鈴木慶一 × 鈴木惣一朗スペシャル対談! リマスター盤から〈ビートルズ伝説〉を大検証!?
リマスター盤ってどんなふうにスゴイの? ……という疑問に、ビートルマニアを代表して(!?)鈴木慶一と鈴木惣一朗=W鈴木が対談形式でお答えします! それどころか、クリアになった音の端々から数多くの〈ビートルズ伝説〉まで検証してしまいます! リマスター前後の音源の聴き比べから始まる、時代を超えた音楽体験への入り口はこちらですよ~。
ビートルズを聴き込むことで、音楽を聴くうえでの基盤ができた
――慶一さんが最初に買ったビートルズのレコードって何だったんですか?
鈴木慶一「〈恋を抱きしめよう〉のシングルだね。アルバムは買わなかったよ。LPは自慢じゃないけど1枚も持ってない」
鈴木惣一朗「え? 持ってないんですか? CDは?」
慶一「CDはいっぱいあるよ、ブートも含めて」
惣一朗「アナログのアルバムを持ってなくて、7インチを持ってるんですか?」
慶一「7インチも数枚だね。なぜかというと借りられたんだよ。誰もが持ってたから。あと、ラジオで(ビートルズを)全曲かける日とかあって、その時にテープに録ればいい。そのぶん、浮いた金を別のグループに使ってた」
惣一朗「ヒネてるなあ(笑)。浮いたお金で(ローリング・)ストーンズとかキンクスを買うんですね」
慶一「(ボブ・)ディランとかね。だって激動の時代だったから」
――惣一朗さんがビートルズを聴きはじめた頃は、もうバンドも解散した頃ですよね。
惣一朗「そう。僕が10歳の頃〈Let It Be〉の映画が公開されて、3つ上の姉貴が“Let It Be”のシングルを買って来た。それで(B面の)“You Know My Name”ばっかり聴いてたという(笑)」
慶一「“You Know My Name”を聴き込むっていうのも変わってると思うな」
惣一朗「慶一さんがおっしゃったように、当時はそんなにレコードは買えないから、1枚のレコードを何度も聴くしかなかったんですよ。だから“Let it Be”と“You Know My Name”ばっかり聴いてましたね。それで歪んでしまった(笑)。あとは遡って聴いていく、というパターン。お金がないので友達と分担してレコードを買ってましたね。〈お前はディランとザ・バンド、他の誰々はストーンズ。で、僕はビートルズを全部買うから貸し借りしよう〉と。それで3年間、ほんとにアップルのものばっかり買ってた。メンバーのソロも聴きたかったし。だから、買い終えた時は、すっきりしましたけどね。大人になったような気持ちでした(笑)」
慶一「壮大な計画だね、3年がかりって」
惣一朗「アルバム1枚をひと月かけて聴き込むので、どんどんマニアックになるんですよ。だから、いきなり〈ジェシ・エド・デイヴィスが~〉みたいなことを言ってたり、〈ホワイト・アルバム〉を聴けば、なんか知らないけどジョン・ケージって人を知らなきゃいけないらしい、とか(笑)。そこで音楽を聴くうえでの基盤ができていく」
――ビートルズのレコードが、音楽の教科書みたいなものだったんですね。
惣一朗「そうです」
慶一「ビートルズにはすべて入ってるんだよね、おそらく」
――そんなお2人にとって、ビートルズのサウンド面での魅力って、どんなところですか?
惣一朗「例えば、いま聴くとコンプってことになりますけど、こんなにハードにコンプレッションがかかってるドラムの音とかバキッとした音像って、他のグループとは全然違いますよね」
慶一「それが、なんか嵐のように聴こえるんだよね」
惣一朗「『Revolver』の音像なんて60年代の音じゃないですよ。本当に見事な、いまでも通用する音だし。それは、ジェフ・エメリックっていうエンジニアの力もあるだろうし、エンジニアとアーティストがバトルしてあれほど燃えてたのは、60年代ではやっぱりビートルズがいちばんかな、って思いますね」
慶一「そのビートルズが作った音を、他のイギリスのアーティストが真似ていくんだよ、あっという間に」
惣一朗「ジミ・ヘンドリックスが〈Sgt.Pepper's〉をリリース直後にライヴでやったりしますよね。だからミュージシャンズ・ミュージシャンというか」
慶一「ビートルズってアイドルでスタートして、ミュージシャンズ・ミュージシャンになるんだ。全部持ってくね」
――そのビートルズの音源がリマスタリングされる、という話を聞いて、どんなところに期待しました?
慶一「どこまで、どういうリマスタリングをするのか。例えば、後期のステレオはちゃんとしてるけども、ミックスから変えてしまうのかどうか。これまで『Love』とか『Yellow Submarine』とかいろいろやってきてるけど、今回は全作品に及ぶわけだからね」
惣一朗「いまのリマスタリングの方向性って、音が立って、やかましくなってきている。なんか映像の画素が上がるのと同じで、〈見え過ぎちゃって困る〉の状態。それがビートルズでは、どうなってるのか気になりますね」