POP / BAND ENSEMBLE - PAVIRION OF ELECTRONICA Part.3
さまざまなジャンルに溶け込み、サウンドに空間的広がりを与える電子音楽――エレクトロニカ。当博覧会では、ここ2~3年に発表された作品を中心にテーマごとのパビリオンを設置しております。ごゆるりとご鑑賞いただければ、これ幸い。但し、変幻自在の音であるがゆえに、いつのまにか入り口に掲げられていたテーマとは別のパビリオンに迷い込んでいる……といった不思議体験も想定されますので、ご了承ください!? 第三弾は、ポップ/バンド・アンサンブル編です。
■POP
Shuta Hasunuma 『POP OOGA』 WEATHER(2008)
ビート・オリエンテッドな作風で海外からも注目を浴びる気鋭のクリエイターによる4作目。リズミックな生楽器のフレーズと多彩なマシーン・ビートとの饗宴に心が躍る本作では、流麗なメロディーの上を滑らかに泳ぐ本人のヴォーカルを大々的にフィーチャー。そのためか、トラック自体は斬新なエディット感覚で支配されていながら、全体的な聴き心地は非常にポップだ。フロアでもベッドルームでもエキサイティングな恍惚感をもたらしてくれること請け合いの一枚! *土田
susumu yokota 『Mother』 Lo Recordings(2009)
国産テクノ界きってのヴェテランにして多作家の最新作。3拍子の連作を発表するなど、近年はダンス・ミュージックのフォーマットに縛られない様々な試みを見せて来たYokotaだが、本作では、ほぼ全曲でシンガーをフィーチャーし、歌ものにトライ。クラスターを思わせる電子音が踊り、ピアノやギターなどの生楽器が心地よく寄り添い、優美な歌声がたゆたう。ジャーマン・プログレやカンタベリー・ロックにも通じる美しさを備えた、アンビエント・ポップの傑作! *澤田
高橋幸宏 『Page By Page』 EMI Music Japan(2009)
3年ぶりのソロ・アルバム。前作以降には、YMOやpupaでの活動があり、そこで育まれたサウンドや交友網が多分に反映されている。にも関わらず、ここで味わえるのは、まぎれもない〈幸宏ソロ〉の世界。コーネリアスにスティーヴ・ジャンセン、ラリ・プナにアトム・ハートといったワールド・ワイドな面々をフィーチャーし、エレクトロニクスと生楽器を自在に操りながら、ナイーヴ&ジェントルな独自のポップ・センスを伸び伸びと披露している。そこはかとなく漂うサイケ感が、中期YMOを想起させる瞬間も。*澤田
Lamb 『RANCH HOUR POP』 sucre.(2005)
中村栄之輔と工藤敦子のデュオ・ユニットが発表した2作目。ボサノヴァやジャズ、ギター・ポップを咀嚼した最高にポップな楽曲の数々を、エレクトロニクスを駆使した現代的な音響センスで緻密にアレンジ。言うならば〈渋谷系 meets エレクトロニカ〉? ありそうでなかったキャッチーなサウンドに魅了されること間違いなし! 隠れた秀作です。*澤田
rei harakami 『あさげ~SELECTED RE-MIX & RE-ARRENGEMENT WORKS / 1』『ゆうげ~SELECTED RE-MIX & RE-ARRENGEMENT WORKS / 2』 ミュージックマイン(2009)
国産エレクトロニカの立役者による、リミックス/リアレンジ/プロデュース楽曲をまとめた作品集が2枚同時に登場する。〈あさげ〉盤には、クラブ・ミュージック枠のアーティストのトラックを、〈ゆうげ〉盤には、ポップ・フィールドでの仕事をそれぞれコンパイル。リリカルな電子音をふわりと浮かべるharakamiの手つきは、オリジナル作であれ〈外仕事〉であれ不変であり、活動初期から現在に至るまで、その独自過ぎるスタンスは一貫していることを再確認できる2作品だ。*澤田
YMO 『LONDONYMO -YELLOW MAGIC ORCHESTRA LIVE IN LONDON 15/6 08-』『GIJONYMO -YELLOW MAGIC ORCHESTRA LIVE IN GIJON 19/6 08-』 commmons(2008)
2008年に行われたロンドン公演とスペイン公演をそれぞれ収めたライヴ盤2作。2000年代は、ソロやSKETCH SHOW~HUMAN AUDIO SPONGEなどでの活動を通して、エレクトロニカと向き合い続けてきた御三方だが、ここでもエレクトロニカ的な音使いを基調としたポップなアンサンブルが堪能できる。一方で生演奏の比重も高く、両盤の収録曲はさほど変わらないものの、同じ楽曲でもその手触りはかなり異なる。その辺も、最強の演奏家集団であるYMOのYMOたる所以なのかも。*澤田
■BAND ENSEMBLE
anonymass 『anonymoss』 ミディクリエイティヴ(2008)
近年はYMOのサポート・メンバーとしても活躍している権藤知彦。彼を中心とするカルテットが発表したYMOカヴァー集。管楽器や弦楽器を揃えた室内楽的アンサンブルに、エレクトロニクスを効果的に絡めた音像が、極上のリラクシンな空気を練り上げる。神田智子のふわふわした歌声にも和まされっぱなし。原曲とはまるで異なる、アクロバティックなアレンジばかりが詰まっているのも楽しい一枚です。*澤田
ALL OF THE WORLD 『Finesse』 THANKS GIVING(2008)
名古屋発のトリオ・バンドによるセカンド・アルバム。電子音を交えたポスト・ロック的アンサンブルを聴かせた前作『the dance we do』から一転、本作で彼らはダンス・モードに突入。J・ディラ~マッドリブ辺りのスロウなファンクネスや、デトロイト・テクノの昂揚感みなぎるグルーヴ、さらにルーディーなレゲエのバック・ビートまでを飲み込み、とことんフィジカルなエレクトロニック・フュージョンを展開しております。*澤田
FilFla 『frolicfon』 WEATHER(2008)
fonicaやFour Colorなど、さまざまな名義で世界的に活動している杉本佳一のソロ・プロジェクトが放つ2作目。自身も所属するminamoのメンバーをはじめ、多彩なゲストを迎えたバンド・セットによる楽曲が大半を占める本作は、豪快なリズムと色とりどりの電子音が躍動的に弾けるダイナミックかつメロディアスな逸品。moskitooやRFの美声もフィジカルなエレクトロニカ絵巻にたおやかな華を添えている。*土田
4 bonjour's parties 『PIGMENTS DRIFT DOWN TO THE BROOK』 &(2007)
米マッシュより初の日本人バンドとして海外デビュー済の7人組バンド。アコギやエレピを中心に、温かみのあるホーン・セクションやリリカルなヴィブラフォンなども交えた生楽器+ジェントルな男女ヴォーカル+電子音で奏でられる本作は、アナログ感のあるプロダクションながら、不思議と密室感は皆無。これは言わば、屋外対応型のチェンバー・ポップ集? ソフトでややストレンジなサイケ感は、90年代後期のエレファント6周辺に通じる雰囲気も。*土田
pupa 『floating pupa』 EMI Music Japan(2008)
高橋幸宏が50代半ばにして結成した新バンドには、高野寛、堀江博久、高田漣、権藤知彦、原田知世という強力な面々が集結。その第1作がこちら。エレクトロニカ的な音像を基調としているが、生楽器をふんだんに盛り込んだオーガニックなアンサンブルが耳に残る。メンバーがそれぞれ楽曲を持ち寄っていることも含め、バンドならではのおもしろさや喜びが素直に表現されたアルバムだ。そして、知世嬢の優美で軽やかな歌声は、何物にも変え難い! *澤田