Terukado × 出嶌孝次(bounce編集長)(2)
──では、歌の話になったところでルーツっぽい部分も伺いたいんですけど。出身は京都ですよね。デートピアを作って東京に来た感じなんですか?
「16ぐらいの時に、aikoの出てたオーディション大会に僕もミュージシャンで出てて。彼女が1位でデビューが決まったオーディション大会の2位だったんですけど(笑)。そっから始まって、その後でビーイングに拾われて、それで上京しました」
──90年代中盤、ですよね。もともとはソロ志向だったんですか?
「そうですね」
──ということは、事務所に入ってからバンドのメンバーが集まった感じだったんですね。
「当時のプロデューサーに紹介されて前のメンバーに会ったんですけど。僕より7個ぐらい上だったんですかね、メンバーが。すでに一線でやってた人だから、17歳の僕にとっては、非常にやりにくいという(笑)」
──徳永(暁人)さんですよね?
「フュージョン系の、バキバキのベース・ミュージシャンで。会って演奏を見たらめちゃくちゃ上手いんですよね。僕はまだ17歳ぐらいで、ただデビューしたいって感じだったから(笑)、よくわからないままスタジオに詰め込まれて。自分で作詞/作曲してデモテープとかを作ってたんですけど、当時のプロデューサーに〈こいつアレンジャーだからいっしょにやれ〉って言われて。初めはマニピュレーターつけてくれたんだ、ぐらいに思ってたんですけど、気付けばユニットの話になってって。その時に彼にお株を奪われちゃうって思ったんですよ。当時はそれほど打ち込みもできなかったし、作詞も作曲もアマチュア・レヴェルだったし、隣にプロがいて、ヤバイ、このままじゃ歌オンリーになっちゃうって思って。その時のコンプレックスがいまの何でもやれるようになった原点かもしれないです。で、死に物狂いでやったし、やれるだけの環境はありましたね、当時のビーイングには。凄いミュージシャンがいっぱいいて……僕が最後の世代じゃないですかね、古き良きミュージシャンの厳しさのなかで育った世代という意味では」
──いまは違うんですか?
「いまはそれこそ一人で全部やるような時代だと思うし。僕らのときは違いましたよね。ギター録るよってなったときに、ミュージシャンを呼ぶと、それ相応のディレクションができないと、録らせてもらえなかった時代の最後ですよね。エンジニアの人に対しても、フェーダー上げてよってことを確固たる発言権を持って発言しないと、〈何だお前?〉みたいな。特に当時のビーイングは売れてたし、みんな自信を持ってやってたから。それこそホントにモータウンでしたよ。そのなかでコテンパンにやられたのがいまに活きてますよね」
──その頃にいろいろスキルアップされて、同時に聴く音楽の幅とかも広がっていった感じですか?
「ヴォーカリストとしてのルーツと、クリエイターとしてのルーツで少し違うんですけど。クリエイターとしては、バンドでも採り入れてたビッグ・ビートやデジロックあたりかなぁって思います。ヴォーカリストとしてはR&Bなんじゃないかなと思うんですね。でもそれに出会って、これカッコいいって思って聴いたのは20歳ぐらいのときなんですよ。それこそbounceを含めて雑誌を読み漁って、プロデューサーがああだこうだ音楽語りをしながら、いろいろ聴き漁ってハマった結果、自分の音楽に活きてきてると思うんで」
──バンドでデビューして以降ってことですね?
「辞めてからのほうが、好きな音楽に向き合ってるかもしれないですね。当時のプロデューサーに〈もう自分でできるだろうからセルフ・プロデュースしろ〉って言われてからですね。全部自分でやろうってなった時に変わっていきました」
──具体的にはどういうものでした?
「ビッグ・ビート系だとアタリ(・ティーンエイジ・ライオット)とか、ベタですけど、ジャンキーXLとか。R&Bはエリック・ベネイとかジョーとか……『My Name Is Joe』が凄く良かったりとか。当時は今井了介さんとかが和製R&Bを打ち出してきた頃で、いろんな人が出てきて、そうなりたいなあって思ってアレンジャーをやってたんですね。あと、やっぱりマイケルとロドニー・ジャーキンスが作ったアルバムが最強だと思いましたね」
──『Invincible』ですね。
「追悼だと思ってずっとマイケル聴いてるんですけど、やっぱりあのアルバムはいい。リリース・タイミングはちょっと遅かったですけどね。濃いのも聴いてましたよ、ディアンジェロとか。そこからルーツを掘り下げて、〈R&Bって何?〉っていうところに行くと、結局アル・グリーンだったりの名前が出てきて、また名立たる名盤を全部聴いていくっていう……」
──前に仰ってた〈広く深く〉っていう聴き方ですね。なかなか難しいことですけど。
「例えばR&Bの話だと、Pファンクから何から……ニッチも含めて〈古き良き〉ものをリスペクトしてからじゃないと作りたくないんですよ。でも、ノリ一発みたいなことでできるミュージシャンってそれはそれで羨ましいなあって思って。裸になってるじゃないですか」
──背景を理解したがり、というか、もっと全体を俯瞰してみる性分なのかも知れないですね。
「前回デジマさんにインタヴューしてもらった時の原稿のキャッチが凄まじく言い表していると思ったんですけど。あそこに〈更新〉って書かれたことが深いなあと思って。メール・インタヴューで見抜かれちゃったなあって思ってて。〈更新し続ける人〉みたいなふうに書いていただいたんですよね。まさに僕はその通りかもしれないですね。シーンって誰かが更新しないと新しいものにならないし、つまらないじゃないですか。だから僕はアップデートし続けたいですね」