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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2009年06月10日 17:00

更新: 2009年06月10日 18:20

ソース: 『bounce』 310号(2009/5/25)

文/出蔦考次

音楽に関しては、いつも最新で興味深いものの先端にいたいんだ


  ターンテーブルの前に立つ細っこい少年が栄冠を手にして10余年。モントリオールに生まれ、兄のデイヴ・ワン(クローメオ)の導きもあって子供の頃からヒップホップに親しんできたA・トラック。97年に弱冠15歳でDMC世界王者に輝き、アライズなどのグループ活動も含めてターンテーブリストとして飛躍してきたが、言うまでもなくここ数年の彼はエレクトロニック・ミュージックの新たなテイストメイカーとして存在感を大きくしている。このほど2枚のミックスCD『Infinity+1』と〈Fabriclive. 45〉を連続リリースした彼に話を訊いた。

──日本ではコアなターンテーブリスト好きと、現在のあなたがやっているようなエクレクティックなクラブ・ミュージックを聴く人があんまりリンクしていない気もするんですよ。

「マジ? 90年代にターンテーブリズムに傾倒していたほとんどのDJは、いまエレクトロニック・ミュージックをやってるのにね。確かにそんなの全然知らないファンもいてくれるのは興味深いよ。まあ、俺の最近のファンたちも90年代の俺を多少知ってきたみたいけど。特に97年のDMCは〈YouTube〉で俺の名前を検索するとまず出てくるからね」

──あなたやクレイズはもちろん、最近リル・ウェインを手掛けているインファマスとか、スキル磨きに向かっていたターンテーブリストたちが方向転換した理由って共通してるのかな?

「そうだな~、俺が始めたばかりの頃は、ターンテーブリズムがダイナミックに発展した時代で、俺もその枠を可能な限り広げたかった。でも、いろいろ視野が広がってくると、より古典的なDJプレイもいいなと思えるようになったんだよね。音楽作品もまた然りだと思う。ただ、ここ数か月の俺はまたターンテーブリズムに戻ってるんだ。昔のようにやってみるのも楽しいね!」

──ちなみにアライズで集まったりはしないの?

「いや、クレイズとの活動は止めたことがなくて、ずっと密接な関係だよ。インファマスとディヴェロップもキッド・シスターのアルバム用にビートを作ってる。クレヴァーもDJとして絶好調だし、何回かいっしょにショウをやってるな」

──カニエ・ウェストのツアーDJに抜擢されたことがあなたの転機だと思うけど、あなたからカニエに与えた影響も凄く大きいですよね?

「確かにカニエにはかなり大きな影響を与えたと自負してるし、彼もはっきりそう言うと思う。特に『Graduation』を作ってた時はずっと話し合ってたし、彼にエレクトロニック・ミュージックをたくさんプレイしてあげたからね」

──なるほど。そのカニエをフィーチャーしてデビューしたキッド・シスターですけど、延期してるアルバムは出るのでしょうか?

「俺たちは互いに完璧主義なんだ。彼女のアルバムはメジャーからだし、最高の内容にしなきゃいけないからね……」

──あい。で、キャラの強い親密な女性アーティストを育てていることや音のレンジの広さからディプロを連想する人も多いと思うんだけど、彼のような存在はあなたにとって助けになったんじゃない?

「そうだな。俺たちはいい友達だし、お互いのために、違った角度の扉を常に開いてる。彼はひとつのセットで、異なったスタイルのダンス・ミュージックをコンセプチュアルにまとめることを世間に知らしめただろ? 一方で、俺はいろんな音とミックスすることでヒップホップを受け入れやすいスタイルに変える手助けをしてる感じかな」

――個人的にはあなたがボンジ・ド・ホレの“Melo Do Tobaco”をリミックスした頃から音楽性が親しみやすく変わってきたように思ってるんだけど。

「ああ、確かにボンジをリミックスしたり、キッド・シスターと初めて曲作りをした2006年頃から何かが変わったね。重要なのは、すべてが友達とDJの仕事をしていろんな音楽に触れるなかで誕生したってことだ。俺たちのDJセットが流れを大きく変えたんだよ。フールズ・ゴールドが表現する音楽の基盤もそうやって生まれたわけさ」

──そのあなたのレーベル、フールズ・ゴールドですが、ヒットしたキッド・カディ以外にもアーティストがたくさんいますね。

「カディのアルバムもメジャー経由で出るんだ。現在の中核はトレジャー・フィンガーズ、トラッカデミックス、ナチョ・ラヴァーズ、サミー・バナナ……山ほどいる。俺とアーマンド・ヴァン・ヘルデンのコラボ・プロジェクトもやってるし、コンピも制作中なんだ。夏が終わったら俺自身のオリジナル・アルバムに手を付けるよ!」

──楽しみですね! では、そんな自社音源も含む今回のミックスCDですが……。

「2つの作品には格好良い対比があるから、両方聴いてもらえるといいな。『Infinity+1』はクラブものというより、もっとレイドバックしてメロディックなものだ。ファブリック盤はより普段のプレイに近くて、『Infinity+1』のようなヴァイブは少ないけどエネルギッシュだと思う」

──特に『Infinity+1』は往年のエレクトロ・ファンクや初期のハウスっぽいですね。

「そうだね。最近は特に昔のハウス・サウンドに惹かれてるんだ。ディスコのヴァイブもあるけど、そういうものを感じさせるレコードを新しく探し出したわけさ」

──あなたの作品や関わった曲を聴くと、さっき言ったディプロ以外にもクルッカーズやハーヴ&シンデン、TTC、スティーヴ・アオキといった新しい○○○に共通する部分を感じるんだけど、そういう同時代性って自分で感じたりする?

「もちろんだよ。いま挙がった名前のほとんど全員とコラボしてるし、俺たちはみんな友達だし。彼らと共振しながら、自分のキャリアにおける新しいフェイズに入っていくっていうのは本当にエキサイティングだよ。音楽に関しては、俺はもっとも新しくて興味深いものの先端に常に留まっていたいんだ」 

▼関連盤を紹介。


キッド・シスターのシングル“Pro Nails”(Fool's Gold)

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