Lenny Kravitz(2)
リアルなロックンロールをブチかませ!
89年に『Let Love Rule』でアルバム・デビュー。ヴァージンとのレーベル契約まで漕ぎ着ける以前に、すでに同作は完成されていたようで、レニーの父親がスタジオ代などの経費を支払っていたことも知られた話だ。ヴィンテージ楽器にこだわったレトロなそのサウンドは、〈クラシック・ロックの再来〉と歓迎される一方で、〈単なるギミックとしてのレトロ・ロック〉との批判の声も上がった。が、日本ではその頃から本物のロッカーとして高評価を獲得。デジタル化の波が押し寄せるなかで、アナログ・サウンドの温かみを求める人たちが即座にレニーの音楽に反応したことも要因のひとつだったし、ほとんどひとりですべての楽器演奏やプロデュースをこなす彼のことをプリンスと並べて天才扱いする人も少なくなかった。だからして、日本ではこのデビュー・アルバムを彼の最高傑作と評価している初期からのファンも多い。しかし、本国での人気が飛躍的に跳ね上がったのは、2作目『Mama Said』の商業的な成功を機にしてからである。
91年リリースの『Mama Said』は、シングル・カットされた“It Ain't Over 'Til It's Over”がビルボード・チャートで最高2位まで上昇したこともあり、初のミリオンを突破するヒットとなった。彼のアルバムのなかではもっともメロディックでソウルフル。そのキャッチーなポップ・フィーリングゆえにロック・ファンの間で意外と評価が低かったりもするのだが、筆者の個人的な感想を言わせてもらうと、これぞ究極のラヴ・メイキング・アルバムではないかと思っている。それはさておき、この頃からセレブとの交流も目立ちはじめ、例えば大胆な性描写が話題となったマドンナのヒット曲“Justify My Love”ではソングライティングとプロデュースを手掛けているほか、ヴァネッサ・パラディのアルバム『Vanessa Paradis』の全面プロデュースを請け負いもした。両シンガーとの間には恋の噂も飛び交っていたレニーだが、時同じくして一子を儲けた奥方のリサ・ボネットと別離している。
前作のヒットで勢いを付けた彼は、93年に3作目『Are You Gonna Go My Way』を発表。シングル・ヒットした表題曲がつんのめり系のロック・アンセムだったこともあり、よりロックなイメージが濃厚となった。一般人ならまず着られそうもない派手なコスチュームを身に纏い、しかもそれがカッコ良くキマっていたものだから、ロックンロールの持っていたクールでファッショナブルなイメージを蘇らせてくれもした。
さて、ここまでは順調にスター街道を歩んでいたわけだが、ややスランプとも思える停滞期が訪れることに。95年のアルバム『Circus』と98年の『5』あたりは、そんな真っ只中に発表されている。特に母親が病床にあった時期にレコーディングされた『Circus』は、もっとも激しくロックしている作品でありながらも、どこかしら精彩や閃きに欠けていた。一方の、母親が亡くなってからレコーディングされた『5』は、よりヴァラエティーに富んではいるものの、こちらも散漫な印象が拭えない。しかし、後者に関してはリリース後かなりの時間を経てからカットされた第4弾シングル“Fly Away”によって、じわじわと火が点きはじめる。強力なフックを持ったこのナンバーが次々とTVCMに起用されてロングセラーを記録。落ち込み気味だったレニーの音楽キャリアを救った曲であり、若いジェネレーションとふたたびコネクトするきっかけを生み出した曲でもある。この時期の活動を振り返って思うのが、〈ひとりロッカー〉の難しさだろう。バンドにはバンドならではの悩みがあるだろうし、メンバー間の統制を取るなど厄介な事情も確かに多いだろうが、レニーのようにひとりきりで活動をしている人間にとっては、インスピレーションを与え合う朋友が傍らにいなかったり、自分の置かれている状況がポジティヴでない時には、それがダイレクトに作品に反映されてしまうことになる。もちろん逆説的に言うならば、それだけ作品が正直だという見方もできるのだが。
その“Fly Away”のヒットの余韻も冷めやらぬうちに、レニーは映画「オースティン・パワーズ・デラックス」のために“American Woman”を新たにレコーディング。カナダのロック・バンド、ゲス・フーの70年代のヒット曲をかなりベタにカヴァーしたヴァージョンなのだが、同曲が彼のロッカーとしての健在ぶりをダメ押しする。さらに2000年のベスト盤『Greatest Hits』に収録された新曲“Again”で、ミッドテンポの感傷的なバラードを歌えるシンガーとしての魅力もアピールし、これまた大ヒットとなった。
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