幅広いリスナーに聴かれるべき!
〈クラブ・ジャズ〉の解釈が比較的オーセンティックなライヴ・バンドを含む方向へと推移してきたことにより、ジャズやクラブ・ジャズといった言葉の用法自体が従来とはガラリと変わった。一方、正統派とされるオーセンティックな作品は女性シンガーを中心に豊作だったが、こちらもポップスとして受容されるべきものが急増中。いずれにせよ、そこにある〈ジャズ〉という記号をどう捉えるか、聴く側のマナーと理解度が求められるようになってきたようだ。
(出嶌)
BRANDON ROSS 『Puppet』 intoxicate
カサンドラ・ウィルソンやキップ・ハンラハンの諸作でお馴染みのギタリストながら、ここでの無垢な歌とゆらめく甘美な音像はいわゆるジャズの範疇を超越。シンガー・ソングライター的なジャズ作品が目立った2007年だが、本作はさらにその先へと向かっているのかも。
(岡本)
NORAH JONES 『Not Too Late』 Blue Note
フォロワーの登場も後を絶たないなか、本人はこれまで以上にポップなサウンドを展開。ワイクリフ・ジョンやアヌーシュカ・シャンカールとの共演、女優業への進出など新たなトピックも多かったが、変わることのない歌声の自然体ぶりは貫禄すら漂わせている。
(岡本)
MARIO BIONDI AND THE HIGH FIVE QUINTET 『Handful Of Soul』 Schema
クラブ的な文脈からイタリアン・ジャズが世界的な注目を集めた2007年、その最高峰は人気の男性シンガーが、ファブリツィオ・ボッソらを従えて放った今作だろう。老舗のスケーマが改めて脚光を浴びるきっかけにもなった。
(出嶌)
akiko 『Vida』 Verve/ユニバーサル
高品質なボサノヴァ作品が多くリリースされるなか、彼女が届けてくれた2007年最高のブラジリアン・アルバム。〈+2〉の面々と奏でるボッサや新世代的なダンス・ナンバーはどれもしなやかで、彼女の新生面が見事に引き出されていた。〈+2〉と共演した〈フジロック〉のライヴも話題に!
(岡本)
ELIZABETH SHEPHERD TRIO 『Start To Move』 Do Right!
ハード・バップ再評価など、より本格派なサウンドが求められた2007年のクラブ・ジャズ界は、この才女を見落とさなかった。モーダルな4ビートからファンクにブラジリアンと、いま求められる要素が詰まった本作はシーンの象徴ともいえる傑作だった。
(岡本)
MICHAEL BRECKER 『Pilgrimage』 Emarcy
まさかの訃報に耳を疑ったが、パット・メセニーやハービー・ハンコックらの溌剌とした演奏を配した変わらぬテナーの響きが楽しめる内容は遺作とは思えないどころか、2007年屈指のスタンダード・ジャズ作品だった。初心者はここから故人の偉大な足跡を辿るべし!
(岡本)
ROBERT GLASPER 『In My Element』 Blue Note
ヒップホップ作品でも演奏する鍵盤奏者らしく、〈ジャズmeetsヒップホップ〉としての理解度は頭ひとつ抜き出ている彼。ハービー・ハンコックとレディオヘッドを繋げてカヴァーするセンスも、その世代ならではのものだろう。新しいジャズマン像を感じさせた一作だ。
(吉村)