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特集

Eminem(3)

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2009年05月28日 17:00

更新: 2009年05月29日 19:54

ソース: 『bounce』 310号(2009/5/25)

文/小林雅明

エミネムはスリム・シェイディを超えたか?

 ともかく、その居直りというか〈実は……〉というオチは、“Just The Two Of Us”と共に『The Slim Shady EP』に収録されたうちの1曲“Murder, Murder”にも見られる。『Relapse』からの先行カット“3 A.M.”をイントロと続けて聴くと、そこでの殺戮はエミネムの幻覚かスリム・シェイディの犯行となるわけだが、この曲に匹敵するほど暴力の限りを尽くす“Murder, Murder”のオチは〈これは俺のことではない、強い酒を飲んでギャングスタ・ラップをやったのだ〉となっている。ちなみに、ここでの〈murder, murder, murder and kill, kill, kill!〉なるフレーズのサンプル元となるマスター・エースの“Slaughterhouse”(93年)も、やはりパロディーによってギャングスタ・ラップをぶった斬るものだったし、実際にエミネム自身が2008年にその“Slaughterhouse”のリミックスを手掛けていることも考え合わせれば、そこからの影響がエミネムのすべての曲の構成(例えば“Guilty Conscience”や“Stan”)に決定的なものだったとも推察できる(それにしても、上に挙げた2曲を含むデモテープを聴いて、エミネムをアフターマスとの契約に導いたドクター・ドレーは、いったいどんな神経の持ち主なのか……?)。

 99年を代表する1曲とまでなった“My Name Is...”で、露骨な女性蔑視やゲイ・バッシングをしていたのは何もエミネム/スリム・シェイディだけだったわけではないと考えて然るべきだし、その翌年の“The Real Slim Shady”では〈スリム・シェイディは自分だ〉と思い込んだリスナー全員に〈ホントにそうなのか?〉と揺さぶりをかけてみせ、2002年の“Without Me”では自身をスリム・シェイディのなかでも超人的な存在と規定し、2004年作『Encore』の終曲“Encore/Curtains Down”では、観客に発砲したエミネムが銃を口にくわえて弾き金を引き、スリム・シェイディにとどめを刺したとも解せる幕切れにしていた。そうなったのも、このオルター・エゴの存在があまりにも肥大化し、エミネムの私生活にまで確実に悪影響を及ぼしたから……と解釈したいところではある。が、後にはその“Encore/Curtains Down”を上書きするかのような内容の新曲“When I'm Gone”まで作られ、2006年のベスト盤『Curtain Call: The Hits』を通じて発表され、〈実はスリム・シェイディを殺したのは夢だった〉という、ありゃりゃのオチになっていた。

 そして、メビウスの帯のような気分で『Relapse』のイントロへと繋げていきたいところなのだが、その超待望の新作では、実はスリム・シェイディ復活さえ霞ませるような、これまでになく強靱化(単なる狂人化ではない!)したラッパー=エミネムが待ち構えているという、これまたエミネムらしいオチ(ではなく、正攻法の攻めだ!)が仕掛けてあるのだからたまらない! スリム・シェイディに引きずられてはならない! いや、引きずられているのは、この文章のほうか……。

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