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特集

LADY SOVEREIGN

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2009年09月24日 19:00

ソース: 『bounce』 314号(2009/9/25)

文/青木 正之

直球すぎることなんてやらないわ!


  いくらチャートを賑わせても暴力沙汰などのトラブルが絶えず、アンダーグラウンドな世界でいかつい男たちが立ち回っているというマイナス・イメージが先行していたUKヒップホップ/グライム。しかし、そんな状況がファッショブルでキュートなレディ・ソヴァリンの登場で一変したのは記憶に新しいところだ。ディジー・ラスカルに倣うようにポップ・フィールドとも積極的に交流した彼女は、シーン全体のポテンシャルの高さをも示してくれた。

 そして、もっとも驚かされたのがジェイ・Zに見初められてUSのデフ・ジャムと契約したこと。しかも、どこをどう切り取ってもUKマナーで通してメダシンやDrルークらと制作した『Public Warning』からは、シングル“Love Me Or Hate Me”が全米ダンス・チャート1位を獲得。あまりの順風満帆さに、さぞや本人もイケイケ状態かと思いきや……ショウビズ界はそんなに甘い世界ではなかったようだ。

「最初は雰囲気とかも良かったんだけど……だんだん、何て言うか、忙しさとかが自分の手に負えなくなっていったの。それが平気な人もいるんだろうけど、私は好きになれなかった。ジェイ・Zなんて3度くらいしか会ったことないわよ。とにかく鬼のように忙しかったし、常に世界中を飛び回っていたから、デフ・ジャムでのことはあんまり覚えていないのよね」。

 そういったこともあり、あっさりデフ・ジャムと袂を分かった彼女。メジャーはもうコリゴリだと言わんばかりに自身のレーベル=ミゼットを立ち上げて再スタートを切っている。ただソヴァリン自身のパフォーマンスにはまったく影響もなく、ニュー・アルバムの『Jigsaw』では多少歌うことにウェイトが置かれたものの、あのキレキレのフロウは健在。前作に引き続いてアイデアを手当たり次第に詰め込んだ、勢いのある内容なのだ。

 シンデンがお気に入りだという話にも頷けるような、ベースがモコモコしながらビートが跳ねまくるフィジェット風の“Let's Be Mates”、「自分で初めて書いた、いわゆる〈歌らしい歌〉よ」というインディー・ロック調の“Jigsaw”ではセンティメンタルなメロディーを歌い上げ、キュアー“Close To Me”をネタ使いした“So Human”ではポップなエレクトロにもチャレンジ。こんな具合にキャッチーでカラフルな楽曲が並んでいて、いつまでもこれはグライムかどうかなんて話題にしてたら怒鳴られそうな充実ぶりである。

「何よりもまず私のコアにあるのは〈ラッパーであること〉。そこは揺るぎないのよ。それと、幅広くいろんなことをやっていても私の音楽にはヒネリが必ずあると思う。直球すぎるものなんてないわね」。

 そんな格好いいセリフも飛び出してくる一方、意外と何も考えてなくて、実は直感で動くタイプの彼女。その証拠に〈アルバム制作時の方向性やコンセプトは?〉という問いに「う~ん、別に(笑)。曲はいつもその場の思いつきで作るし、自然に出てくるものを大事にするだけ」だって。ツッコミのひとつも入れたくなるような回答だが、こんな自然体もまた彼女の魅力なのかもね。


メダシンが在籍するスペクトラムの2006年作『Fun At The Gymkhana Club』(Nonstop)

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