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特集

 〈sonarsound tokyo 2006〉におけるゲームボーイを使用したパフォーマンスで多くのオーディエンスの記憶に鮮烈な足跡を残したエレクトロニカ・シーンの俊英が、セカンド・アルバムを発表した。北緯66度の情景を源流としたテクノ・ミュージックで聴き手を深遠な異空間へと誘う本作について、Ametsub本人に話を訊いた。

  情景が浮かぶテクノ・ミュージック。Ametsubのセカンド・アルバム『The Nothings of The North』以上にそれに相応しい音楽は見当たらないように思う。ひとことで言って傑作。テクノという枠を離れても、彼の音楽の美しさは誰にでも伝わるものと信じたい。Ametsubは83年生まれの音楽家。2003年、20歳でデビューした文字通りの精鋭である。〈sonarsound tokyo 2006〉ではゲームボーイを使ったアクトで大きな話題を呼んだ。精緻さと美しさ、そして大胆さとを併せ持った音楽を送り出すその素顔は果たして──。

 「もともとは親の影響でクラシックばかり聴いていました。家にあったピアノをひとりで延々と弾き続けるような子供だったらしいです。中学校の友達に〈SPEEDとMAXのどちらが好き?〉と訊かれたんですが、僕はどちらも知らなくてすごく驚かれてしまったのを覚えています(笑)。ひねくれそうになりましたね(笑)」。

 音楽的にはかなり早熟な少年だったようだ。しかしそのAmetsub少年が早くもテクノに開眼する日がやってくる。

 「97年に〈FUJI ROCK FESTIVAL〉に行きまして、そこで初めてテクノというものを知ったんです。〈こういう世界があったのか!〉と驚いてしまって、それがきっかけです。フォース・インクやミル・プラトーの音源を聴き出して、その後はどんどんテクノの世界にどっぷりと。いまでもあの頃の音楽はよく聴きます。やっぱり青春を謳歌している頃に流れていた音楽ですから(笑)」。

 また、実はテクノに開眼する以前、かなり早い時期から彼はコンピューターで自分の音楽を作ることに取り組んでいた。

 「まだWindows95が出る前でしたけれど、姉のコンピューターにDOS画面で音楽を作っていくソフトが入っていて、プログラミングのように音楽を作っていました。中学3年生くらいの時は、積み木が崩れる音を録って、キューベースの前身になったソフトでそれを切り貼りして遊んでいましたね」。

  Ametsubの音楽には、楽器を使って音を鳴らす喜びと同時に、テクノロジーを使って音を鳴らすことについての原始的な喜びが漂っているように思う。例えばYMO、古くはブライアン・イーノからクラフトワークの初期作品に漂う、暖かさとも懐かしさとも新しさとも言える、テクノ独特のあの感覚。彼にとっての〈テクノ〉はどういう対象であるのか。

 「僕は完全にテクノ人間だと思います。いまのエレクトロニカ周辺ミュージシャンの8~9割はポスト・ロック寄りだと思うのですけれど、僕は完全にテクノ寄りだという自覚がある」。

 その場合、テクノを彼はどのように定義するのだろう?

 「踊れる、ノレるということでしょうか。爆音で聴くと気持ちよさが減る音楽があると思うんですが、テクノの場合、爆音で聴いてこそ楽しいしノレるものだと思います。最近、ミル・プラトーのような音楽はちょっと下火ですよね? よりプラスαの要素が求められているように思う。それはそれでいいんですが、よりストイックでミニマルな、テクノ~エレクトロニカの原点のような魅力がより伝わればいいなと思っています。僕の今回のアルバムでも、後半はその要素がだんだん強くなっていくんですけれども」。

 テクノに対する思い入れを培いつつ、コンピューター上で個人的な作品作りをしていた彼は、友人たちに自らの音楽を配り始めるようになった。

 「〈こういうのを作ったんだけど〉と友達に聴かせていったんです。〈すごいね〉と言ってくれる人が時々いて、それが励みになって、あとはどんどんと(笑)。作品をMP3でアップロードしてみんながそれを聴くことができるサイトがあって、そこでも評判がよくて、〈もしかしたらいけるかな〉と思えるようになったんですね」。

 2000年以降、テクノ~エレクトロニカ・シーンは大きな興隆を見せ、例えばいま、Ametsubが所属するPROGRESSIVE FOrMも先進的な作品を続々とリリースしている時期だった。

 「そうですね。当時は高木正勝さんとAOKI takamasaさんのSILICOMの作品が出たりしていて、本当にすごいな、と。僕もやらなきゃいかん、と色んなところにデモを送り続けまして。そこで、コンピにお誘いを頂いたのがPROGRESSIVE FOrMだったんです。嬉しかったですね。文字通りに雲の上の人たちばかりでしたから(笑)」。

  2003年、Ametsubはそのコンピレーション・アルバム『forma. 2.03』でデビューを飾り(堂々のトリだった)、2006年には記念すべきファースト・アルバム『Linear Cryptics』をリリースする。

 「渋谷のタワーレコードの店頭でも大きく取り上げられていて、すごく嬉しかったのを覚えています。両親にもCDを見せました。これも嬉しかったですね。まあ、聴いてくれてもあんまりピンとはこなかったみたいですけれど(笑)」。

 そのアルバムは好評をもって迎えられ、同年の〈sonarsound Tokyo 2006〉にも出演することとなる。そのアクトは、ゲームボーイを使ったステージで大きな話題を呼んだ。

 「〈sonar〉への出演は、本当に嬉しいということを通り越してしまっていて。あそこまでの大舞台だと、これはもう人と違うことをやるしかないかな、と(笑)」。

 あれから2年以上。あいだにドラマー・Jimanicaとのコラボレーション・アルバム『Surge』を挟み、満を持してリリースされたセカンド・フル・アルバムが今回の『The Nothings of The North』である。その制作の前に、彼は北欧に3か月間滞在し、そこから本当に大きな影響を受けたと語る。

 「本当に、ガラっと音楽観が変わりました。スケールというか、自然の大きさとか、なんにもないだだっ広いところに自分がそこにいるという思い……哲学とか宇宙とか、いろんなことを考えさせられましたね。音楽とは直接の関係がないことなのかもしれませんが、今後自分もこういう生き方をしたいなとか、そういうことをすごく感じました」。

 冒頭にも書いた通り、Ametsubの作品は聴く者に情景を思い浮かべさせる音楽である。今作は、さらにその情景喚起力が強いように思うが、そのあたりはどうか。

 「そう言われるのが一番嬉しいかもしれません。景色が浮かぶことを目指しながら音楽を作っているところもある。北欧で撮った写真がたくさんありまして、それを壁にたくさん貼って、その前でこのアルバムを作ったんです。必然的にその影響も出ているのかも。ジャケットやWEBのアートワークも、その写真をベースに作っています」。

 最後に、読者やリスナーに対して何か言いたいことはあるかと訊ねたところ、こんな回答が返ってきた。

 「北欧に限らず、一度北極圏に行ってみることをお勧めします(笑)。11曲目の“66”はそこでフィールド・レコーディングした風の音と自分の音を組み合わせた作品ですが、タイトルは北緯66度から来ているんです。それより北が北極圏になるんですね。自分としてはこれが今回のアルバムのキーとなる楽曲だと思っています。ここに込めた何かが皆さんに伝われば、本当に最高ですね。たぶん、北緯66度以北で僕の作品を聴いてくれたら、きっと分かると思うんですけれど……。ぜひ試してみてください(笑)!」。

▼Ametsubの関連作品

Ametsubも出演!
エレクトロニカ・シーンの精鋭が集結するイヴェント
〈PROGRESSIVE FOrM Presents New Sounds of Tokyo〉開催決定!!

日時:3月14日(土)17:00(OPEN)~21:00(CLOSE)
会場:代官山UNIT
出演:Live/aus with cokiyu、Yuji Tanaka (World Standard) & Takafumi Tsuchiya、Bajune Tobeta Group、Filfla[Keiichi Sugimoto, moskitoo & Kazuya Matsumoto (Soul Tune Factory)]、蓮沼執太チーム [Shuta Hasunuma, Jimanica (d.v.d), Shuta Ishizuka(detune.) & Ryosuke Saito]/Short Live/Ametsub
料金:前売 3,000円、当日 3,500円(共に税込・ドリンク代別)
チケット:発売中(ぴあ [P-Code:316-311]/LAWSON [L-Code:79167]/e+/ほか
問合せ:代官山UNIT(03-5459-8630)、PROGRESSIVE FOrM

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2009年02月19日 18:00

更新: 2009年02月19日 18:59

文/熊谷朋哉(SLOGAN)

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