bounceが選ぶ、2008年の50枚
1.LIL WAYNE『Tha Carter III』Cash Money/Universal
当然の結果でしょ、と思いつつも、いったいこの〈ヤング・マネー〉はいつの間にここまで絶大な称賛を受け止めるに足るだけのスキルとヤバい華を身に付けたのだろう?と思わされたりもして、3年前の前作『Tha Carter II』まではイロモノ扱いしていたメディアや同業者が慌ただしく手のひらを返す様子は痛快だったりもしたのだが、ウィージーの劇的かつ飛躍的な進化がそれ以降に起こったことであるのもまた確かだったりするから厄介で、その3年の間に〈精力的〉という言葉すら生ぬるいと思えるほど、メシを食うようにラップをし、眠る時間以外は働きっぱなしでひたすら新曲をネットやミックステープにアップし続けてきたワーカホリック&自己研鑽&ラップ愛&音楽愛がこの不思議な絶頂を生み出したのだとしたらこれほど美しい話もないけど、それでも生き急いだり死に急いだりしているようでもなく、貪欲であることを肯定し、成功を素直に謳歌する陽性のヴァイタリティーが、イマっぽい魅力としてシーンをポジティヴに照らしているのには違いなく、彼の音楽を共有している人は本当に史上最強のスーパー・エキセントリック・ロック・パーフェクトスター・アイコンの誕生をリアルタイムで体験しているのだ……って、もう『Tha Carter IV』が出来てるんだって!
(出嶌)
2.Perfume『GAME』徳間ジャパン
注目度の急上昇と人気爆発ぶりという点では当然ながらNo.1に違いないトリオ。個々のキャラの魅力?とか素敵なステージング?とか下積み時代のストーリー?とかお人形に徹することの逆説的な素晴らしさ?とかこれぞ本当に正しいアイドルの在り方?とか、識者たちの分析ごっこを誘発しまくっているわけだけど、そういう物語を離れた部分でストレートにカッコ良くてカワイイ音楽が存在してくれることに至上の幸福を感じたいもんですわ。このアルバム以降も気合いの入った良曲を届けてくれているものの、サウンド的には微妙な転換を無意識に迫られているような気がして、逆にまた2009年の展開に注目せざるを得なくなってきた。
(出嶌)
3.KATY PERRY『One Of The Boys』Capitol
軽快な“Hot N Cold”を聴いてアレ?と思ったら、プリンス“When You're Mine”のシンディ・ローパー版に似てるのだ。シンディといえば、ケイティを絶賛したマドンナと並ぶ80's MTVのヒロインだが、それを踏まえて全体を聴くと、何か昔のMTVっぽいというか、リヴァイヴァルが拾わない、より大衆的でコマーシャルな80's~90's感をこのアルバムからは強く感じる。ソフィーB・ホーキンスとか初期のノー・ダウトとかね。過激リリック系にはピンとこないんだけど、王道のポップスで埋め尽くされたアルバムは聴くほどに最高だし、その中身がいかにも古き良きアメリカ的なピンナップ・ガール風のジャケに着地するところも素晴らしい。
(出嶌)
4.FLYING LOTUS『Los Angeles』Warp
プッシュしすぎ、だとは思わない。EPの時点でそのスジではけっこうな騒がれ方をしていたみたいだけど、まさかここまで良いアルバムとは……という大傑作である。力強く打ち込まれる黒くてアトモスフェリックなビートに、聴こえない何かまで想像させるような抽象的な音色がサラサラと蠢き、頭脳的でありながらも恐ろしく肉体的なグルーヴが沸々とと息づいている。LAアンダーグラウンドの盛り上がりは内輪ノリがすぎたのか落ち着いてしまったけど、本物の素晴らしいアーティストをまたひとり紹介してくれたのだから、それでも良いか。とにかくこれは全員に聴いてほしいです。
(出嶌)
5.ESTELLE『Shine』Home School/Atlantic
レオナ・ルイスやアデル、ダフィなど例年以上にUKの女性アーティストがひしめく2008年度グラミーの候補者リストだが、そこへ共に名を連ねるのがジョン・レジェンドのレーベル第1弾アーティストとして全米進出&ブレイクを果たした彼女。歌/ラップの両刀を器用に使って先行カットとなったウィル・アイ・アム製&カニエ参加のディスコ調ナンバーやマーク・ロンソンのデジタル・スカ・ポップなど、ソウルやレゲエ、ヒップホップ、ファンクなどを豪華な凄腕がアレコレした楽曲を、スムースに気持ち良く乗りこなす。一見散漫そうな幅広さだが、全曲がニクいほど格好良いので文句なし。
(加藤)
6.T-PAIN『Thr33 Ringz』Nappy Boy/Konvict/Jive
2年連続TOP10入りしたのはこの男のみ。それだけでいかに旬かがわかるでしょ! 世間をオートチューンまみれにしてしまった張本人が、本作ではその権力を見せつけるかの如く豪華ゲストを招き、メロウ・チューンからバカ騒ぎのアップまで楽しいショウを展開。この勢いだと、来年はコラボ盤の発表が噂されているリル・ウェインと仲良く1位を飾るんじゃ!?
(山西)
7.T.I.『Paper Trail』Grand Hustle/Atlantic
ジム・ジョンシンによる“Whatever You Like”と、〈マイアヒ~♪〉がもはや格好良く聴こえてしまう“Live Your Life”が全米1位を何度も譲り合って……とかでビートルズを超え、T.I.史上最大の〈現象〉を進行形で巻き起こしているモンスター・アルバム。勢いだけでも楽しめて、隅々までも聴き込める作品は、ヒップホップに限らずそうそうなかった。
(出嶌)
8.Anarchy『Dream and Drama』R-RATED
成り上がり主義全開ですが文句ありますか? 例えあなた方にとって〈リアル〉じゃなかったとしても、音楽を評価する軸にはなり得ませんからね。それにしたってストイックでハードコアなリリックとドッシリした低音の声、歌心溢れるフロウ、シンプルながらドラマティックなトラック――どう聴いても完璧です。自伝の刊行やDVDの発表を経てAnarchyイズムを確立し、SEEDAらと共に日本語ヒップホップの完全復権を成し遂げた歴史的一枚。
(山西)
9.ミドリ『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』ソニー
クレイジーとかフリーキーとか円盤とかエロとかカモロックとか戸川純とかフリージャズとかアブノーマルとか、あんまり大仰に言われるんで危うくスルーするところだったよ。で、はじめまして聴いたら、実際にそんな感じだったりしてごめんなさい、なんだけどそれ以前に素敵な歌謡集団としてのノーマルさがチャームだったりして、そこが好きかもね~。
(出嶌)
10.TV ON THE RADIO『Dear Science』XL
ここ数年続いていたUK景気が一段落し、ふたたびロックの主導権が緩やかにNYへと移行ししつつあった2008年。その流れのド真ん中にいたのがプロデューサーとしても活躍目覚ましいデヴィッド・シーテックであり、彼が率いるこのバンドだった。トーキング・ヘッズの正統後継者として君臨し、若手をグイグイとリード。シーンを完全掌握する日は近いぞ!
(山西)
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