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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2008年05月22日 10:00

更新: 2008年05月22日 17:24

ソース: 『bounce』 298号(2008/4/25)

文/青木 正之

どこまでも深く、そしてどこまでも美しく……


  いったい世界でどれだけの人が待ち望んでいただろうか? ポーティスヘッドが約10年ぶりに正真正銘の新作を完成させた。ブリストル近郊のサマセットにある町がバンド名の由来といわれている彼らは、ネナ・チェリーのアルバム『Homebrew』への参加をはじめ数々のレコーディングに関わっていたジェフ・バーロウと、シンガーのベス・ギボンズによって91年に結成された。そこにギタリストのエイドリアン・アトリーをメンバーに加え、94年にファースト・アルバム『Dummy』を発表。世に出るやいなや世界中で賞賛を浴びた同作は、強烈に映像を喚起するサウンドスケープとべスの美しくもどこか悲痛な叫びに聴こえる歌唱で人々を魅了し、マッシヴ・アタックやトリッキーと並んでトリップ・ホップの先駆者として取り沙汰された。余談だが、ここ日本ではリリースから数年後にアルバム収録曲の“Glory Box”がTVCMに起用され、大反響を呼んでいる。

97年にはセルフ・タイトルを掲げたセカンド・アルバムを完成。前作のスタイルを踏襲した作品ではあったが、あらゆる面でスケールアップを果たした彼らのサウンドに、ふたたび世界中が感嘆の溜息を漏らすこととなる。同作のリリース・ツアーではヨーロッパの主要フェスを制覇し、セールス面でも大きく飛躍。〈ブリストル・サウンド〉と呼ばれる独特の気怠さで、多くのリスナーを熱狂の渦に巻き込んでいくのであった。なお、ツアーはヨーロッパ~US~カナダ~オーストラリア~ニュージーランドに及び、いかに人々がポーティスヘッドを渇望していたかが見てとれるだろう。このツアーの一環として初来日公演が予定されていたが、成田に到着したもののべスの体調不良によって急遽中止となり、日本のファンを途方に暮れさせた。

そんなファンのやり切れない気持ちを察したわけではないだろうが、翌98年にライヴ盤『PNYC』と同名の映像作品を発表。これは97年にオーケストラを率いてNYで行ったローズランド公演を収録したもので、苦悩に満ちた表情で歌うベスの姿は一度観たらしばらく脳裏から離れないほどのインパクトを持ち、圧倒的な緊張感に包まれた傑作ライヴ・アルバムとなった。

しかし、ここまでは順調に思えた活動も、膨大なプロモーションやツアーをこなすことでメンバーが疲弊し、表舞台から遠ざかってしまう。中心人物であるジェフは音楽業界からしばらく身を引き、エイドリアンはサウンドトラックの制作やプロデュース・ワークに精を出すようになる。そんな彼らも2001年に一度アルバムのレコーディングに取り掛かかるが、その真っ只中にベスがソロ・アルバムに着手。元トーク・トークのラスティン・マンことポール・ウェッブとの共同作業によって2002年に『Out Of Season』をリリースし、アコースティック・サウンドをバックに情感豊かな歌を聴かせた。彼女の圧倒的な存在感はソロにおいてもまったく霞むことがなく、ファンを喜ばせたのだが、それも束の間、ポーティスヘッドのレコーディングはストップしてしまう。ただ、バンドからしばらく距離を置いたことで徐々に英気を養った3人は、2004年に再度レコーディングに突入するのであった。

  そして2007年、彼らがキュレイターを務めたフェスティヴァル〈All Tomorrow's Parties〉で新曲“Machine Gun”を含めたパフォーマンスを披露し、ここで初めて復活が現実味を帯びる。こうした紆余曲折を経て届けられたニュー・アルバム『Third』は、これまでのシネマティックな部分を継承しつつも、ロックやインダストリアルなテイストを採り入れた〈動〉の部分も垣間見せ、着実に進化を遂げている。ここ数年、かつてほど覇気のなかったブリストル・シーンだが、今作が復活の狼煙となるか──それを見守るのもファンにとってはひとつの楽しみとなりそうだ。

▼ポーティスヘッドの参加作品を一部紹介。


トム・ジョーンズの99年作『Reload』(Gut)

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