丁寧な歌と端正な作品が豊作
全体としてはマイケル・ジャクソン逝去の落とした影が色濃く、特別に新しい潮流が生まれたわけではないが、正統派のR&Bマナーを重視した作品と、多彩な音に踏み込むアーバン・ポップ志向のものという流れはそのまま連なり、それらを上手く融和してみせたのがチャーリー・ウィルソンやライオネル・リッチーといった大ヴェテランだったのも興味深いところだ。また、2009年にR&Bチャートが新設されたUKでの動きも活発だったことを付け加えておきたい。
AVANT
『Avant』 Capitol
“When It Hurts”などの流麗なスロウを収録したレーベル移籍を経てのこの5作目も、前作『Director』の延長線上にあるジェントルな好R&B集だった。また同時に、スティーヴ・ハフ不在の代わりに気鋭の制作陣を迎えてアップ・ナンバーの比率を高めるなどの新機軸も示していた。*池谷
MUSIQ SOULCHILD
『Onmyradio』 Atlantic
アトランタに移住しサウス・マナーの“Radio”を出したことで旧来のファンを戸惑わせたのは事実だが、フタを開けてみればメアリーJ・ブライジとの共演曲“Ifuleave”をはじめ彼流のソウルが満載。フィリー・ソウルの正統継承者の座に揺るぎはなかった。*池谷
BRANDY
『Human』 Knockout/E1/Epic
不幸を乗り越えて人間的な成長も歌い込み、2008年末にリリースした再出発的なアルバム。ロドニー・ジャーキンズと再会を果たした一方でポップス畑の職人たちとも顔を合わせ、クロスオーヴァー化するR&Bシーンのなかに溶け込んでみせた。*林
CHARLIE WILSON
『Uncle Charlie』 Jive
ギャップ・バンド時代のようなファンクをやりながら、若者感覚で〈いま〉を生きている驚異の56歳。かといって流行におもねることもなく、T・ペインらを迎えても〈俺流〉を貫く。“There Goes My Baby”という新たなクラシックも誕生! *林
LIONEL RICHIE
『Just Go』 Island
R&Bとポップスの境界線が薄まり、80'sな気分が蘇ってきている現在の状況は、この男にとって好都合だったはず。スターゲイトやエイコン、ドリームらを起用したこれは、親友だったマイケル・ジャクソンがめざしていたことを半分実現させたような作品という気も。*林
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