kashiwa daisuke
「走れメロス」「銀河鉄道の夜」などの近代文学をエレクトリック・ミュージックで表現するなど、その特異な作家性で知られる若き電子音楽家・kashiwa daisuke。メッタ斬りにされたいびつなビートや暴力的なノイズが吹き荒れたかと思えば、慎ましいピアノが清澄に鳴り響く――美と醜、二律背反の音世界をストイックに描き出した新作について、本人に話を訊いた。
kashiwa daisukeは、ピアノの美しくリリカルな響きと、エイフェックス・ツインのような混沌としたノイズと、その両方が常に同居するという独自の作風をもつアーティストだ。グリッチ音とアコースティック楽器を同等に扱う、いわゆるエレクトロ・アコースティックや叙情系エレクトロニカのアーティストが2000年代中頃から増えてきているが、彼もその一人といえる。特に前作『program music I』は、近代文学の「銀河鉄道の夜」と「走れメロス」をモチーフに、生楽器によるセンチメンタルなメロディーが際立った傑作だった。しかし約1年半ぶりの新作『5 Dec.』はそのメロディーが後退し、ノイズ・ギターが暴れ回りダンス・ビートが躍動するという、攻撃的なアプローチを見せている。
「前作を発表した後、ライヴの本数がすごく増えたんですが、ライヴでは音源とは違ってビートが効いた踊れるものとか、現場で楽しめるようなものをやっていたんです。今回はそういうライヴ向けの音源なんですよ。最初は前作の流れを汲んだものを作ろうと思っていたんですけど、いまのシーン的にそれもおもしろくないんじゃないかなって。アンビエントなものや単純にきれいなものは飽和気味っていうか、そこを自分がやる意味があるのかなって思って。もともとルーツがロックとかハード・ロックとかにあるんで、自分の個性を出そうと。それで耳当たりのいいきれいなものから、正反対の方へ行きたかったというのは、今回、目的としてありましたね」。
前作の続編的なものという安易な方向を選ばなかったのは、彼のクリエイティヴな姿勢の表れと言えるし、さらにはいまのシーンの空気を敏感に察知しているところにも、彼の嗅覚の鋭さを感じてしまう。彼が言うように今回はフロアに直結するダンス・ビートを前面に出しているわけだが、特筆すべきはその多彩さ。ドラムンベースやブレイクビーツ、ブレイクコア、ブリープ・テクノなど、ほとんど曲ごとに変化していく。それも、どれもストレートに踊れるビートではなく、凶暴さを強調したようないびつなビートばかりだ。
「あまり何々っぽくというのは意識していなくて、単純なビートじゃないけどノレる、というのを考えながら作りました。普通にキックが4つ打ちで裏でハットが入って、というのはノレるんですけど、ちょっとおもしろくないんで。ライヴをやるとき、お客さんをビックリさせたい、ドキッとさせたいという気持ちがあるんですよね。衝撃的な何かを込めたいというか」。
そのビートとともに今回際立っているのが、彼の暴力的な側面だ。初めて採り入れたラウドなエレキ・ギターや、コンピュータがバグしたかの如くのたうち回るノイズ、あるいはそれらの音をズタズタに切り刻むエディットなどが、かなり前面に出ている。その一方で彼の持ち味のひとつである透明感のあるピアノも健在だったりして、つまりは〈醜悪なものと美しいもの〉が同居しているのだ。この作風は以前から彼の作品のなかに見られたが、今回は醜悪な方を過度に表すことで、その対比がより明確になった感がある。
「そこ(暴力的な部分)は僕がもともと持っている性格というか……。昔バンドをやっていたときも、ステージでギターを振り回して暴れたりしていたんです。普段はおとなしいんですけど、音楽がスイッチになってそういう部分が出て、ボーンって行きたくなる感じになるんですね。それと、僕は小さい頃から星新一さんが好きで、星さんは〈異質なものを結びつけよう〉ということを強く言われていたんです。対照的なものを結びつけて別のおもしろさが生まれるというのは、小さい頃から本質的に学んできている気がして。だからピアノみたいなきれいなものと、すごく破壊的な音とを結びつけることで、新しい美しさや別の何かが見えてくる、というのはずっと求めている気がします」。
具体的に言えば、たとえば2曲目“Requiem”は、エレクトロ・ノイズと合唱隊のサンプリングとが合体して巨大な音の壁を作り、息詰まるようなテンションが圧巻の斬新な曲だ。また“Aqua Regia”は暴れ狂うブレイクコアに流麗なピアノが重なり、まるでスクエアプッシャーと坂本龍一が共演しているような曲。彼によるとこれらの曲は〈醜悪なものと美しいもの〉の同居であると同時に、クラシックの曲がモチーフになっているという。
「実は全曲、クラシックの曲のリミックスやクラシックの曲からインスパイアされたもので構成されているんです。それが自分にとっての裏テーマみたいなもので。“Requiem”はモーツァルトの曲を素材に使いつつ、爆発力のある曲にしたかった。あと5曲目の“Black Lie, White Lie”はシューベルトの“魔王”なんですけど、自分なりのイメージで解釈していったんです」
総じて本作は、彼の暴力的な部分を思いっきりクローズアップすると共に、クラシックとエレクトロニカの融合という〈裏テーマ〉も込め、それらを力業でまとめてみせた作品だ。ミニマルやアンビエントが主流となった昨今のエレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて、ひときわ異彩を放つ傑作といえるだろう。また、彼のいびつな個性がこれまでで最もストレートに出た作品でもあり、その意味でも重要作である。
「自分の持ち味って、予定調和的なものよりも、なにかしらのインパクトやおもしろさじゃないかなと思っていて。そういうインパクトを求めている人にとって今回の作品がおもしろいものであったら、すごく作った甲斐があります。個人として表現できる限界というものを、常に追いかけていきたいと思っていますね」。
ちなみに彼のこれまでの3作は、すべて手法や方向性が異なるものになったが、次のアルバムはそれらの要素を全部注ぎ込んだような作品にするつもりという。ならば次回作も興味深いものになりそうだ。
「次はこれまでの3作でやったことの、集大成的なものをやりたいんです。〈今回はこれが強いけど、これは弱いよね〉ということがない、リズムもメロディーも全部を含めたアルバムを作りたいと思っているんですよね」。
▼kashiwa daisukeの関連作品
kashiwa daisukeも出演!
noble発、エレクトロニカ~アヴァン・ポップ・シーンのワンダー・スリーが集結するイヴェント
〈noble label showcase “EN-EI”〉開催決定!!
日時:4月21日(火)OPEN & START 19:00
会場:Shibuya O-nest
出演:Live Act kashiwa daisuke + GENTAROW + Koji Nishida (RAKU-GAKI)、kazumasa hashimoto、テニスコーツとセカイ + nobuki nishiyama/guest dj SHINYA TAKATORI (RANKandFILE RECORDS)
料金:前売 2,500円、当日 3,000円(ドリンク代別)
チケット:発売中 LAWSON (L-CODE 73518)/noble/O-nest
問合せ:noble/O-nest
※来場者特典! 出演3組のここでしか聴けない音源を収録したエクスクルーシヴCD-Rをプレゼント!!