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カテゴリ : スペシャル

掲載: 2009年06月03日 17:00

更新: 2009年06月03日 17:40

文/岡村詩野

シンガー・ソングライター=岸田繁の最後のアルバム

――曲作りそのものは『ワルツを踊れ Tanz Walzer』以降にとりかかったの?

岸田 基本はそうですね。“Natsuno”だけは『NIKKI』の時に作っていた曲。でも、バンドで合わせたりはしてなかったから、まあ、やっぱり〈ワルツ~〉の後ですよね。

――〈ワルツ~〉後の動きとして、もっとも顕著だったのが、今回のアルバムにも入っている“かごの中のジョニー”と、未収録になった“京都の大学生”でのアンサンブルだと思うんです。

岸田 そうですね。

――その2曲が収録されたシングル“さよならリグレット”の表題曲そのものはシンプルな構造だったけど、内橋(和久、ギター)さん、三柴(理、ピアノ/キーボード)さんと組んで生み落とされたその2曲は、少なくとも、明確にジャズを視野に入れたり、スラブ系の音楽の要素を採り入れたりと、アレンジに力を注いでいるような印象を受けました。ただ、そうした、言わば〈混沌としたルーツ指向〉とも言える方向性は、最終的に今回のアルバムには直結していないですよね。もっと明快なまでにメロディー指向、歌モノ路線になっている。

岸田 そうですね。やっぱりあのへんの曲は〈ワルツ~〉の後が出てるんですよ。〈ワルツ~〉は「こんなん作ったらすごいでしょ?」って意識を持って作ったところがあって。あれはポスト・プロダクションとか音楽に関わる方法論においてすごい努力した作品やったし、自分がいままでやったことのないやり方、それはまあ、和声の使い方なんですけど、そこにすごく気を遣ったアルバムだったんですね。曲の根幹はシンプルだけど、ハーモニーがすごく凝ってるという。おそらく、それらが血になって出来たのが“かごの中のジョニー”とか“京都の大学生”なんですよね。ちょうど去年のいま頃って集中して曲を作っていて。その頃、けっこう他にもそういう曲が出来ていて、一部はバンドで合わせたりもしたんですけど、結局それらの曲はアルバムには入らなかったです。

――単純に、それは何故?

岸田 なんせ不安定なバンドなんで。バンドの体(てい)を整えることをずっとやってきているから。

佐藤 くるりってやっぱりバンドやから、体を整えることは必要なんですよ。モッくん(初代ドラマーの森信行)が抜けてから、ずっとそうでした。モッくんがやめた後に作ったアルバムが『アンテナ』だったんですけど、その後も繁くんからその時々に出てくる曲に接していると、やっぱり体を整える必要があるなっていうのはあるんです。まあ、行ったり来たりやと思うんですけど、いまの状態は、より強い安定を欲してはいると思います。

岸田 まあ、だから、今回のは〈シンガー・ソングライター=岸田繁の最後のアルバム〉やと思ってます。

――ほう。それはどういう意味で?

岸田 まあ、今後もフレキシブルにやっていくかもしれないし、まだわからないですけど、くるりっていうバンドの方法論として、ここ(『魂のゆくえ』)が結構キー・ポイントになるんとちゃうかな?って思ったりはしています。最初から、これが〈シンガー・ソングライター=岸田繁の最後のアルバム〉やと思って作ったわけではないですけどね。まあ、正直に言って、〈ワルツ~〉を作って、横浜で贅沢三昧のライヴをやって、ある意味、すごい満足感があったんですよ。しかも、ライヴ・アルバムも出したでしょ。で、周囲の人からも結構「次どうすんの?」みたいに言われて(笑)。自分自身は渦中にいるからわからへんねんけど、自分たちを取り囲むことがインフレになっていたのは気付いていて。去年のいま頃、集中して作っていたっていう曲のどれもこれもが3ピースで演奏するには不可能な曲やったしね。その中で出来たのが“さよならリグレット”。あの曲は自分の創作のその時の核みたいなのと理想がうまいこと結実したものだったんです。〈ワルツ~〉の時は、とにかくサウンド・プロダクションを作ることにカタルシスを感じていたわけですけど、その後、少なくとも“さよならリグレット”にはそういうのはなくなりましたよね。

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