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INTERVIEW――黒猫チェルシー

古き良きロックの毒で遊びまくる19歳

  大概の人は〈昔あったね、こういう音〉と言うと思うのだが、じゃあ誰に似ている?と訊かれると答えがピタリと決まらない。本人たちはINUやザ・スターリンといった日本のパンクからの影響を公言していて、ケレン味たっぷりの歌や危険物を思わせる存在感はそちらだが、音楽的にはブルース・ロックやハード・ロックにより近い。レッド・ツェッペリンやジミ・ヘンドリックスの遠い子孫とも言えるし、ブラック・サバスやMC5、ポップ寄りならキッス、日本だと村八分、サンハウスなども頭に浮かぶし、最近なら毛皮のマリーズや髭(HiGE)とかも……ああもどかしい。黒猫チェルシーは黒猫チェルシーでいいじゃないか。こんな格好良いロックが2009年の現代に、10代の青年たちによって奏でられていることを素直に喜ぼう。

 「今回の新作でやっと、曲をちゃんと作るようになりました(笑)。いままではインパクト重視だったけど、もっと構成を考えて、もっとカッコイイものをみんなで音を出しながら作り上げるというやり方をするようになりました」(渡辺大知、ヴォーカル)。

 渡辺大知が映画「色即ぜねれいしょん」に出演したことで、一気にバンドの知名度が上昇。そんななかでリリースされるセカンド・ミニ・アルバム『All de Fashion』は、エンジニアに越川和磨(毛皮のマリーズ)を迎え、前作より遥かにダーティーでパワフルなサウンドを実現した。

 「すごく変化したアルバムになったと思うんですよ。曲ごとの色もありつつ、アルバム全体にストーリーがあるし。ファーストを作った時にはなかった達成感があります」(渡辺)。

 加えて、テレヴィジョンやザ・フー、ジミヘンから引用したギター・リフを忍ばせる曲など、前作には見られなかった遊び心もある。そんな部分にバンドの成長と余裕が感じられるだろう。

 「自分らが聴いてクスッと笑えるものをめざしていたというのもあるし、ロック好きな人にもクスッと笑ってほしいし。僕も人の音楽を聴いて、〈これ、あのバンドに影響受けてるな〉とか、そういうのを感じると嬉しくなるので」(澤竜次、ギター)。

 「それで歌詞も似たようなものだったらアレですけど、ジミヘンみたいな曲で“南京錠の件”とか歌ってるあたりがある意味ギャグというか、化学反応というか(笑)。あの曲はミドリの後藤まりこさんにデュエットしてもらったんですけど、最後の〈外したい、離れない〉のリフレインでは完全に感情移入して、泣きそうになりながら歌っています。意味を込めた歌詞を一行歌うよりも、意味のない歌詞を繰り返し歌うほうが、すごい意味があるように感じるというか」(渡辺)。

 〈ロックは激情を誘発する音楽である〉という基本に、黒猫チェルシーは忠実だ。だからこそ、一見オールド・ファッションなその音楽が、コアなロック・ファン以外にも広がっていく可能性があると言えるんじゃないだろうか?

 「ロックとは何か?と訊かれても、よくわかんないですね。ただ、いまはロックのライヴを普通に観れてるけど、昔だったらもっと驚きがあったと思うんですよ。ロックに対してだんだん冷めてきているなか、もう1回、全然ロックを知らん人たちが喰い付いてくれたら嬉しいですね。ロックには喰い付かせる力があると思うんで、そういうところが僕らも大好きだし。そんなに難しいことせんでも、堂々とバーンとやって盛り上がるというのがもっと増えたらええのにって、すごい思うんですけどね」(澤)。

 2010年は今年以上にライヴを行い、「早く次のアルバムを作りたい」(渡辺)と気合は十分。黒猫チェルシーと共に、日本のロックは新たなステージへと突入する。

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2009年12月02日 18:00

ソース: 『bounce』 316号(2009/11/25)

文/宮本 英夫

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