(2009/12/25)

文/出嶌 孝次

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