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Blue teardrops are falling(4)

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2009年05月14日 11:00

更新: 2009年05月14日 17:40

ソース: 『bounce』 309号(2009/4/25)

文/出嶌 孝次

やらないか

 73年、母親に連れられてスタジオに遊びに来ていた16歳のジャニス・ハンター(ジャン)に、33歳のマーヴィンは一目惚れする。彼女のほうも同じだったようで、ふたりはやがて同棲生活を送るようになっていった。そんな最中に生まれた素晴らしいアルバムこそ『Let's Get It On』(73年)である。ここにはシングルの“What's Going On”と前後して作られた楽曲も収録された。うち“Just Keep You Satisfied”は先述したような曲で、“Distant Lover”はタミー・テレルを思って書かれたもののように思える。そうした〈古い関係〉にまつわる曲を挿みながら、それ以外の曲は新しい恋へのウキウキ感とセックスへの熱烈な喜びに満ち溢れているのだから、少し残酷な気がしなくもないが……。

 ただ、夢中になったマーヴィンにそんなことは関係ない。表題曲“Let's Get It On”は実際にジャンを目の前にして歌入れされたそうで、エモーショナルな求愛ぶりは60年代に回帰したようなノーザン・ソウル・サウンドにマッチしていた。同曲などを共同制作したエド・タウンゼントは、マーヴィン憧れのナット・キング・コールに曲を提供したこともあるヴェテラン・ソングライター/プロデューサーだったから、マーヴィンのモチヴェーションもあらゆる意味で全開だったに違いない。『What's Going On』の〈次〉を求める向きもあっただろうが、シングルは全米1位を獲得し、アルバムも大ヒットを記録。マーヴィンはそのまま幸せな日々へと突入していった。

 同じ73年にはベリーの要請でダイアナ・ロスとのデュエット作を吹き込んでいるが、世間の人が好きな言い回しを使うと、マーヴィンは決して〈レーベルの操り人形〉であること自体が嫌だったわけではないのだとよくわかる。そもそも、歌うだけの歌手=操り人形というロック的な考え方がつまらない。マーヴィンは第一にヴォーカリストであることを自覚していたに違いなく、ポピュラー歌手への秘めた憧れまでも巧みに溶かし込まれた『Let's Get It On』は〈歌のアルバム〉だったのだから。

 そんなヴォーカリストとしての才気は次作『I Want You』(76年)でよりディープに発揮される。作品自体は、ベリーの勧めもあってリオン・ウェアとT・ボーイ・ロスが作り上げていたアルバムの素材を譲り受けたものだが、マテリアルを聴いて乗り気になったマーヴィンが多重録音を凝らした結果、その歌声は不思議な浮遊感を帯び、メロウなサウンドと一体化して、現代に至るまでの〈マーヴィン・ゲイっぽい~〉という形容の根幹を形作ることになる。このように気まぐれながらも折に触れて周囲に手綱を握られることで、マーヴィンの本質的な魅力はキープされていったのだ。
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