根本的な歌心の違いを再認識
前年からのメロディー回帰の流れを受けて、根本的な歌心という〈基本〉を大切にした作品が増えたのは大きな収穫だろう。先鋭的なサウンド・プロダクションが広義のアーバン・ポップ的な作品に流入していったことで、逆にブラックネスを見つめ直したアーティストも多かったはずだ。ただ、ヴェテランから新人までソロ・シンガーが賑わう一方で、デイ26のような例外を除けばグループ形態のアクトがいよいよメジャー・シーンから消えつつあるのは残念。
(出嶌)
MARY J. BLIGE 『Growing Pains』 Geffen
迷いからの〈ブレイクスルー〉を宣言した後の〈成長に伴う痛み〉をテーマに据え、女王ならではの貫禄と真摯さを込めていた通算7作目。ドリーム作の“Just Fine”などかつてなくポジティヴな作りには、今後も綴られる彼女のライフストーリーに新たな光が差すことを予感させた。
(池谷)
JANET 『Discipline』 Island
レーベルを移籍し、長年の相方だったジャム&ルイスとも離別……2つのターニングポイントを経て、2008年らしい若手クリエイターたちとコラボした意欲作。時流の先を行かんとする先鋭的なアップを際立たせた内容は、いまなお先鋭であり続ける彼女の決意を改めて示していた。
(池谷)
ERYKAH BADU 『New Amerykah Part One (4th World War)』 Motown
R&Bシンガーというよりヒップホップ文化のなかで生きる女戦士として新たな地平を切り拓いた革命的な作品。賛否両論だったが、サー・ラーやマッドリブらを味方につけ、ファンクの未来型を提示した意欲は認めたい。J・ディラの追悼曲もあり。
(林)
MARIAH CAREY 『E=MC2』 Island
〈解放〉を宣言した前作『The Emancipation Of Mimi』の第2章という位置付けだった本作。ドリームやT・ペイン、ヤング・ジーズィらを迎えてトレンドを完全に捉えつつ、自身の魅力をさまざまなスタイルで余すことなく伝える全方位的な内容に仕上げていた。リリース後は再婚も話題に。
(池谷)
KEITH SWEAT 『Just Me』 Keia/Atco
スロウ・ジャムの帝王が久々に放った新作。テディ・ライリーやアシーナ・ケイジとの再会も話題となったが、何より感心させられたのはキース本人の不変ぶり。ねっとり、まったり。その彼がふたたび〈R&Bの顔〉になれるようなムードが2008年にはあった。
(林)
LYFE JENNINGS 『Lyfe Change』 Columbia
T.I.やスヌープ・ドッグらのゲスト参加や加工声の導入が耳目を引き、本人のギター弾き語りやアーシーな側面は前ほど目立たなくなった3作目。ただしそれがソウル感の減退に繋がることはなく、燻し銀の歌声の説得力で〈本物〉ぶりを示してくれた。
(池谷)
RAY J 『All I Need』 Knockout/Deja34/Koch
姉ブランディを奮い立たせたんじゃないかと思うほど、いまの彼は絶好調。セックス・スキャンダルもプラスに転化して、自身最大のヒットとなった“Sexy Can I”の勢いのまま放ったこの4作目は、流行とオーセンティック感の採り入れ方が絶妙だった。
(林)
TIFFANY EVANS 『Tiffany Evans』 Columbia
シアラとクラッチの援護を受け、“Promise Ring”で再出発した歌姫の処女作。ポップでエッジーなサウンドを乗りこなす身軽さは92年生まれというミドルティーンならでは。デスチャ初期のビヨンセも思い起こさせる、次の時代に控える小さな大物。
(林)
USHER 『Here I Stand』 LaFace/Jive
破壊力満点のトラップ・ビーツに効果的なトレモロ音を配し、ついでにヤング・ジーズィも招いた“Love In This Club”という恐ろしいキラーで以降のアーバン・マナーを更新した5作目。作中ではオトナのエンターテイナー路線を模索していたが……早くも次の一手が気になるところだ。
(出嶌)
DWELE 『Sketches Of A Man』 RT/Koch
黒人音楽都市としてのデトロイトの魅力を再認識させられる事象も多かった2008年。このネオ・ソウルマンも、かの地らしい黒々としたグルーヴをスマートな装いで紡ぎ出していた。〈現代のリオン・ウェア〉という形容もますます似合ってきたか。
(林)
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