つしまみれ
“岩壁の上の一本指総長”“険悪ショッピング”“いそぎんちゃくひともんちゃく”といった脱力タイトルに紐付くのは、超ヘヴィー級のギター・リフが豪快にスピンする暴走ハードコア、捻れたコード進行で壮大に歌い上げるオペラ風ロック、大きく波打つ歌メロが切ない恋心を露わにするラヴソング──既存のルールを無視したハイテンションなサウンドで独自の道を突き進む女子3人組、つしまみれが結成10年目にしてついにメジャーへ進出した。複雑な乙女心が狂い咲く荒唐無稽なステージングと度重なるUSツアーによって順調にファン層を拡大してきたかに思える彼女たちだが、USでは初回から大成功を収める一方、日本における集客は意外にも泣かず飛ばずの状態が続いたという。
「これまでは3人で作る音楽のおもしろさを世の中に発信するにはどうしたら良いか、ってもがいてきた10年間。日本ではお客さんが10人だけどアメリカでは800人が熱狂、みたいな当時の状況って間違ってはいないけど、バンドとしてまだ不完全なんだってことも表してて。そこからアメリカで掴んだ感覚や、日本の10人のお客さんがウチらのどこを愛してくれているのかをライヴで確認しながら、体力とか精神的な部分を全部ひっくるめて育ててきましたね。今回のアルバムはその集大成じゃないけど、いままで培ってきた経験が丸ごと出てる気がします」(まり)。
確かに、愚痴すらも飄々とエンターテイメントにする言葉遊びの精度はもちろん、サウンドに宿る異様なヴァイタリティーは、リリースを重ねるごとにどんどん高まってきている。つまり、ニュー・アルバム『あっ、海だ。』には、史上最強のつしみまれが投影されているというわけだ。
「どんな過酷な状況でも、楽器と1本のマイクがあれば〈ライヴやるか!〉って気持ちになれる。そういう3人の生き様が、そのままつしまみれの音になってると思いますね。バカバカしい曲も真剣に歌ってる曲もあるけど、どちらもがむしゃらにやってるところが何となく笑えるっていう。ウチらは笑いを大事にしてて、きれいにまとまりたくないっていうのがあるんです。〈わっ、ぶっ壊れた!〉みたいなもののほうが実はカッコイイんじゃない?っていう……提案?」(まり)。
「そのほうが心に残るしね。歌詞とかキメどころとか終わり方とか、どこかに絶対ププッて笑えるところがあって、〈いま、オイシイとこ持っていこうとしたでしょ?〉って明確にわかる感じがウチららしさかな、って」(みずえ)。
「そういうのって、全部連動してるんですよね。曲のタイトルとかも会話のなかから出てくるパターンがほとんどで、みんなで喋ってるうちにイメージがバ~ッと広がって、それが曲になるし、まりの言葉になるっていう」(やよい)。
実際、目の前にいる彼女たちもよく喋り、よく笑う。そしていつの間にか3人のペースに巻き込まれている筆者がいる。それはライヴ会場でも同じで、打算と可愛らしさが共存する女子の生態をポップかつイルに放出する生々しいロックンロールに、観客は問答無用で惹き付けられるのだろう。
「女の子らしくいたいんですけど、それでもはみ出してしまう本性、みたいな(笑)。だけど、人間の本質的な部分は隠さずにさらけ出すべきなんじゃないかと思ってて。だから、ライヴの時のつしまみれは3人とも全開放です(笑)。ウチらのことはライヴなしでは語れないけど、今回はライヴの時の息遣いや曲の迫力みたいなものも上手く録音できていて、音源もすごく良くなっちゃったから、その音にライヴでいかに打ち勝つかをいま練習中なんです。会場まで来てくれた人に、〈生で観るともっとすごい!〉って思ってもらえるようにがんばります!」(まり)。
PROFILE/つしまみれ
まり(ヴォーカル/ギター)、やよい(ベース)、みずえ(ドラムス)から成る3人組。大学のバンド・サークルで出会い、99年に結成。2001年からライヴ活動を開始。2004年にUSの〈SXSW〉に出演し、同年ファースト・アルバム『創造妊娠』をリリース。以降は国内外で精力的にツアーを行っていく。2007年にファースト・ミニ・アルバム『脳みそショートケーキ』を発表。同年〈COUNTDOWN JAPAN〉へ出演して話題となる。2008年には『つしまみれとロックとビアで』『Six Mix Girls』という2枚のミニ・アルバムをリリース。今年4月にメジャー・デビュー・シングル『タイムラグ』を発表。このたびメジャー・ファースト・アルバム『あっ、海だ。』(FlyingStar)をリリースしたばかり。
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