The Beach Boys(3)
永遠の夏を求めて……
『Pet Sounds』以降のビーチ・ボーイズは時流の変化を横目に見ながら、従来のサーフ/ホットロッド路線から完全に脱却した、より広範でプログレッシヴなサウンドを模索していく。興味深いのは、67年の『Wild Honey』を境にプロデュースの名義がブライアンからグループへと変更されていること。そこにはもちろんブライアンの独裁体制への反発もあったとは思うが、前向きに捉えればニュートラルな状態から〈ふたたび6人組バンドとして結束していこう〉という意気込みの表れとも取れる。それを裏付けるように、この頃からブライアン以外のメンバーたちの音楽性は驚くほど成熟していく。なかでもカールの成長は目覚ましく、レコーディングで陣頭指揮を取るばかりか、マイクやブライアンとはまた違う豊潤さのあるヴォーカルで新たなサウンド作りを先導していった。新生ビーチボーイズの魅力を知るには、近年再評価著しい68年作『Friends』と70年作『Sunflower』が最適だろう。とりわけ後者ではブルースが“Deirdre”“Tears In The Morning”の美しすぎる2曲でメロディーメイカーとしての資質を開花、デニスも名曲“Forever”で独自の男気世界を打ち出している。
さて、この時期にはいくつかの佳曲を残しながらも実質ほぼ廃人寸前だったブライアンは、76年の『15 Big Ones』で久々に単独プロデュースを行うも本調子にはほど遠い状態。しかし、続く『Love You』はなんと全曲(共作も含む)が彼のオリジナルで占められ、クォリティーも思いのほか高い奇跡の好盤となった。だがその輝きはほんの一瞬で、彼はふたたび深い殻の中に閉じこもってしまい、グループ自体もかつてないほどの低迷を続けることになる。そして83年、酒に酔ったまま海へ入ったデニスが溺死するという最悪の悲劇が起こったのだった。
ところが、5年の沈黙を経てリリースされた85年の『The Beach Boys』は、皮肉にもデニスの死を契機に再結集したメンバーの奮闘ぶりが伝わる、久々の快作に仕上がった。後のソロ作品を予見させるようなブライアンのナンバーも良いが、往年のサマー・サウンドを彷彿とさせるマイク・ラブ&テリー・メルチャーの共作曲“Getcha Back”が素晴らしい(個人的にもブライアン以外のメンバーが作った曲ではもっとも好きだ)。そして88年、ブライアン抜きのビーチ・ボーイズは映画「カクテル」に使用された極上のトロピカル・ポップ“Kokomo”で、22年ぶりの全米1位を獲得。同年、ブライアンも初のソロ・アルバム『Brian Wilson』を上梓してついに完全復帰を遂げる。しかし、その後、ブライアンと他のメンバーががっぷり組み合ったビーチ・ボーイズ名義での楽曲リリースは、いまに至るまで実現していない。
ビーチ・ボーイズは実に稀有なロック・グループだ。ブライアンという比類なき天才が主導した優れたスタジオ・バンドでありながら、一方ではエンターテイメントを追求した一流のライヴ・バンドでもある。さらにメンバー全員がヴォーカルも作曲もこなすマルチ集団であり、そして多様なサウンド遍歴を重ね 、多くの困難を抱えながらも、単なる懐メロ・バンドに成り下がることを拒否して常に現役であることを意識し続けたグループである。ビーチ・ボーイズの魅力は、かつて彼らが歌ったカリフォルニアの海のように広く、深い。