凛として時雨 -第四回
孤高のアルバムである。一片の容赦もなく猛威を振るう轟音、執拗に繰り返される転調、狂おしいまでの咆哮――衝動に衝動を塗り重ねたような楽曲に翻弄されながらも、その荒ぶる音塊に導かれて辿り着いた場所は、深遠なる自己の内奥であったかのような――激しい混沌によって意識の壁を破壊され、いつの間にか無意識の世界に突入していたかのような、そんな、研ぎ澄まされた感覚を呼び起こされる作品である。
みずからの美学に基づき、ロックのフォーマットを更新し続けてきた凛として時雨が、約1年9か月ぶりのオリジナル・アルバムを完成させた。ソングライターであるTKの内的世界を3人の個性によって音像化するというベーシックはこれまでどおりだが、表現の幅はさらなる進化を遂げ、より多くのリスナーへと開かれた仕上がりになっている。アコースティック主体の楽曲やインストなどの端的な目新しさもあるが、音の粒立ちがよりクリアに、繊細に聴こえてくる静のパートと、浄化の炎のようにパワーで押す動のパートとの振れ幅がより大きく広がり、そのぶん孤独や喪失感といったやり場のない感情が、情感豊かに聴き手の胸に突き刺さってくる。
そんな新作がどのように誕生したのかを知るべく、bounce.comではメンバー3人へのインタヴューを敢行。長時間に渡った取材の模様を、4週に渡ってお届けする。
→→→今週は、4週連続更新の第四回! 第一回はこちら、第二回はこちら、第三回はこちら。
■seacret cm
――8曲目は“seacret cm”。この曲の歌詞は、凛として時雨にしてはわかりやすいですよね。
TK そうですね。曲もわかりやすくなってると思います、たぶん。
――これは意図的にシンプルにしたんですか?
TK この曲は、ドラムのフレーズとベースのコードを伝えて、まだ二人がどんな曲になるか分からない状態で楽器だけ先に録音したんです。
――シンプルに聴こえるのに、意外ですね。
TK そうですね。でも、もうその段階でほとんど完成形っていうのは見えていて。いつもの時雨からすると引き算をしていったというか……というよりは、足し算をしなかったっていうのが正しいのかもしれないですけど、〈シンプルな(構成の)なかから聴こえてくるもの〉をすごく意識しましたね。歌詞に関しても、いつもよりすごく……自然に出てくるものを意識したというか。…………なんかほかの曲よりも少しだけ、聴いている人に景色だったりそういうものが立体的に見える曲なのかな。あの言葉がどれくらい聴いている人の耳に届くのかはわからないですけど、いつもよりちょっと……うん、近くで鳴ってる言葉にしたかったっていうのはありますね。
――普段の歌詞では、断片的なイメージがフラッシュバックするような感覚がありますけど、確かにこの曲は、聴き手ごとにある具体的な光景が浮かぶ曲だと思いますね。あと、TKさんの歌詞には赤やオレンジなどの色が比喩的に使われることが多いと思うんですが、この曲に登場するのは〈蒼〉。これも珍しいなって思いましたね。この〈蒼〉は、どんなイメージですか?
TK (考え込む)…………なんだろうな…………? でもすごく…………暗いものをイメージしていて…………そこから上を覗いてるような感じっていうのは、漠然と自分のなかにはありましたね。
――なるほど。あと、サウンドも幻想的な雰囲気に仕上がってますよね。浮遊感があるというか。クレジットにはないですけど、何かウワモノ的な音がゆらゆらと漂っていて。
TK えー……そう言えば、僕がピアノを弾いてます(笑)。クレジットにも書いてないですね。忘れてました(笑)。
――おっと(笑)。ほかにもあります? クレジットを忘れちゃった曲。
TK 僕がやってる場合は、書かないことってあるんですけど。
――そうなんですね。では挿入されている音はほとんどTKさんがプレイしている?
TK そうですね。打ち込みは一切使わないので、基本的には僕が弾いたものだったり、叩いてもらったドラムの音だったり、そういう生の音にエフェクトをかけて、効果的に挿し込んだりっていうことは多いですね。
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