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曽我部恵一

インディペンデント・シーンのいま&これから


  曽我部恵一主宰のレーベル、ROSEからリリースされたコンピ『Perfect! -Tokyo Independent Music-』は、そのタイトル通り、いま東京近郊でインディペンデントな活動をしているアーティストたちの作品集だ。アンダーグラウンドなクラブ系アーティストやハードコア・ハンドなどを集めた玉石混交なパーティー〈RAW LIFE〉や、日本各地のクラブ~ライヴハウスで開かれているジャンルレスなパーティー――その流れを汲みながらも、本作にはレーベル・オーナーとしての曽我部の視点も、シンガー・ソングライター、リスナーとしての視点もしっかりと含まれている。

「ハードコアのバンドがハウスのパーティーに出るとか、ジャンルを跨いじゃってる音楽が最近多いなと思っていて。やけのはらさんのように〈ヒップホップなのか?〉みたいな。彼らは影響を受けた音楽を一旦咀嚼するんじゃなくて、そのままミックスしているように見える。その結果自分のスタイルとして音楽を出すよりも、柔軟にいろんな音楽を取り込んでいるんじゃないかな。リスナーも、これまでだったら〈このバンドが好きならこっちのバンドも好き〉、みたいに同じ傾向のほうへ広がっていく感じだったけど、いまの若い子って〈MySpace〉でひとつのアーティストからいろんなアーティストに飛ぶでしょ。ジャンルにこだわらないで音楽を聴く感覚に慣れてきているんだと思う。だから、そういう内容にしたくて。過渡期のおもしろさをどうにかパッケージにしたいって気持ちは、レーベルをやっている立場の人間の役目でもあるし」。

 本作が作られるうえでキーワードとなったのは、〈現代性〉と〈インディペンデント〉ということなのだろう。では、彼が思うインディペンデントな活動とは、何を指しているのだろうか。

「このコンピに参加している人たちは、仕事をしながら音楽をやっている人が多い。プロなんだけど、普段はバイトをしてたり、CMの音楽を作ったり、レーベルの業務に関わっていたり。生活のための仕事があって、そこから自由になる瞬間に出てくるのがインディペンデントな音楽なんじゃないかな。生活と自分の音楽が切り離されたところにある人のほうが、自分の人生の歌を持っている傾向があると思うし」。

 メジャーに対するカウンターとしてのインディーではなく、生活から生まれる音楽こそがインディペンデントであるという捉え方がいかにも彼らしい。「商業的な部分は置いといて、いまのシーンの記録をめざした」というこのコンピにおける大きなトピックとして、曽我部と藤原ヒロシによるフェアグラウンド・アトラクション“Perfect”のカヴァーが挙げられる。

「ヒロシさんには憧れてました。〈宝島〉の連載を切り抜きしてたくらい(笑)。僕が中学生くらいのときに、ヒロシさんを入り口にして音楽に関わらずいろんなカルチャーを知ることが多かった。いま、自分がこうやっていろんなミュージシャンを紹介する立場になったとき、1曲目にヒロシさんがいてくれたら、シーンの大先輩という意味でも気合いが入るし。それに誰もが知っている曲をカヴァーしても、抜群にセンスがいい」。

 さて、東京に限らず、全国におもしろいシーンは存在しているはず。ソロ/バンドの両方で日々ツアーを行っている彼に、現在の地方の状況を訊いてみると……。

「各地におもしろい人たちが根城としているような、独自のハコがあるんですよね。そこを中心に、ハードコアもヒップホップもテクノも、どんな音楽をやっていようと隔てなくみんな繋がってたりする。その自然な交流がいいですよ。一昔前だったら、土地(地元)にこだわって音楽をやっている人が多かったけど、いまはもっとフラット。〈自分の音楽〉っていうところにもこだわりは少ない。僕がやっているオールド・スクールなロックンロールも、いろんな選択肢があるなかでやっている。ハイブリッドを意識しないことで、新しい匂いが出てくればって思っているから」。

 曽我部がこれからのインディー・シーンに求めるのは、恐らく〈こだわり〉だと思っていた〈しがらみ〉から解放されることなのではないだろうか。観念からの解放という意味での自由を求める彼の発言は、2008年のベストな一枚からも窺える。

「面影ラッキーホールの新作がダントツで良かったですね。歌に対する真っ直ぐな情熱を感じるんです。でも雑誌に載ってるレヴューとかだと、色モノとしてしか紹介されないでしょ。メンバーがそうしている部分もあるんだけど、それがすごく残念だなって。みんな聴いたら絶対に気に入るんじゃないかなって思うんだけど」。
▼曽我部恵一の作品を紹介。

▼文中に登場するアーティストの作品を紹介。

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2008年12月25日 10:00

更新: 2008年12月25日 17:50

ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)

文/ヤング係長

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