ディスクガイド
ここ数年、ロック・シーンで活躍の目立った男性シンガー・ソングライターといえば、やはりジャック・ジョンソンを筆頭とするサーフ・ロック勢だろう。彼らの奏でる健康的でカラッとした陽性サウンドが、メインストリームを闊歩していたわけだ。しかし、特に今年に入って以降、相棒のギターを抱えて内省的な歌を紡ぐ、運動神経のあまり良くなさそうな(偏見)殿方が続々と佳作を発表し、シーン全体のカラーを少しずつ塗り替えているような印象を受ける。折しも季節は秋。センティメンタルな気分にさせられる日々の生活に必ずやハマるであろうこれらの作品を、本特集ではまとめて紹介したいと思う。すべて今年リリースされたアルバムだが、いずれも長く付き合えそうな仕立ての良い音楽ばかり。きっとクローゼットの中を入れ替えるたびに、彼らの歌とギターの音色を聴き返したくなるはずだ。
(山西絵美)
JEFF HANSON 『Madam Owl』 Kill Rock Stars
レーベルの先輩でもある故エリオット・スミスとたびたび比較されてきた彼の最新作。少女のように無垢な高音ヴォイスと、安易に聞き流すことを許してくれないデリケートなメロディーが、リスナーに至福の時間を与えてくれる。凛々しいバンド・サウンドでのエモーショナルな一面も、アコギでしみじみと弾き語る姿も、すべてが圧倒的に美しい。
(竹内)
ANDY YORKE 『Simple』 Aktiv
トム・ヨークを兄に持ち、過去にアンビヴァリー・トゥルースというバンドを率いて2枚のアルバムを残しているアンディ。そんな彼が元メンバーの協力のもと、11年ぶりに音楽業界に復帰した。ストリングスの旋律をなぞるように紡がれる歌メロと、安定したギター・プレイが印象的な楽曲群は、ダミアン・ライスを思い起こさせる。ジェントルでハートウォームな歌声も味わい深い。
(竹内)
TAMAS WELLS 『Two Years In April』 Popboomerang
ミャンマーでNGO活動に携わりながら音楽を作っているラヴ&ピースな吟遊詩人。〈天使の歌声〉と賞賛される美声や清らかなメロディーは心の浄化作用抜群で、ほぼアコギとバンジョーのみのシンプルな弾き語りだからこそ、それらはなおのこと沁みてくるのだ。世の中に蔓延る上辺だけの〈癒し〉とは一線も二線も画する、本当の〈癒し〉を求めているアナタに。
(田中)
TED LENNON 『The Calm』 Ted Lennon/Buffalo
これまでサーフ系の括りで語られることの多かった彼だが、この最新作はフリー・フォークへの扉を叩き、ホセ・ゴンザレスあたりのファンにもオススメできる内省的な仕上がりとなっている。フィンガー・ピッキングによって繊細に鳴らされるナイロン弦ギターの音と、囁くような歌声が耳を優しく撫でる。前作と同様、敬愛するボブ・ディランのカヴァーも収録!
(高木)
小島大介 『Ultramontane』 AWDR/LR2
Port of Notesのギタリスト=小島大介が、本名名義で放った初の歌ものソロ・アルバム。マルチ・プレイヤーとしての才能はもちろん、ギタリストとしての貫禄も見せつけた本作は、彼の持つ透明さや繊細さ、どこか少年のような柔らかさを歌声にもメロディーにも発見することができる。中秋の名月を慈しむような気持ちで眺めてしまう、そんな優しいサウンドです。
(竹内)
井上陽水 『弾き語りパッション』 フォーライフ
昨年のツアーで行われた〈弾き語りコーナー〉からベスト・テイクを抜粋した本作は、すべて70年代のナンバーということもあって〈アンプラグド・ベスト70's〉な趣の一枚。飾り気のないアレンジで蘇った名曲佳曲は秋の宵に聴くのに最適で、簡素ゆえに艶やかな歌声はいっそう際立ち、詞のイマジネーションをより豊かに広げている。流石は陽水、枯れた印象は皆無だ。
(北爪)
PETER MOREN 『The Last Tycoon』 Wichita
あの〈口笛ソング〉でブレイクしたピーター・ビヨーン&ジョンのピーター君による初のソロ・アルバム。バンド本隊でのピクニック・ソング的な軽やかさとは打って変わって、レナード・コーエンのように渋くてノスタルジックな味わいを持つ本盤には、独り酒がよく似合う。焼酎やウィスキーをチビチビやりがなら、移ろいゆく季節の美を愛でようじゃないか。
(田中)
- 前の記事: you, guitar and me
- 次の記事: ディスクガイド(2)