INTERVIEW――THE LOWBROWS
「パーティーに来て、『For Whom the Bell Tolls』のジャケみたいに人差指を立ててくれる人が増えました。なかには中指の人もいて、それはそれでおもしろいですが(笑)。そういう意味で、広がったんだろうなと思います」(Chaki)。
日本でも音楽(というか記号)として、ここ1~2年で一気に定着した〈エレクトロ〉。Chaki+Emi=THE LOWBROWSが昨年末に放った『For Whom the Bell Tolls』はその決定打となる傑作だった。ただ、一口に〈エレクトロ〉と括られていても、例えばジャスティスっぽい音色や単に電子音を使っただけのものも包括するような濫用ぶりで、流行ったとか終わったとか、ずっと存在している音楽を勝手にハイプ扱いされても困ってしまうのだ。
「確かに、いつの間にかブリブリ=エレクトロになってたので、あれあれ?とは思っていました。もっとヴァラエティー豊かな音楽だということを広めるのも僕らの役割だと考えています」(Chaki)。
Chakiがそう語るように、ここで何かをディファインする必要もなく、彼らは作品で証明してくれた。10か月というスパンで届けられる『Danse Macabre』は、グライミーなベースとシタールの音色が妖しい歌モノ“Oh No”での幕開けから、前作とはまったく異種のキャッチーな猥雑さが次々に押し寄せてきて……ここは文体を雑にしてスゲー!とかカッケー!で終わらせてしまいたい! また、「いつの間にかたくさん曲が出来てたから出した」(Chaki)という前作に対し、今回はスケジュールやコンセプトをガッチリ固めて臨んだそうで、曲調は幅広くなりつつも全体には不思議な統一感が感じられる。
「〈アルバムを作る〉のが初めてだったので、最初は戸惑いました。いままでのんびりしすぎてたかも……」(Emi)。
「やりたいこと、やれることはもっとあるんですが、今回は制限されたコンセプトのなかで100の力を出すように努力しました」(Chaki)。
彼らが掲げたコンセプトとは、〈無国籍な民族のダンス・ミュージック〉〈無心で踊れる音楽〉だそうで、それは〈死の舞踏(Danse Macabre)〉から取った表題にも繋がっている。〈死の舞踏〉とは、ペストの流行で死の恐怖に瀕した人々が踊り狂ったという集団ヒステリー現象を背景に中世ヨーロッパの死生観を表現した、14~15世紀の芸術様式のこと、だ。
「アルバム・タイトルは制作の早い段階で先に決めてました。極限状態に置かれた時に出てくるのって、恐らく人間としての根源的な部分ですよね? それが〈踊り〉っていう身体表現なのは凄く興味深いと以前から思ってたんです。この言葉に興味を持ったきっかけはクラシック音楽の“Danse Macabre”(サン=サーンス作曲の交響詩)なんですが、まさに骸骨がぽこぽこ、かちゃかちゃ踊っているような怪しい格好良さのある曲で。今回のコンセプトにハマるタイトルになったと思います」(Emi)。
つまり『Danse Macabre』は、例えばプリンスが“1999”で歌ったように、終末観を抱いて無心で踊るためのサウンドトラックなのだ。が、ここにあるのは退廃美ではなく、Chakiが「知らなくても踊れちゃう曲」と表現する通りの、呪術的な怪しさも孕んだアッパーな楽しさに他ならない。無国籍映画の劇伴のような“Divine Comedy”、SOIL&“PIMP”SESSIONSのタブゾンビと元晴を迎えたピッグバッグ“Papa's Got a Brand New PigBag”のトライバルなカヴァー、ダブ・ステップが走り屋(?)にチューンナップしてアクセルを踏み込む“Midnight Pirates”……DJ活動も精力的なChakiと、クラシック音楽や文芸全般に造詣が深いEmiの素養が絶妙に絡み合って、すべての試みが最高に機能している。
「もう、すべてがチャレンジでしたね。無国籍な民族音楽みたいなものを、どうやって現代のクラブ・ミュージックに落とし込むか、プレッシャーや葛藤もあったけど楽しかったです」(Chaki)。
クラブ・ミュージックに関しての好みは完全に一致すると語り、今後の志向についても「また変わってくると思います」(Chaki)、「が、自分たちでもどうなるかわからないです!」(Emi)と息もピッタリなふたり。じゃあ例えば、もしこの相方じゃなかったら、LOWBROWSの音楽からは何が欠けてしまうのだろうか?
「僕一人で曲を作っても楽曲として成立しないですし、Emiだけだと、いまだに機材の使い方がわかってないから……ドラムのプログラミングすら出来ないんじゃないですかね(笑)」(Chaki)。
「その通りです(笑)。LOWBROWSの音楽から何かが欠けるというよりは、たぶんそれはLOWBROWSではなくなってしまいますね」(Emi)。
PROFILE/THE LOWBROWS
ChakiとEmiによるクリエイター・デュオ。che sa mossaを前身に2005年より活動を開始し、ChakiがDJ活動を行なう傍ら、トラック制作やミックスCDへの楽曲提供を通じて徐々に名を広めていく。2007年にアナログで『THE LOWBROWS E.P.』を発表。2008年には〈サマソニ〉出演を果たし、80kidzやフトン、MISIAらのリミックスを経て、12月にファースト・アルバム『For Whom the Bell Tolls』をリリースする。今年に入ってからもライヴ/DJ活動を展開しつつ、immiやMEG、lego big morl、イーダ・マリア、シミアン・モバイル・ディスコらのリミックスを担当。メジャー・デビュー作となるミニ・アルバム『Danse Macabre』(LINDATUNE/ユニバーサル)をリリースしたばかり。
▼その他のTHE LOWBROWSの作品を紹介
▼THE LOWBROWSが参加したカヴァー/リミックス・アルバムの一部を紹介
- 前の記事: THE LOWBROWS
- 次の記事: ELECTRO SHOCK!!! 2009――いま聴くべき越境エレクトロ盤