PET SOUNDS IS... かの『Pet Sounds』を巡るあれこれ
本文でも触れられているように、『Pet Sounds』はビーチ・ボーイズの歴史において異質な作品である。なぜなら、本作はほぼブライアン1人によって作られた実質的なソロ作であり(他のメンバーは後から歌を入れただけ)、また、これまでの〈サーフィンと車と女の子の歌〉とは一線を画する、極めて内省的な作品だからだ。ブライアンがビートルズの『Rubber Soul』に触発されて誕生した本作にビートルズ側が逆に刺激を受け、あの『Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band』を作り上げたというエピソードは有名だが、当時、『Pet Sounds』はセールス的には大失敗。ファンはおろか他のメンバーにすら理解されず、巻き返しを図った同路線の『Smile』も制作途中でお蔵入りしてしまうという結末を迎えた。
そんな不遇の『Pet Sounds』が評価を高めたのは、80年代後半以降のことである。ハイ・ラマズに代表される熱狂的なブライアン・フォロワーが同作の持つ〈架空の園〉的世界観を模倣するなど、主に若い世代からのラヴコールが原動力となり、急激に巨大化したのだ。近年もダニエル・ジョンストンらが参加したトリビュート盤〈Do It Again〉が発表されるなど、その孤高の輝きを賞賛する声は一向に絶えないが、一方で『Pet Sounds』およびブライアン以外のビーチ・ボーイズに目が向けられなくなってしまったという弊害についても、頭の片隅に入れておくべきだろう。
ハイラマズの94年作『Gideon Gaye』(V2)