quasimode
夜明けまで踊り明かすための、最高のジャズ
ブルー・ノート70周年のタイミングで挑んだカヴァー・アルバム『mode of blue』を経て、quasimodeが大きく動き出した。4枚目のオリジナル・アルバムとなる新作『daybreak』での彼らは、より濃厚になった、quasimode流のジャズへの取り組みを存分に聴かせてくれている。
「これからのquasimodeの方向性を考えながら新作を構想したんです。ライヴでお客さんによくお話しているように〈ジャズは踊れて、楽しくて、親しみやすい音楽〉だと思っています。今回はそれをさらに明確に打ち出したアルバムにしようと。タイトルの意味は〈夜明け〉。僕らが再スタートを切るという意味を込めて名付けました」(平戸祐介、ピアノ/キーボード)。
「3作目で自分たちのスタイルを確立できたという自覚があります。そうして今後はあまりジャズを聴いたことがない人にも、もっと僕らの音を届けたいと。ドラムスの今泉(総之輔)が加入してくれてリズムのヴァリエーションも凄く出てきたし、新しい試みが詰まってますね」(松岡“matzz”高廣、パーカッション)。
実際、彼らのグルーヴは断然太くなった。今泉の音が、何より逞しく、タイトなのだ。
「僕は以前DJやMCをやっていて、92~96年ぐらいの、東海岸のヒップホップが大好きでした。それでサンプリングの元ネタのジャズを聴くことからドラムにのめり込んだんです。音圧の強さとか音の立ち上がる感触は、普通のジャズ・ドラマーより断然好きで、こだわっている部分ですね。それとグルーヴがある一定量を超えてこないと、その音楽そのものが好きじゃなくなるんです」(今泉)。
「実際こういう血がバンドに欲しかったんです。僕は特に黒い方向が好きなんで(笑)」(松岡)。
ドラマーではロバート・グラスパー・トリオでも活躍する辣腕クリス・デイヴを、プロデューサーではDJプレミアを好むという今泉。かつてライヴでは松岡が〈男気部門〉を一手に担っていたが「いまは2人で汗だくで」(松岡)という。
ゲストは賑やかだ。若きシナトラをも彷彿とさせるポップな魅力を持ち込んだウーター・へメル、お馴染みの有坂美香、母親(ディー・ディー・ブリッジウォーター)譲りの黒くて弾性の強い歌を披露するチャイナ・モーゼス。チャイナは、母がかつて日本で吹き込んだクラシック“Afro Blue”のカヴァーでマイクを握った。さらに、いまやクラブ・ジャズ界随一のトランぺッターとの呼び声も高いファブリツィオ・ボッソも参加している。
「ファブリツィオは僕らが求めている、踊れて熱情的な感じの曲に凄くフィットしますよね。フレーズをあまりにも大事にしすぎる人は多いけれど、彼は抜群のテクニックの持ち主でありながら、ジャズ・トランペットの概念を覆すようなプレイを乗せてくれて」(平戸)。
もちろん、メンバーそれぞれの〈新しい試み〉も随所にしっかりとはめ込まれた。
「“All Is One”は特にピアノの左手を駆使するフレーズを構築していて、曲全体は4ビート~ディスコ調に展開していくんです。これまでにないチャレンジでした」(平戸)。
「僕はやはりビートの強調ですね。“Havana Brown”はブーガルー的で、トロンボーンとサックスの絡みも盛り込みました。大好きなジャズ・クルセイダーズ的かも。こんな〈ワルい感じのリズム〉はなかなか出せてなかったんです」(松岡)。
さらに今回からは曲作りに須長和広(ベース)と今泉のチームも加わった。平戸&松岡チームとは異なるアプローチがquasimodeに新たな表情をもたらしている。
「“Feelin' Of Four”はストリングも入って、スカイ・ハイ・プロダクション的かと。アップで攻める曲がメインを占めるなかで、僕らのこういった面も出せたのが嬉しいです」(須長)。
「ドラムの音と奏法は各曲で変えて、凝りまくりました。振り幅は凄く広いと思いますよ!」(今泉)。
よりアグレッシヴに、よりカラフルに。quasimodeの本領は、踊って体感するジャズにある。『daybreak』は、洒落者に見える彼らの骨の太さが存分に盛り込まれた大充実作だ。
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