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アーバンギャルド(2)

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2009年03月19日 16:00

更新: 2009年03月19日 19:11

文/宗像 明将

単にお洒落な音楽は、何かを隠している

―― 一方の浜崎さんはもともとシャンソン歌手をされていたんですよね?

浜崎 いまもやってるんですけど、でも絶対歌手にはなりたくないって思ってたんですよ。音楽を聴くのはすごい好きだし、頭のなかでメロディーとか勝手に作っちゃったりもするけど……。

松永 それは何で?

浜崎 小学校とか中学校のときって、合唱で歌わされるじゃないですか。そのときに「すごい声がきれい」だとか「歌が上手い」とか言われて、なんか嫌だったんですよ。歌のテストでも必ず満点とかになってしまうし、私、そういうので目立つのがすごく嫌なタイプだったので。できれば質素に暮らしたい(笑)。

松永 なんか、軽く自慢に聞こえますよね(笑)。

――何でよりによってこんな目立つバンドに(笑)。

浜崎 ホント、予定外ですよね。

松永 彼女は基本的にすごい感性の人間なんですよ。で、僕はホントに理詰めでものを作ってるっていう。曲も歌詞もホントに理詰めで、これとこれを引用して、うまくミックスしようとか思って。編曲は別の人間がやってるんですけども、「これとこれを混ぜて」って口で説明して、言葉でわからせる(笑)。それは何故ならコードで説明できないからなんですけど(笑)、プロモ・クリップとか撮るときは、小津安二郎が笠智衆に言ったように「ここで3秒後にこっち向いて」とか(笑)、彼女に対しても理詰めで実行させてみる。そうやって作ると、結果的にいいものが生まれてくるんですよね。

――“月へ行くつもりじゃなかった”にしても、フリッパーズ・ギターが元ネタですよね? 大ネタを引用することにためらいがないですよね。

松永 僕は意外と普通なものが好きだったりするんで、マニアックなネタを元ネタにするのは、逆に独りよがりな気がしてしまうんですね。

浜崎 アーバンギャルドって「アングラだ」とか「サブカルだ」とか「渋谷系だ」とかいろいろ言われますけど、私は別にそう思ったことないんですよ。アングラとかサブカルとかまったくわからないので。

松永 そう、彼女は意外とあんまり知らないんですよ(笑)。僕らのプロモ・クリップで、リストカットをして、血を流して、白旗を日の丸に変えて国会の前を行進する、みたいなのがあるんですけど(“女の子戦争”)、日本ってそういう国なんだなっていう気がするんですよね。いろいろ異論はあるかもしれないですけど、僕はメンヘルの子っていうのは、すごく日本的だし、いまの時代をすごく表してるなって思ったんですよね。自分の内側に向かった攻撃性が、結果的に彼女たちのアイデンティティーになってしまうっていう。それでも彼女たちがそういうことで自己を形成できるんだったら、それは肯定していかなきゃいけない部分なのかな、って。

――アーバンギャルドは童貞処女、オタク、メンヘル、サブカル的な嗜好/傾向がある人たちに訴えかけるポップスっていうものを念頭に置かれてると思うんですけど、自分もそういう人間だと思うからこそのテーマなんですか?

松永 そうですね。そっちの側なんですけど、僕は元気なんです(一同爆笑)。僕は、そういうところにいればいるほど、光り輝くんです(笑)。

浜崎 この人、ホントに違うんですよ。

松永 僕の挙動スタンスは、〈黒手塚〉なんですよ。手塚治虫の「奇子」とか「きりひと讃歌」とか、人間の物凄い闇の部分を描いてますよね。でも、そこには必ず彼のヒューマニズムが入っている。人間が汚い部分を晒しても、酷いことになっても、その汚い部分も含めて人間らしいっていうヒューマニズム。それが、僕がすごく表したい部分なんですよね。僕が〈中2病〉全開な歌詞を書くのも、逆説なんですよ。単にお洒落な音楽がいやなのは、単にお洒落な音楽は、何かを隠してるからなんです。

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