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特集

Keep gettin' it on 現代のシーンを照射するマーヴィンの音楽性

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2009年05月14日 11:00

更新: 2009年05月14日 17:40

ソース: 『bounce』 309号(2009/4/25)

文/林 剛

 〈マーヴィン・ゲイのような〉と形容されるR&Bのシンガーや楽曲に、これまで何度出会ってきたことだろう。例えば、80年代~90年代初頭に活躍したティシャーンはマーヴィンからの影響を公言し、“Sexual Healing”から故人の声をサンプリングしたり、“I Want You”をカヴァーするなどした、マーヴィン・チルドレンの代表選手みたいな人だった。が、そうしたフォロワー的な存在が目立ってきたのは、90年代半ば、ニュー・クラシック・ソウル(以下NCS)と称された70年代ソウル・マナーのR&Bが話題になりはじめた頃からだろう。リオン・ウェアも招いて『I Want You』のムードを再現したマクスウェルの『Maxwell's Urban Hang Suite』(96年)はその最右翼といったものだったが、NCS勢に限らず、マーヴィン的なフィーリングを再現するシンガーはいまも後を絶たない。

 そんな〈マーヴィン現象〉を集約したと言えるのが、マーヴィンの生誕60周年を祝って、NCSの立役者であるキダー・マッセンバーグが監修したトリビュート盤『Marvin Is 60』(99年)だ。ここでカヴァーされた曲(大半が70年代以降の曲)を見てもわかるように、現行のアーバン音楽シーンが求める〈マーヴィン感〉というのは、おおむね『Let's Get It On』『I Want You』に代表される性愛路線のそれであり、歌う人もセクシーなスロウ・ジャム系の曲を売りとするシンガーが圧倒的に多い。加えて、そこに参加した男性シンガーの多くは、このトリビュート盤以外でも自身をマーヴィンに準えたような曲を発表。例えば、同盤で“I Want You”を歌うモンテル・ジョーダンは、前年に同曲をネタ使いした“When You Get Home”という曲を発表しているし、別項でも触れられている(Gユニット曲での)ジョーによる引用、チコ・デバージのカヴァーなども有名だろう。ブライアン・マックナイトが“Let's Get It On”を換骨奪胎したような“Find Myself In You”という曲を裏声交じりで歌っていたことも記憶に新しい。ケニー・ラティモアも最新カヴァー集で“That's The Way Love Is”(ギリギリ70年の曲だが)を歌っていた。

 そのトリビュート盤への参加者以外でも、R・ケリーは聖俗の二面性を持ったシンガーという点で存在自体が現代のマーヴィン的だと言えるし、ケリーと同じシカゴ出身のカール・トーマスは“The Baby Maker”という曲でその名前を挙げ、継承者である自分をアピール。また、喘ぎ声入りの官能ソング“You Sure Love To Ball”をカヴァーしたキース・ワシントンのような性愛路線追求型のシンガーも多く、近年ならジェイミー・フォックスやJ・ホリデイがそうしたタイプの継承者と言えるかもしれない。

 一方、性愛路線と同時にマーヴィンのクリエイター的な側面を継承するのが、自作自演タイプの多いネオ・ソウル系のアーティストだ。なかでも、リオン・ウェア的なメロウ・センスも持ち合わせたドゥウェレは『I Want You』の権化みたいな人で、鍵盤を弾くマーヴィンとも印象がダブる。モータウン発祥の地=デトロイトを拠点とするあたりにもマーヴィンとの繋がりを見い出せるが、そういう意味ではジャザノヴァの近作でマーヴィン風のヴォーカルを披露していた(ポール・)ランドルフも同様だろう。また、自身の近作を〈現代版『I Want You』だ〉と語っていたラヒーム・デヴォーンはマーヴィンと同じワシントンDC出身で、女殺しなファルセットや多重コーラスも含めてマーヴィン度は高い。性愛路線とは反対に、『What's Going On』的なメッセージを自身の作品に活かしたシンガーということでは、マーヴィンと同じ宗派(ペンテコステ派)だというドニーも忘れられない。さらに、ルイス・テイラーやレミー・シャンドのように、ファルセットを真似ながらマーヴィン的な音世界を緻密に描いてみせたブルーアイド・ソウル系のクリエイターもいる。そうした白人勢のなかで、マーヴィン並みに黒人聴衆を熱狂させているのがロビン・シックだったりするわけだ。

 他にも、ラファエル・サディークの新作に起用された新鋭のCJ・ヒルトン、インディーで活動するヘストンなど、フォロワーは数多い。他界後も子供を増やし続けるマーヴィン。やはり、その魂は不滅のようだ。

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