DANCING IN THE DEEPEST OCEAN ゆらゆらと夜ごとフロアに舞い降りる、ロバート・スミスの影……
ソロ活動への欲求を強めていたロバート・スミスをキュアーに踏み止まらせたのは、本文にもあるようにフォロワーたちの厚い支持ということになるが、同時期に表立ってきたクラブ・ミュージック文脈からの再評価も大きかったはずだ。象徴的だったのは、キュアーのファンだったというブリュッセルのジュニア・ジャックがロバートを“Da Hype”のヴォーカルに招き、ケルンのブランク&ジョーンズが“A Forest”のトランス・リメイクにロバート本人を迎えたことだろう。特に後者はイビザ系からインダストリアル系までさまざまな文脈で重宝されたようだ。いずれのトラックもリリースは2003年。録音時期を思えばバンドの不安定さゆえに実現したコラボという気もするが(この手の大バコ系では、後にフェイスレスのトラックにもロバートが客演)、バンドの復活と新しい文脈での評価が上手くシンクロしたことで、キュアーはモダンなアイコンと化し、ニューウェイヴ復古もエレポップもディスコもゴスもエレクトロもゴチャ混ぜにしながらキッチュな美意識を追求しはじめたダンスフロアにおいて、ファッショナブルな素材として(も)機能していくようになる。
そうした流れで、ディプロがベース・ミックスに“Lovesong”を用いたり、ホラートロニクスがブートでキュアーとスヌープをマッシュアップしたり、“Three Imaginary Boys”をスクラッチ・マッシヴが取り上げたり、“Fire In Cairo”をデジタリズムがビシビシ刻んで電化リメイクしたり……と明快なケースも頻発されるようになる。で、それこそデジタリズムのヒット・チューン“Pogo”なんて、憂いを帯びた歌もダークな切迫ビートもキュアーまんまなわけで、このアイコンが昨今のクリエイターに愛されるのも偶然や酔狂ではないのだ。先日登場したimmiによる“Lovesong”のブリーピーな好カヴァーもその延長線上にあるものだし、ポップスとして耐性のあるキュアーの楽曲や陰鬱なロバ声が何らかの形でフロアに降臨する例は、これからも増えていくに違いない。
▼関連盤を紹介。
ジュニア・ジャックの2004年作『Trust It』(Noise Traxx/PIAS)