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特集

The Beach Boys(2)

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2008年07月23日 11:00

更新: 2008年07月23日 17:36

ソース: 『bounce』 300号(2008/6/25)

文/北爪 啓之

刹那な季節の持つ楽しさと寂しさ

 ブライアン、デニス、カールのウィルソン3兄弟と従兄弟のマイク・ラヴ、ブライアンの友人であるアル・ジャーディンによって61年に結成されたペンデルトーンズは、本人たちの知らないところで勝手にグループ名を変えられつつも、翌年、〈ビーチ・ボーイズ〉としてキャピトルよりアルバム『Surfin' Safari』でメジャー・デビューを飾る。LAの中流家庭で育った彼らは、当時、西海岸の若者の流行最先端だったサーフィンと車(ホットロッド)を曲の題材にして次々とヒットを飛ばしていくのだが、皮肉にもメンバーでサーフィンができたのはデニスだけだった。初期のビーチ・ボーイズ・サウンドの特色は 、お馴染みの大ヒット曲“Surfin' U.S.A.”に顕著に表れている。それはチャック・ベリー譲りの躍動感に溢れたシンプルなロックンロールに、フォー・フレッシュメンばりの爽快かつ技巧的なヴォーカル・ハーモニーを乗せるということ。一見単純でありながらも前例のなかったこの手法が、後のロック/ポップスのコーラス・ワークに与えた影響は計り知れない。

セカンド・アルバム『Surfin' U.S.A.』までは部外者のプロデュースだったこともあってか、インストやカヴァー曲の多いやや散漫な出来だったが、3作目『Surfer Girl』からはブライアン自身がプロデュースを担当。その結果、収録曲はオリジナル中心となり、全体の統一感も完成度も飛躍的に進歩していく。ところで、彼らはデビューから丸2年の間になんと7枚のオリジナル・アルバムを発表しているのだが、〈売れるうちに売っとけ〉的なレーベル側の要求に〈あいよ〉とばかりに応えたグループとしての勢いと、矢継ぎ早にヒットを量産したソングライター=ブライアンの天才的な閃きには心底驚嘆する以外にない。

 そんな初期の集大成といえるのが、6作目『All Summer Long』だ。サーフ/ホットロッドを消化したうえで、より普遍的な〈夏〉をテーマにしたコンセプト作品的な趣の本盤には、その刹那な季節の持つ楽しさと寂しさのどちらもが内包されている。言い替えればそれは、当時の若者の青春を明るく活写した歌詞を書くマイク(や他のメンバー)の楽天性と、ブライアンが秘めた内省的な感性が見事に調和した結果ともいえるだろう。

 ところが翌65年、度重なるツアーでの疲労やヒット曲を作り続けなければいけないというプレッシャーから精神錯乱を起こしたブライアンは、ライヴ活動を引退。スタジオ・ワークのみに専念することとなる。海の向こうUKから上陸し、ヒット・チャートを席巻していたビートルズを仮想敵に、そして〈音響の魔術師〉フィル・スペクターを超えることを至上目標にしたブライアンの偏執狂的とすらいえる創作活動への没頭は、より高度なサウンドと複雑なアレンジに彩られた楽曲へと昇華され、それは『The Beach Boys Today!』『Summer Days』という優れたアルバムを経て、ついに66年、『Pet Sounds』という美しくも異端なアルバムに結実される。同作については別枠でコラムを設けているので、願わくば一度そちらに寄り道していただけるとありがたい。ブライアンはグループがツアーに出ている間にバック・トラックのほとんどを完成させており、戻ったメンバーたちは彼の指示で各パートにヴォーカルを吹き込んだにすぎない。つまり『Pet Sounds』とは、ブライアン・ウィルソンという一人の男が持てる限りの才能と自己のパーソナルを音像化させた、きわめてソロ作品的なアルバムだといえよう。それゆえ同作だけでビーチ・ボーイズというグループの本質を語るのは困難、ということになるのだが……。

『Pet Sounds』に続けてブライアンは、当時まだ無名のヴァン・ダイク・パークスをパートナーに迎え、『Smile』というアルバム作りに着手する。ところが、ドラッグにまみれて精神状態もおぼつかないブライアンは、あまりにも壮大なポップ・シンフォニーを目論んだこのアルバムを完成させられないまま挫折。その反動もあってか、以後、彼の創作活動は実に不安定なものとなっていった。

 一方、ブライアンがスタジオで悪戦苦闘している間に精力的なツアー活動を行っていたグループは、徐々にライヴ・バンドとしての実力を高めていった。ツアーでのブライアンの代替要員として65年にブルース・ジョンストンが加わったのだが、十代の頃からさまざまな音楽活動を展開してきた彼の加入は、単なる代役とはいえないほど大きかった。また、初期には技術不足のためレコーディングに参加させてもらえなかったドラマーのデニスも、通常とは手の位置が逆の我流奏法による(キース・ムーンにも一脈通じる)力強いリズムで、不可欠な存在になっていた。こうしたライヴ・バンドとしての魅力は、アルバム『Beach Boys '69(Live In London)』で窺い知ることができる。ここで聴けるパワフルで溌剌な勢いに満ちた演奏は、既存の曲たちに新たな息吹を吹き込んでいて頼もしい。当然ブライアンは不在だが、ビーチ・ボーイズのステージはもはや(いい意味で)彼を必要とはしていなかった。

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