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特集

VARIOUS SOUNDS FROM Ling tosite sigure - 凛として時雨のサウンドに潜む多面性を探る

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2009年05月14日 16:00

更新: 2009年05月14日 17:43

文/澤田大輔、土田真弓

■静と動の狭間に沈む内的世界

 静寂と轟音の狭間で翻弄されているうちに、いつのまにか自己のインナーワールドと対峙する事態に陥る凛として時雨の音世界。孤独、悲壮、喪失といった仄暗い感情が激しく揺れ動くイマジナティヴな歌詞と、その混沌としたメランコリーを音に転写したかのようなアグレッシヴかつプログレッシヴなサウンドが時雨イズムの最たる特徴。そんな独自の美意識が強烈に感じられる作風からは、〈突然変異バンド特集〉でTKがお気に入り盤とセレクトしていたLUNA SEAをはじめとしたヴィジュアル系バンドの世界観との共通項が感じられる。また、静と動の効果的な配置で壮大なサウンドスケープを描くアーティストとしては、ゴシック・メタル+クラシック+幻想文学的な〈ポスト関西ゼロ世代〉バンドの夢中夢、中世ヨーロッパの叙事詩を轟音系ポスト・ロックで再現したかのようなP-Shirtsなどが挙げられるだろう。さらにはこの2作品に参加しているサウンド・クリエイター、world's end girlfriendも、類稀なるエディット・センスでダーク・ファンタジーを編み上げるという点にフォーカスすれば、時雨と繋がるものがあると言えるかも。*土田

■轟音の土台を支えるスラッシュ・マナー

 時雨サウンドに盛り込まれている静と動のパートのうち、動=轟音パートをダイナミックに演出しているのがピエール中野のドラミング。そんな彼に多大なる影響を与えている人物が、本人も公言しているようにX JAPANのYOSHIKIだ。以前のインタヴューの際、ピエールは「あり得ないほどの手数を繰り広げている」と語っていたが、怒涛、激烈、超絶と三拍子揃ったパワフルでドラマティックな彼のプレイ・スタイルは、X JAPANからジャンル的な視点でさらに遡れば、80年代後半に隆盛を極めたスラッシュ・メタルに辿り着く。〈知的な暴力性〉〈予測を裏切り続ける複雑かつスピーディーな曲展開〉なども、メタリカ(後述に登場するロドリーゴ・イ・ガブリエーラは『Master Of Puppets』収録の“Orion”をカヴァーしている)をはじめとした、ヴァリアブルなスラッシュ勢からの隔世遺伝かと。*土田

■ロッキンなスパニッシュ

 『just A moment』では、凛として時雨にとって新機軸と言えるアコースティック・ギターが随所に使用されている。特に、全編でアコギを大フィーチャーしている“Tremolo+A”は、本作きっての異色ナンバーだろう。スパニッシュ・フレイヴァーに溢れたギター・カッティングが楽曲をグイグイとドライヴさせて行くサウンドは、昨年の〈フジロック〉を大いに沸かせた男女ギター・デュオ=ロドリーゴ・イ・ガブリエーラの音楽を引き合いに出すことが出来るかもしれない。スパニッシュな部分はもちろん、アコギなのに破天荒なまでにラウド、かつ圧倒的にグルーヴィーという点でも、両者は共通しているのでは。*澤田

■エモーショナルなインスト

 アコギの導入のほかにもうひとつ、時雨が本作で見せた初の試みがある。それがインスト曲“a over die”だ。エモーショナルな音塊がスリリングに連なってゆくこの楽曲は、ドン・キャバレロあたりのマス・ロックが好きなリスナーを狂喜させるはず。日本で言えばteを首領に据えた残響組やtoe(時雨のライヴ開始時の通常SEはtoeの“i dance alone”のリミックス)などのファンにも猛烈にアピール可能だろう。*土田

■ダブ~トリップホップの空気感

 『just A moment』の終盤を飾る2曲にはファットなビートが敷かれており、そこからはブレイクビーツ使いのクラブ・ミュージックにも通じるグルーヴが感じ取れる。特に、ヒップホップ的なドラムとゴリゴリとしたギター・リフが絡み、ダビーな残響音が宙を舞う“mib126”の音像は、 ポーティスヘッドや『Mezzanine』以降のマッシヴ・アタックといったトリップホップ勢のそれと重ね合わせることができるだろうし、CONFLICTやILL SUONOなど、soup-disk~disques corde周辺のアーティストが作り出す先鋭的なインスト・ヒップホップも、そう遠くないように思える。また、重心の低いビートの上に囁くようなヴォーカルを浮かべ、サイケデリックなギターが浮遊する“moment A rhythm(short ver.)”の世界観は、フィッシュマンズがダブ的な手法を駆使して表現していた、あの気だるい日常の風景とよく似た手触りがある。*澤田



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